糸
※隻眼の残像のネタバレを含みます※
※嘔吐表現があります※
※高明視点のつもり※
「澪!」
『はい!!』
そう言って彼女は助手席から立ち上がって、先程由衣さんが落とした拳銃を構えた。後ろにいる敢助君が「何する気だ」と叫んでいるが、先日東条先輩から銃の腕が確かであることは聞いている。警察学校に出入りしていた際に、教官から忖度無しのお墨付きを貰っているとを。だからそれを信用して、撃ってもらった。
彼女の弾は、真っ直ぐ、犯人である彼が暴走させた車の排出口へと入り込んだ。
車は爆発し、暴走は止まった。
『…ハァ……っハア………』
澪はすぐに車から飛び出して、地面に跪いた。肩で息をしながら。
「おい!一般人が銃撃って危ねぇだろ!!」
『…ハァ……ッ…』
「…おい、どうした?」
『…っうぇ……グェ、ぇ…ッ!!』
やはり助手席に乗ったのがいけなかったのだろう。
乗った時、急いでいた。助手席に乗りたくありません、なんて言える空気ではなかった。後ろに乗るようにと伝えたが、「そんなこと言ってる場合じゃありませんから」と彼女は強がった。
乗って直ぐに顔が強ばっていたのに。そう言った澪の手は震えていたのに。
車を走らせている最中も、ずっと口を抑えていたのに。
「敢助君。退いてください」
「あ、あぁ…」
『…ぅえ、ゲホッ!ぅ、えぇえ…!!』
「澪、ゆっくり息を吐いて」
彼女の隣に座り込み、背中を優しく、優しく撫でて、もう片方の手で彼女の手を握る。
汚れると首を横に振る澪に「気にしないで」と言い、深呼吸するように伝える。
だんだん嘔吐も落ち着いてきた頃、誰かが先程の公安刑事に伝えたのか、彼が水とタオルを持ってきてくれた。水を受け取り、澪に口を濯ぐ様に言うと、まだガクガクと震えている手でそれを受け取って口に含み、軽く濯いでコップの中に吐き出した。
『たか、あきさ……おか…ぁ、さん、が…』
「…ゆっくり深呼吸して。大丈夫。大丈夫だから」
コップを地面に置いて、抱きしめて背中をゆっくり優しく撫でる。震えながらも背中に腕を回して、スーツを強く握ったのが分かる。
『おかぁ、さん…が、…となり、で……』
「澪は何も見てないんだよ」
『まっかに…つぶれ、て……あたま、が、…』
「何も見てない。澪は何も知らない。大丈夫。」
『ぉ、が…ぁ…』
ふっ、とスーツを握っていた感覚が無くなったかと思えば、彼女は糸が切れたようにガクッと気を失った。後ろに倒れそうになった澪の頭を抑える。
「…澪?……澪!?澪!!敢助君!救急車を!急いで!!」
「わ、わかった…!」
「澪!澪!!」
頬を軽く叩きながら呼びかけるも返事はなく、閉じた目から溢れてきた涙と開いたままの口から唾液が垂れる。
荒いが呼吸はしている。気を失っただけのようだが、その原因がまずい。彼女の一番のトラウマである、母親の死因だ。フラッシュバックのように当時の記憶が駆け巡ったのだろう。
自分の運転も原因の一つだろう。乗りたくない助手席に乗っていて、あんなに荒い運転をすれば、事故の記憶は呼び覚まされる。
「…っ、…ごめんなさい」
守れなくて。
その気持ちで、気を失った彼女を強く抱き締めた。
澪は救急車で運ばれて行った。付き添いには公安の刑事が行った。
その後すぐに無茶をして足の傷が開いたことで、病院から抜け出していた事を知られてしまい、自分も病院へ連れていかれた。
数日後。絶対安静を言い渡され、完治するまでは車椅子での生活になった。同じ病院に運ばれた澪はまだ目を覚まさない。
「それにしても、珠雨ちゃんもここに入院しているなんてね」
「体調が悪化したんだっけか。大丈夫なのか?」
「えぇ。まだ目を覚ましていません」
二人には「東条澪 = 安室珠雨」であることは絶対秘密なので、捜査前に体調を崩してここに入院していると伝えている。
公安刑事から医者に話が通っているのか、彼女への面会は条件が掛けられていた。条件とは言うが、実際は特定の人物以外の面会を拒否しているらしい。
許可された人物は父親である東条先輩と、自分と、二,三名程の公安刑事のみ。ただ、昨日面会に来た東条先輩に無理を言って、今日だけ敢助君と由衣さんの面会許可を貰った。それを伝えると、「だったら顔だけ見て帰るか」と敢助君の一言で彼女の病室へと三人で向かう。
ノックをすれば、男性の声で「はい」と聞こえる。おそらく面会中の公安刑事だろう。そのままドアを開ける。
そこには、ノックに対して返答しただろう刑事と、今診察が終わって出ていこうとしていた医者と看護師。そしてベッドに座っている澪がいた。
「珠雨ちゃん…!目を覚ましたのね!」
「あ、いえ。目は覚ましたのですが」
由衣さんの言葉に、医者が首を振って、澪の方を見た。それを見た彼女は、口を開いて一言だけを発する。
『誰』
その一言で、全てを察した。
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仕事中にふと思いついたけど絶対長くなるからこの終わり方無しだなってなったもの
没案でもとりあえずで書きたかった
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