赤女への復讐

女刑事さんは事件当時のアリバイを各々に聞き出した。

任田さんは買い出しに行って、帰りに真純ちゃんとコナン君、私の3人に会って荷物を持ってもらったと。


「本当なの?」

『袋の中に冷たい缶ビールとか、ジュースとかあったから、買いだめしたものを持ってきたわけじゃなさそうだった』

「うん。袋に水滴も付いてたしね」

「どうして三人は森の中に?」

「色々あって、森の中を散策してたんだよ。常に三人一緒だったよ」


峰岸さんは昼食の後片付けと、夕飯の下ごしらえをキッチンに籠って一人でやっていたと。途中、キッチンの扉越しに蘭ちゃんと園子ちゃんと会話して、二人はちゃんと返答もあったから録音テープでは無いと思うと。


「夕飯は何がいい?って聞かれて、答えたらちゃんと返答返ってきたので…」

「手伝いましょうかって聞いたら、大丈夫大丈夫って答えてたので…キッチンにいたのは本当だと思います」

「その時、澄香さんも居たのよね?」

「いえ、澄香さんは二階の掃除をしてました。掃除機の大きい音や、掃除機が壁とかに当たる音が聞こえてたので…」

「その後、三人でした方が早いと思って二人を呼びにリビングに…その時に、お風呂を覗きました」

「じゃあ…今の話を聞くに、犯行が可能なのは珠美さんって事になるけど」


顎に手を当てて考えた女刑事さん。
話だけ聞くと、確かに峰岸さんにしか犯行は不可能。

ただ、他のことを考えると、河名さんにも犯行が可能になり、それと逆に峰岸さんには犯行が不可能になる。


『いいえ、峰岸さんは無理よ』

「え?」

「キッチンにいる珠美さんと会話したんだろう?その時、蘭君と園子君はリビングにいたんだよな?」

「う、うん…」

『キッチンとリビングって繋がってて、キッチンから出るにはリビングを通らないといけないから。峰岸さんがキッチンから出たのを蘭ちゃん達が気付かないのはおかしいもの。だから、峰岸さんに犯行はほぼ不可能に近いと思う』

「じゃあ一体誰が…」

「赤女しか…いねぇんじゃねぇかな…!」

「赤女って15年前の?」


有名な事件なだけあって、女刑事さんもすぐに赤女の事件が思い浮かんだようだ。


「ああ!この貸別荘に少し前から赤に関連するイタズラが多発してんだ。それも赤女のせいだろうよ!」

「いいえ、それはないわ。赤女と呼ばれてた殺人犯、嶽野駒世の死亡は既に確認されているから」

「え!?」

「その事件の三年後に、この近くの沼から少女の遺体が発見されたの。知ってる?」

「それ、私たちの友人で…」

「そう…実はその沼と同じ場所から、死後三年は経っていると見られる白骨遺体も見つかったのよ。その傍に凶器の包丁も見つかっていたから、赤女本人だろうと」


ただ、赤女と呼ばれた女性は犯行前に自宅に火をつけており私物を焼失させ、長い間DNA鑑定が出来なかったという。
先週、その母親が亡くなり、臍の緒を隠し持っていたことが分かりやっとDNA鑑定が出来たそうだ。そして、臍の緒と白骨遺体のDNAはピッタリ一致し、赤女の死亡が確認された。

つまり、赤女は聡子さんが亡くなる前にこの世には居なくなっていた。


「これは明日マスコミに発表する予定よ。話題の事件だから、その対応に追われて今、長野県警はてんやわんやよ」

『あぁ…』


高明さんがやけに疲れてた原因はそれか。


「?なぁに?」

『いや、なんでも』

「とりあえず、調べが済むまで貴方達三人は自分の部屋で待機していてくれる?」


刑事さんがそう言うと、三人は素直に自分の部屋に戻って行った。順番に調べるとかで、最初は任田さんの部屋に向かった。コナン君と真純ちゃんも刑事さん達について行って、私と蘭ちゃんと園子ちゃんはリビングで待機することに。

ずっと義足付けているのは私はあまり好きでは無いから、義足を外して楽にして待機していた。


「そういえば、安室さんがそういう服着るの珍しいよね」


園子ちゃんが唐突に私の服の話を始める。
この前買った赤い色のオフショルのセーターを着てネックレスも付けていたから、珍しくてずっと話したかったんだとか。


「こんな可愛いオフショルセーターよく見つけたわね。ハイネックだし、腕の部分に大きなリボン…」

「確かに。余り肌露出させないし、アクセサリーも付けないもんね」

『この前、梓さんと買い物に行った時に似合うと思うって言われて買ったんだけど、なかなか着る機会がなくて…折角だしと思ったんだけど……変?』

「ううん!とっても似合ってるよ!ネックレスも梓さんと一緒に?」

『ううん、これは知り合いに貰ったの』

「あんた、可愛いんだから何着ても似合うわよ!そうだ、今度世良さんも呼んで四人で一緒に買い物行かない?」

「いいね!珠雨ちゃんの体調がいい時に行こ!」

『うん』

「お揃いで何かひとつ買ったりとかしてさぁ!」


女の子トークに花を咲かせていると、外は雨が降り始めて雷も鳴り出した。すぐに近くに落ちたのか停電までしてしまった。

結構激しく雷が鳴り響き、かと思えば二階から河名さんの悲鳴が聞こえた。すぐにバタバタと走る足音が聞こえたからコナン君達が駆けつけているんだろう。


「何があったんだろう…」

『気になるなら二人で行っておいでよ』

「一人で大丈夫…?」

『大丈夫だよ』

「行こ、園子!すぐ戻ってくるから、待ってて珠雨ちゃん!」

『行ってらっしゃい』


二人はリビングを抜けて二階へと掛けて行った。ひとりで待っている間何もしないのも暇だしと、腕を使って移動して、一時的な灯りとして使うロウソクを探す。
少し動き回ったあと、外から石が投げ込まれて窓ガラスが割れた。そしてすぐに包丁が飛んできて頬を掠める。それに驚いて動けないでいると、真純ちゃん達が降りてきた。


「珠雨君!!大丈夫か!?」

『あ、うん。少しびっくりしただけ』

「顔、切られたの!?」

「誰にやられたんだ!?」

『窓ガラスが割れたと思ったらすぐに包丁が飛んできて…だから誰かは見えなかった。それより、河名さんは?大丈夫?』

「ああ。何者かに背中を切られた様だが、無事だよ」


停電の暗い部屋で一人は危ないからと、刑事さんの判断で皆でリビングに集まることになったらしい。そこで河名さんの治療もすると。

刑事さん達によって窓ガラスは応急処置で塞がれ、峰岸さんがロウソクを持ってきて灯りを付ける。灯りの近くに河名さんを座らせ、刑事さんが治療箱から消毒液と綿を取り出し、河名さんの背中に充てた。

私は真純ちゃんが同じく治療箱から消毒液と綿を取りだして頬に宛て、ガーゼを貼ってくれた。


『ありがとう。河名さんは、大丈夫?』

「えぇ…」


河名さんは、赤い服を着て包丁を持った女が襲ってきて、それを赤女だと呼んだ。確かに、包丁を持って赤い服を着ていたら赤女ではあるけど。

赤女が死亡したのは確実。
だから別の誰かが赤女と同じ格好をして河名さんを襲ったんだ。


「でも、なんで珠雨君も襲われたんだ?」

『さぁ…ねぇ、真純ちゃん』

「ん?」

『薄谷さんを襲った犯人とトリックは解けたんだよね?』


耳打ちでそう聞くと、真純ちゃんは自信満々に頷いた。


「ああ。ただ、そうなると君を襲った犯人が…」

『だよね』

「とりあえず、迎えの車は呼んだからそれまで皆ここで待機してて。君と、コナン君は付いてきて」


女刑事さんは部下の二人を私達と一緒にリビングに待機させて、コナン君と真純ちゃんを連れて他の部屋を調べに行った。

暫くして戻ってきた三人に、任田さんと峰岸さんが問い詰めて、犯人が分からないなら赤女だろ、と言っているが犯人は分かってる。薄谷さんを殺した犯人は河名さんだ。

というか、どう考えても河名さんしか犯行が出来ない。しかし、河名さんの背中は一文字にすっぱり切られていて、且つ同時に私が頬を着られている。だから真純ちゃんも「薄谷さんを殺した犯人なら分かる」と発言した。


「え、それ…澄香さんと安室さんを襲った犯人と別人みたいな話し方だけど…」

『別人だよ。薄谷さんを殺害した犯人に、私を襲うことは不可能』

「ああ。蘭君達が浴槽を覗いた時、既に薄谷さんの遺体は沈んでいたんだ。それを踏まえると、犯行が可能な人が一人いるだろう?」

「そ、それって…」

「湯加減を見るより前に、二階を一人で掃除してたっていう河名澄香さん。あんなになら、犯行は可能だよ」


ちゃんと捜査をした訳じゃないから、私は事件当時の話から推察したけど、全ての調査に参加していた真純ちゃんがそう言って、コナン君が黙って聞いているのであれば、河名さんで合っているんだろう。

河名さんは二階を掃除していると言っていた時、実は一階にいて、薄谷さんを殺害した。蘭ちゃん達が聞いた掃除機の音や、掃除機が壁にぶつかる音は、今朝、任田さんがバックから出して見せてくれたバットを使ったんだろう。この別荘、エアコンや扇風機、暖房器具も整ってるからそれらと一緒に使えば、それっぽい音は出せる。

調査した時に任田さんも同行でそのバットも見たらしく、バットに何かを張りつけたような跡もあったようだから、張り紙か何かを付けて柱に取り付けて、扇風機か何かで定期的に柱にぶつかるようにしてたんだと思う。


「で、でも、浴槽を覗いた時、遺体なんて無かったよ?」

『お湯が緑色だったからじゃない?私が見た黒いのもお湯の揺れにすこーしあるくらいだったから』

「でも、トマトなんて浮いてなかったわよ」

「浮いてなかっただけだよ」


コナン君が水の入ったガラスポットと真純ちゃんが現場からくすねて来たトマトを持ってきてそう言った。


「このトマトを水に入れるとさ、ほら、沈んじゃうよ。たまにスーパーの野菜売り場とかでやってるよね?」

「確か、糖度が高いトマトは普通のと違って水にしずむってやつよね」

「うん。だからこれと同じように沈んでたんじゃないかな」

「じゃあ、どうやってそのトマトを浮かび上がらせたのよ!?」

『塩』


前もって水の中にトマトが浮かないくらいの量の塩を溶かしておいて、その中にトマトを入れ、後から塩を少し入れれば浮かび上がる。これはバスソルトでも可能。


『だから、蘭ちゃん達に湯船を確認させた後で、蘭ちゃん達より先に浴室に入った河名さんにしか犯行は不可能なの』

「澄香じゃなくても、外部犯かもしれねぇじゃねぇか!」

『外部犯なら、薄谷さんを殺害した後、一人でキッチンにいた峰岸さんも襲われているはず。そもそも、外部犯だとしたら玄関から一番近いリビングとキッチンを先に確認するだろうから、一直線に風呂場に行ったとは考えにくいし』

「で、でも!澄香じゃなくても出来ると思うけど!」

『キッチンで夕飯の下ごしらえをしていた峰岸さんが犯人なら、下ごしらえをしていたのに夕飯が遅いってなってバレちゃうし、そもそも蘭ちゃん達との会話が成立してる。任田さんだとしたら予め買い物をしておくか、急いで犯行に及んでから急いで買い物に行かなきゃならないでしょ?』

「任田さんと会った時、別に息を切らしてなかったし汗もかいてなかった。何よりレシートがあるからちゃんと時間も会うし、この三人の中で特に任田さんは無理だよ」

「だから、この犯行は河名澄香さんにしかできないってわけ」


それに、河名さん。朝は普通に服を来ていたけど、お昼以降ずっと袖を捲っていたから、バスソルトをとかした時に袖にいっぱい付いたんだろう塩を隠すために捲っているしね。
あと、今朝であった時にほかの三人は真純ちゃんの事を男の子だと思って、蘭ちゃんと園子ちゃんのどちらかが妹さんだと思ってたのに、河名さんだけ真純ちゃんが妹だと迷わず事件の写真を渡していたから、今朝、園子ちゃん達が見た赤い服の女性はきっと河名さんで、影から見ていた時の会話を聞いて真純ちゃんが女の子で女子高生探偵だと知ったから。


「そうよ。長い髪のカツラに、赤いレインコートに、赤いブーツ履いて赤女に成りすましたわよ。聡子を見殺しにした、あの卑怯者を炙り出す為にね!!」

「み、見殺しに…?」


河名さんは数年前、刑事さんに事件当時の話を聞いたようで、その話に沼から見つかった聡子さんは赤いコートを着ていたと知らされたらしい。ただ、皆の記憶と真純ちゃんが受け取った事件当時の写真では、聡子さんはベージュのカーディガンを着ていたから、おそらく聡子さんは赤女になりすまして、皆を驚かせようと思った。だから、最初に赤女を見たと言い出し、探しに行く流れにして、皆からわざと逸れ、赤女として驚かせるつもりだったのだと。


「だとしたら、それには協力者が必要でしょ。皆を赤女に扮した聡子の所へ連れていく協力者が」

「それが、薄谷だったのか…!」


数年前からの林檎や薔薇の花びらは、赤女を連想させようとした河名さんのイタズラで。それでも協力者が分からなかったから、自分で赤女になりすましてやっと薄谷さんが引っかかったという。


『確かに気になってたのよ。なんで赤女=聡子さんなんだろうって』

「風呂場でほざいてたわ。約束の場所に聡子がいなくて、怖くなって言い出せなかったって…どうせ森に迷って約束の場所がどこか分からなくなったんでしょうけど、あの時正直にイタズラの事を話していてくれたら聡子は、聡子は死ななかったかもしれないのに…!!」

「ちょ、ちょっと待って!じゃあ、あなたと安室さんを襲った犯人は誰なの!?」

『…さぁ……?』

「私の犯行に気づいた任田君か、珠美じゃないの?」


それに対して二人は全力で否定した。

確かに二人では無いと思う。あの時外は雨降ってた。窓ガラスは外から割られたわけだから、犯人は外に出たはずだけど、二人とも足元濡れてなかったし。

それにその二人だったら私を襲う理由が無い。


「赤女事件に深く関わっているのに生死が語られていない女が一人、いるだろ?」

『生死が語られてない…あ、もしかして…』


犯人の名前を言おうと口を開いたら、さっき割れた窓ガラスとは別のガラスが外から割られた。外の風が室内に入り、ロウソクの灯りは全て消え、髪の長い女性が包丁を振りかぶってこちらに飛び付いてきていた。目を強く瞑って身構えるも、いつまで経っても痛みが来ず、おそるおそる目を開けると私は誰かに抱きしめられていた。


「大丈夫ですか、珠雨」

『…た、高明さん…』


私のことを抱きしめていたのは、高明さん。ずっといた女刑事さんと同じ班らしく、気になることがあるからと別行動で調べてたから、来るのが遅くなったと。

後ろを見ると、別の誰かが犯人の包丁を抑えていた。


「怪我はありませんか?……おや、」


流石に怖かったから、ぎゅぅって抱きついたら少しびっくりしたような声が聞こえて、その後すぐに頭を優しく撫でられた。


「お姉さんどうしたの?」

「怖かった様ですね。珠雨は表情がなかなか顔に出ませんから」

「そっか…ん?諸伏警部、珠雨お姉さんと知り合いなの?」


頷くと、高明さんが「彼女の知人が、私の先輩でして」と説明してくれた。

もう落ち着いたのと、少し恥ずかしい気持ちが強くて顔を上げると、ニコニコと笑顔の高明さんと目が合う。「もう大丈夫ですから」というと、最後にもう一回だけ頭を撫でて、高明さんは河名さんと包丁で襲いかかってきた女性をパトカーに乗せるために離れて、すぐに戻ってきた。私の体を考慮して事件後の事情聴取はここでするらしい。


『あの襲いかかってきた人って、愛人ですか?』

「……私のですか?」

『違いますよ?15年前に殺害された赤女被害者の男性の愛人ですか』


どうして急に頭バカになるんだろう、この人。


「あぁ。ええ、そうです。浮気とはいえ、愛する人を目の前で惨殺され、15年間ずっと赤女への復讐の為に生きてきて、今日その赤い服を着た貴方を見て、襲いかかって来たのでしょう」

「多分、赤い服着てる人を片っ端から襲ってたんじゃないかなぁ」


真純ちゃんの言葉に、高明さんが頷いた。赤い服って言っても、真っ赤じゃないのに。赤女に扮した河名さんはともかく、どうして私もなんだ。納得がいかない。


『とても愛してたんでしょうね』

「えぇ…珠雨はこんなこと、しないでくださいね?」

『努力します』


高明さんは私の頭を数回撫でて、女刑事さんのところに行った。事情聴取を始めるんだって。

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