クリスマスプレゼント
事件の後、零さんがお父さんに呼ばれていたらしいのだけど、私が一緒にいることを聞くとついでだから一緒に来るように言われた。ついでってことは特に私に指示がある訳じゃないんでしょう。零さんに聞いても連れてくるように言われただけで分からないと首を傾げられて、二人で何かと思いながらお父さんのいる執務室まで向かう。
零さんを呼び出したのは今後の指示とかだからと外で待つように言われて、ドアの外で待機。
「珠雨さん」
『眞鍋さん、元気?』
「ええ、まあ」
東京サミットの事件で怪我をして監視役を降りることになった眞鍋さんが、足を引きづりながらエレベーターから降りてきた。命に別状は無いけど大怪我だったから今は事務仕事しながらリハビリを頑張ってる。足の骨折と腕の捻挫だけで済んだのが奇跡だよホントに。
「もうすぐ自分の後任が来るでしょう?仲良くなれそうですか?」
『まだ話したことないよ』
「顔合わせいつですっけ」
『来週だったかな。私がテストあるから空いてるのが来週からなんだよね』
「学生も大変ですね」
眞鍋さんの後任の人は名前が珍しいにも程があって、全然覚えられない。ふもなんとかって苗字。後任候補の人は何人かいたんだけど、あまり係わりがなかった人達だったから眞鍋さんに聞いたらその人となら仲良くなれると思うって言われて即決した。だから顔合わせが来週に控えてるのよね。
眞鍋さんと話してたら、零さんが部屋から出てきて「呼ばれてるよ」って手招きされた。眞鍋さんにまたねって手を振って部屋に入ると、お父さんが足元に袋があるのかガサゴソ音を鳴らして取り出していた。
『なんの御用時?』
「これをね」
『…なに?』
「諸伏君からクリスマスプレゼントだって」
『!』
「お手伝いさんが送り先が分からないからって、持ってきてくれたんだよ」
渡されたのは黄色いリボンが付いた赤い布袋。受け取って中を覗くと、紺色のマフラーと白のモコモコした手袋が入ってた。
『可愛い手袋だぁ…』
「そのマフラー、大きいからひざ掛けにも出来るそうだよ」
『あ、ほんとだ』
「授業中のひざ掛けとかにもいいんじゃないかな」
その言葉に確かにと頷く。学校用のひざ掛けが少し大きくて変えようか迷ってたのよね。通学するには特に問題ないのだけど、授業中ちょっと気になって話半分の時あってたから、冬限定になるけど授業中のひざ掛けはこれにしようかな。
お父さんの用事はそれだけのようで、帰ってゆっくりしていいよと言われ部屋を出る。零さんにどんな話をしたのかと聞かれて貰ったプレゼントを見せると「あぁ…」と少し笑った。
「ちゃんと仲良くしてて何よりだよ」
『ちゃんとずっと仲良いです』
「ご馳走様です」
そう言って零さんは両手を合わせて軽く頭を下げた。
でも零さんくらいの高学歴高収入高身長イケメンなら、すぐに彼女の一人や二人すぐに作れそうだから彼女くらいは作ればいいのに。そう言うと大切に出来る時間が無いし、優先順位が彼女ではなく国だからと返ってきた。まあ、確かにそうだ。
「それに嫌だろ、彼氏がハニトラしてるって知ったら」
『……うーん…』
「え、澪さん気にしない方?」
『まあ、特には…身近にいすぎたからかな…』
「僕が澪さんにとって悪影響すぎる…」
周りが特殊すぎるのよね私。警察もいるし潜入捜査官もいるし、小さくなった探偵も、小さくなった科学者もいるし。FBIもCIAもいる。
そんな人達に囲まれてたらそれが日常になるから、あまり気にしなくなるのも仕方ないと思う。少なくとも私はそうだし。
そろそろ帰ろうかと零さんが車椅子を押してくれて、貰った手袋とマフラーを早速付けて外に出る。もふもふで暖かい。
『んふふ』
「澪さんは何か贈った?」
『コート贈った。この前似合いそうなの見つけて勢いで買っちゃったやつ』
「ああ、なんか…少し前に三万ねだってきたやつ?」
『それは私のコート』
人の金で彼氏へのプレゼント買うわけがないでしょう。
駐車場に着き、車椅子から車の後部座席に移動する。折りたたんだ車椅子は後ろのトランクへと入れられた。
「ところで僕へのクリスマスプレゼントとかはないの?」
『お家にあるよ』
「えっ、本当?」
『うん』
運転席に座って聞いてきた零さんは、私の返答が予想外だったのかきょとんとした顔で後ろを振り向いた。
「嫌われてるからてっきり無いものだと…」
『?零さん好きだよ、私?』
「え、そうなの?」
『好きじゃなきゃこんなに長く友達してない』
それを聞くと零さんは「そっかぁ…」と嬉しそうにエンジンを掛けて、車を発進させた。それからはどこか嬉しそうににこにこしてたから、本当に嫌われてると思ってたんだろうなぁ。
安室透が嫌なだけで、降谷零は好きだよちゃんと。
『で、私へのプレゼントは?』
「あっ」
そういうとこだぞ。
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