お風呂

「予想はしてたけど、やっぱり何も無いね」

『うーん…日も落ちてきてるし、別荘に戻る?』

「そうだな…」


色々なところを見て回ったけど、やはりこれといった物はなく、赤女の手がかりどころか、この貸別荘を荒らしている犯人の痕跡すらなかった。


『ねぇ、ひとつ気になる事があるんだけど』

「なんだ?」

『どうしてあの時、薄谷さんは赤い女の人の事を聡子さんだと思ったんだろう』

「…確かに、僕もそれが気になってるんだよな…」


15年前の殺人事件の犯人が赤女と呼ばれていて、それが聡子さんだとそもそも年齢が合わない。
聡子さんが亡くなったのは事件の三年後。当時高校生だって言っていたから、三年前は中学1〜3年生のはず。赤女は浮気した旦那さんを殺害した訳だから、そもそも聡子さんは婚姻可能な年齢ですらない。

だから、この近くで「赤い女の人」と聞いて思い浮かぶのは「赤女」で、どう考えても「聡子さん」には繋がらない。


『もしかして、聡子さんが亡くなった事と関係ある?』

「赤女に襲われたかもとは言っていたけど…」

「今のところなんとも言えないね」


三人でうんうん唸りながら別荘へ向かって歩いていると、後ろから任田さんが買い出しから帰ってきていた。少し荷物が多くて大変そうだから、荷物を分担して持ち、一緒に別荘へ帰る。

別荘へ戻ると、峰岸さんが出迎えに来てくれた。
蘭ちゃん達は何してるのかを聞くと、園子ちゃんと河名さんの3人で、掃除が終わったからお風呂に入っているんだそうで。


「ちょっと!何よこれ!!」

「やだ、きも…!」


中に入ろうとしたら河名さんの声が聞こえた。お風呂に入ってるって言ってたから、おそらく浴槽の方だろう。
真純ちゃんとコナン君が急いで向かい、その後ろを任田さんが。私と峰岸さんは買い出しの袋をリビングに置いてから、浴槽の方へと向かった。


『どうしたの?』

「お風呂に入ろうとしたら、トマトが…」

「赤い…」

『ごめん、真純ちゃん。見せて』

「あ、あぁ…」


真純ちゃんに少し横にズレてもらって、お風呂場を覗く。少し蓋が空いた浴槽から大量のトマトが浮かんでいるのが見える。お湯が緑なのは入浴剤だろうか。


『…ん?』

「どうした、珠雨君」

『ねぇ、薄谷さんは?』

「え?あ…そ、そういえばお昼以降見てないわね…お風呂と、トイレの掃除するって言ったっきり…任田君のところに薄谷君来たりしてない?」

「き、来てねぇぞ」

『真純ちゃん、浴槽の中にトマト以外の何かがある。トマトの隙間に黒いのが見えた』

「何!?」


それを聞くと、すぐにコナン君が蓋を持ち上げ、真純ちゃんが浴槽の中に腕を突っ込んだ。少し浴槽を探った後に何かを見つけたらしい。その何かを真純ちゃんは持ち上げた。


「!!」

『…息は?』

「無い…死んでるよ」


中から出てきたのは、薄谷さんの遺体だった。
私が見た黒い何かは、薄谷さんと一緒に沈んでいた小さめのダンベルで、真純ちゃんはそれも一緒に引き上げた。

すぐに警察へ連絡し、お風呂に入ろうとしていた三人もすぐに着替えさせた。ずっと裸にバスタオルの状態だとこの季節じゃなくても風邪引くし。
薄谷さんの遺体は浴槽の床に置き、リビングに待機。暫くして女刑事さんが来た。


『コナン君さぁ…』

「え、えへへ…」

『思春期の中学生じゃないんだから…』


悲鳴を聞いて浴槽に入ったまではよかったものの、蘭ちゃんが体に巻いていたバスタオルの締め付けが緩かったらしく、タオルがはだけたのを見たコナン君は鼻血を出した。


『君、17歳にしては流石に純粋が過ぎると思うんだけど』

「いいだろ、別に…」

『お姉さん心配だわ』

「…同い年だろ」

『まだ実年齢言ってないよね?』

「えっ」

『君より年上よ、私』


ぽかーんと口を開けているコナン君の鼻に、ティッシュを詰め込む。なんて顔しているのよ。

年上と言っても大きく差があるわけじゃない。6つしか変わらない。


「コナン君、どうしたの?鼻血?」

「あ、うん、ちょっと…」

『知り合い?』

「えぇ。毛利さんとコナン君にはよくお世話になってて」


コナン君の鼻にティッシュがあるのを見た女刑事さんが、心配して声をかけてきた。名前を聞かれる前に、名指して声をかけたってことは、知り合いなんだろう。

本当、警察関係者によく知り合いがいる子供だこと。

刑事さんの調べでは、薄谷さんは後頭部を鈍器のようなもので殴られた後、湯船に沈められて溺死したらしい。


「被害者は掃除をやっていたそうだけど」

「はい。このお風呂場と、トイレの掃除を…」


峰岸さんが言うには、ここに来た時の役割が決まっていて、薄谷さんがお風呂とトイレの掃除、河名さんが廊下や部屋の掃除、峰岸さんが食事担当で、任田さんが主に買い出しを担当して、自分の役割が終わったら誰かのを手伝うようにしているらしい。そして、今日もその役割通りに各々行動していた。

最後に薄谷さんを見たのは昼食後に、自分の役割をしに行くと言って立った時で、それ以降誰も見ていないと言う。ただ、掃除の途中で河名さんがお風呂場を覗いた時には既にいなかったと。


「風呂場から湯気が出ていたから、薄谷君がお湯をはってくれたのかなって思って。あの子達と一緒にお風呂場覗きました」

「その時湯船の中も見た?」

「はい、湯加減を見るために蓋を開けて」

「でもその時、湯船にトマトなんて浮いてなかったよ?」


湯船を確認後、掃除を済ませて3人で一番風呂に入ろうとしたらトマトがぎっしりあったのを河名さんが見つけた。


『そして真純ちゃんとコナン君、任田さん、私と峰岸さんの順番で駆けつけて、任田さんは気を使って外で待っていてくれて。私がトマトの隙間から黒いのがあるって言って真純ちゃんが浴槽の中に手を突っ込んで調べたら』

「薄谷さんの遺体を見つけたんだ」

「それまでは遺体は見えなかったのね?」

「水面はトマトで覆われてたし、お湯もバスソルトで緑色だったし…珠雨君が言わなかったらトマトを全部取り除くまで全く気付かなかったと思うよ」

「よく見つけたわね」

『真純ちゃんも言ってたけど、お湯はバスソルトで緑色でしょう。その中にもやもや〜って黒いのが見えたの。浮かんでないトマトの影かもと思ったけど、薄谷さんがお昼以降見当たらないって聞いて、真純ちゃんに確認してもらったの』


犯人は薄谷さんの後頭部を殴り、お風呂に沈めた後にダンベルで浮かんでこないようにし、更にトマトで遺体を隠したということ。蘭ちゃんと園子ちゃんはそもそも薄谷さんを殺す動機も何も無いとして、河名さんが一番怪しいけど…聞いたら一番最初に浴槽に入ったのも河名さんで、一緒に入ろうって言い出したのも河名さんらしいし。

でも流石にあれだけの大量のトマトを持ってお風呂に入ったらバレるから…バスタオル一枚だし、河名さん細いから隠し持ってたとしても体型でバレるし。

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