電話
昨日、奥さんに教えてもらった肉じゃがを作ってる最中に電話が鳴った。「安室珠雨」として使ってる携帯じゃなく、「東条澪」として使っているものが。
『はい、東条』
《私だ》
『…は?』
第一声「私だ」って言われても分からないんだけど。
《…父だよ》
『カッコつけないで普通にそう言えばいいのに』
《いつもの癖で》
『直接電話して来て何?』
《「若狭留美」という人物を知っているか聞きたくてね》
『……はぁん?』
珍しく誰かを通したわけじゃなく、直接連絡して来たと思えば女の人の名前を娘に聞くってどうなんだろう。
なんでも黒田のおじ様が気にしてるとかで、もしかしたら私と関わってるかもしれないらしく電話してきたんだとか。
『聞いたことないけど』
《そうか…ないならいいんだ》
『黒田のおじ様が気になるんだったら何かあるんでしょ。詳細頂戴』
《いや、そう言われても本人も結構曖昧らしくてね…私も詳細は聞いてないんだよ》
今朝連絡が来て、「知っているか」と聞かれ知らないと答えたら「そうか」と一言。私が知ってるかだけ聞いて欲しいと言われたんだとか。
当の本人は今日会議やらなんやらが詰まっているから連絡すら出来ないそうで。公安で調べようかとも聞いたらしいけど、いらないと断られたそうだ。
『用心だけしてればいい?』
《うん。降谷君にも伝えておくから。今日彼は何を?》
『安室透として喫茶店でバイト。私も後で行く』
《そっか。体調に気をつけて仲良くね》
『ん、』
短く返すとそのまま通話は切られた。
こんな連絡も普通は出来ないくらい忙しい立場なのは分かっているけど、久しぶりの親子の会話が仕事ってどうなのよ。本当に。
『…寂しい“家族”』
「クゥー…?」
『ん?あ、お散歩の時間か。行こっか、少し待っててね』
ボソッと呟いた私の横を、ハロちゃんが心配そうにとことこ歩いて来る。時計を見れば朝の散歩の時間だ。
作っていた肉じゃがはほぼ完成しているから、タッパーに詰めて、軽く片付けしてからハロちゃんにリードを付けて散歩に出る。
玄関を開ければ、零さんと裕也さんとは別で私の見張り役を任されている眞鍋さんと鉢合わせた。多分鉢合わせたと言うよりは、私が家を出たから確認しに来たが正しいんだろう。ハロちゃんを見て「お散歩ですか?」と。
眞鍋さんは一応、在宅勤務の会社員として右隣の部屋を借りている。左隣は零さんが借りてる、組織関連の事を置いてある部屋。私が「高校生」という事で、「友達とか連れてきた時に大変だろ?」って零さんの配慮。
「ハロさんは今日も可愛いね」
「ワンっ!」
「はい、行ってらっしゃい。「お嬢さん」も気をつけて」
『行ってきます』
眞鍋さんに手を振って見送られる。「行ってらっしゃい」って言っても後ろから付いてくるんだよね。だって見張り役だから。
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