メモ紙の場所

あれから数十分程だったけどまだ紙は見つからない。まあ、簡単に見つかったら次郎吉さんもわざわざこんな人数呼ばないって話だよね。


「珠雨さん、少しいいかな」

『なに、昴さん?』


ちょいちょいって手招きされて昴さんに呼ばれる。近くに行くと小声で彼は話を始めた。


「実は夕方頃に誰かに写真を撮られてしまってね」

『ストーカー?』

「いや、恐らく今回の怪盗だろう。撮られる事自体は問題ないんだが、ちょうど首元を緩めていた時でね」

『写った可能性があるってこと?』

「そういう事だ」


自分の首元を指さしてそう言った。
正面から撮られてるのなら大丈夫なんだけど、視線を上から感じたらしく、おそらく斜め上から撮影をされているからチョーカー型変声機が写ってしまったかもしれないと、昴さんは考えているらしい。


「そこで、変装を見破るのが得意なお嬢の出番というわけだ」

『えー』

「写っていれば、「沖矢昴」が「赤井秀一」だという事がバレて組織に狙われるだろう。そうなれば、「沖矢昴」と仲が良いお嬢も不審がられて、バーボンが困るんじゃないか?」

『…今からでも絶交しない?』

「君と俺は切れない友の縁で結ばれているだろう?」

『……くっそ…』


ニコニコと笑顔で言う昴さんに、ため息を吐いて了承した。つまりは変装したキッドが誰なのかを教えろってことだろうし、教えるくらいなら大丈夫だろう。秀一さんの事だから皆の前で「あの人怪盗キッドです!」なんてこともしないだろうし。もししても困るのは秀一さんだし。

そんな話をしていればトイレに行っていた他男性陣が奥さんと共に戻ってきた。
昴さんの隣を横切ろうとした奥さんが、鼻を少しすんすんさせて「あら」と足を止めた。


「お醤油と…みりんの匂いね。肉じゃがかしら?」


昴さんの袖からその匂いがするらしく、お姉ちゃんが言うには来る前に肉じゃがを作って博士のところにお裾分けしに来たから、袖口に調味料が跳ねたんじゃないかって。

ほんと、沖矢昴になってから料理好きになったよねぇ。


「私も肉じゃがは得意料理で、主人の大好物ですから、主人のお義母様直々に教わったんですのよ!」

『へぇ〜…』


そういえば高明さんも肉じゃがよく食べるな。作るの苦手だから滅多に作らないけど、もしかして好きなのかな。


「お料理と言えば、主人は料理好きな私の為に何冊もお料理の本を買ってきましたから…その本なら全て穴が空くほど読みました」

「じゃ、料理本はスルーして良さそうだな」

『ホントに全部読んだの?』

「ええ、全て。和食から洋食、お菓子なんかも作りますから」


ニコニコと話す奥さんに、お姉ちゃんが「珠雨と一緒じゃない」と口を挟んだ。「苦手料理教えてもらえば?」と付け加えると、奥さんが料理が好きなのかと聞いてくる。趣味程度にする事と、肉じゃがは苦手料理だと伝えると、終わったらメモに肉じゃがを作るコツを教えてくれる事になった。


『ちなみに聞くけど料理本ってどこ?』

「あそこにまとめておるよ」


次郎吉さんが指さした場所に行くと、十数冊程の料理本が置いてあった。


『博士〜』

「なんじゃ?」

『これ取って』

「ああ、低すぎて取れんのか」


近くにいた博士を読んで料理本を取ってもらう。近くの机に置いてもらって、お礼を言うと「何故料理本?」と聞かれた。まあ、今「料理本は見なくていいよ」の流れだったもんね。


『奥さんが普段見ないページにメモ用紙はあるんだよね?』

「そうじゃな」

『肉じゃがは旦那さんのお義母様から教わったんだよね』

「あぁ、らしいのぉ」

『じゃあ、肉じゃがのページは奥さん見ないから、そこに挟まってる可能性が高いよね?』

「ほぉ〜、なるほど。じゃが、ページをパラパラと捲っていれば見つかるはずじゃないのか?相談役のスタッフ総出で探したそうじゃないか」

『何かタネがあるんじゃない?』


そう言えば博士は顎に手を当てて「なんじゃろうか…」首を傾げた。


『あと指の絆創膏の位置違うよ』

「え?……いや早ぇよ…」


小声で教えれば、少し間を置いて小さくため息を吐かれた。
分かってなかったら、近くに昴さんがいた状態でわざわざ博士に本取るの頼まないよ。

自分の指に巻かれた絆創膏を見て、どれが違うんだと眉を顰めた彼。少し離れたところにいる昴さんと目が合ったから、博士を指させば、わかったと言うように昴さんは頷いた。


「わかんねぇよ、どの指だよ」

『それはわかんない。でも違和感あるから違うんだと思う』

「そーかよ…はぁ〜あ、完璧だと思ったんだけどなぁ…」

『コナン君達にはまだバレてないみたいだから、大丈夫だよ』


昴さんにはバレてるけど。


「…そうだな。ま、何とかなるか」

『今回も盗まないなら言わないから、頑張れ』

「へいへい、どーも」


そう言って小さく咳払いをすると、すぐに博士の声に戻って、本探しに隣の本棚へと移動した。そろそろちゃんと本の中探さないとな、と本が置かれた机の方に向かって、パラパラと捲るのではなく、少し速く捲って一ページずつ本を確認していく。

数冊調べたところで紙が挟まっている本を見つけた。見れば、それは図形やら矢印やらが書かれていておそらくこれだろう。


「見つけたのか?」


後ろから博士が小声で聞いてきた。これ、と指させば「流石だな」と小さく拍手してくれた。


『?見ないの?』

「必要ねーよ。今回は盗みに来たわけじゃなく、売られた喧嘩を買いに来ただけだ。それに、箱の中身はもう知ってる」


そう言う彼に一度開けたのかと聞くと、少し前に偶然旦那さんがあの宝石をスられてたのを、スり返した事があってそれで知っているらしい。


「宝石言葉が愛の言葉だってんで、奥さんへの贈り物とか言ってたぜ」

『宝石言葉?…って、何?』

「ん?宝石言葉知らねぇのか。花言葉は分かるか?それと同じように、宝石にも意味があるんだ」


旦那さんは月長石の宝石言葉は「純粋な愛」だから、奥さんとの思い出の日記の傍に添えておきたいと、その時に聞いたようで。だからきっと箱の中身は宝石とその日記だろうと、彼は言った。

そういえば、この紙が挟まっていたページ。端の下の方が千切られてる。


『あぁ、なるほど。これのせいで見つけられなかったってわけね』

「ん?」

『ここ。千切られてるから、パラパラって捲る時に指に引っかからなくて見つからないようになってる』

「おー、確かに…」

『これ、そろそろコナン君も気がつくんじゃない?』


ふと見れば、コナン君は顎に手を当てて今すぐにでも思いつきそうなくらい考え込んでいる。それを見て「そろそろか」と言ったキッドは、コナン君の近くで本を探す振りを始めた。

これ、今言ってもいいけどもう分かりかけてる感じだし、コナン君にあげようかな。

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