もうすぐ修学旅行らしい

「おはよー安室さん!」


学校に着いて門のところで園子ちゃんに声を掛けられた。隣に蘭ちゃんもいて「おはよう」って挨拶される。


「安室さんって本好き?」

『うん、入院中暇だからよく読むけど』

「どんな本読むの?小説とか?」

『小説も読むし…エッセイ本とかも。あ、漫画も少しだけ読むよ』

「へー、意外」

『でもなんでそんな事聞くの?何かご用事?』

「おじ様がまぁたキッド様に喧嘩を吹っかけてさぁ…」


園子ちゃんのお家が所有する図書館に、珍しい本を沢山寄贈してくれたおばあさんがいて、その人が寄贈する条件として三水吉右衛門の絡繰箱を開けて欲しいとお願いして来たらしい。中には亡くなった旦那さんの遺品が入っていて、その開け方が書かれたメモが寄贈した本の中に挟まっているのだけど、自分ではどうも見つけられない。そのメモを見つけて欲しいってお願いをしてきたんだって。

そして、その中に入っている遺品というのが世界最大の月長石と呼ばれる月の記憶、ムーンストーンだという。


『その箱の中身、宝石だけじゃないかもね』

「え?どうして?」

『開けて欲しいだけなら、専門家に頼むのが一番じゃない。他にも大事なものが入っていて、開けてくれた報酬として、その宝石をキッドにあげるつもりかも』

「確かに…他のものってなんだろ」

『思い出の品とかじゃない?婚約指輪とか、交際中におばあさんに貰った物とか』


貰った物って本当に一生大事なものだもの。私も中学生の頃に高明さんに貰ったマフラーは今でもずっと大事に使ってるし、付けてるカチューシャも研二さんから貰った物。車椅子の時に足に掛けてるブランケットは航さんとナタリーがくれた物で、カバンに付けてるキーホルダーは陣平さんがお揃いで買ってくれた。

なんか貰ってばかりだな、私。
あ、でも研二さんから貰ったヘアピンはこの前鍵が掛かって開かない部屋開けるためにお兄ちゃんに壊されたな…仕方ないことだったし、返してもらって一応部屋に飾ってあるけど。

そんな事考えながら三人で教室に行くと、同じクラスの人達に「おはよう」って挨拶される。その内の一人がノートを持って私のところに駆け寄ってきた。今日は授業で当てられる日らしいのだけど、全く分からないんだそうで。


『えっとね……これはこの式を代入するといいよ。あとこれは、これじゃなくてこっち』

「え!ほんと?」

「安室さん俺も教えて…」

『これは問題がこの部分でしょ?だからここからここまでの間にちゃんと答えがあるよ』

「相変わらずすごい人気ね、安室さんは」

「普通に授業出てる私達より頭いいし、教え方も答えは直接教えないのに分かりやすいしね」


まあ、本来成人済みだから高校生で習う範囲は随分と前にやったし、私に教えてくれてた人達と同じやり方やってるだけなんだけど。

陣平さんと景兄はすぐ答え教えてくれてたかな。零さんと航さんは暫く悩んだら教えてくれてた。研二さんと高明さんは絶対教えてくれない。教官達はあれこれヒントくれるんだけど最終的に答えなんだよね。
あの五人の前は生徒の人たちとあまり関わってなかったからあれだけど、一人だけ教えてくれたんだよね。名前なんだったかな。その人に銃も教わったんだよね。

結局朝のHRが始まるまで課題が終わってないだの、塾の課題が分からないだので何人かが私に勉強教えてと言いに来た。朝から学校に来るといつもこうなのよね。

HRが終わり一限が始まる前、一限から移動教室で蘭ちゃんと園子ちゃんの三人で教室に向かう。いつもはここに真純ちゃんもいるけど、今日は事情があって休みだってさっき先生が。


「そういえばもうすぐ修学旅行だけど、珠雨ちゃん来れそう?」

『無理だと思う』

「だよねぇ…お土産何がいい?」

「和菓子とか大丈夫?」

『いいよ気にしないで。修学旅行のお話だけ聞かせて』

「えー?」


そういえばもうそんな時期なのか。確かここの学校の修学旅行は京都だったっけ。
京都かぁ。この前行った時は大きな事件に巻き込まれちゃったし、今度行く時は平和な旅行で行きたいなぁ。


『修学旅行といえば…工藤君は来るのかな』

「あー、どうだろ?一応行事には参加してるけど…」

「安室さんはまだ会ったことないもんね。会ってみたいの?」

『まあ、有名人だし』

「…工藤君のファンだったり?」

『まさかぁ』

「まさかぁ」


笑いながら蘭ちゃんと同時に言葉を発した。お互いに無いでしょって本心からの言葉だろうそれに、園子ちゃんが吹き出した。


「二人して否定したら工藤君が流石に可哀想よ」

『だって本当だもん』

「それに珠雨ちゃん、好きな人いるって前言ってたし。それが会ったことない新一なわけないし」

「え!?!?そうなの!?!?」


蘭ちゃんの言葉に園子ちゃんが勢いよく反応した。びっくりするくらい大きな声だったから、廊下にいたほとんどの人が私達の方を向いた。


「あ、安室さん好きな人いんの!?」

『う、うん、まぁ…』

「誰!?私達知ってる人!?」

『園子ちゃんはわかんない…けど、蘭ちゃんは知ってる人…』

「あ、そうなんだ?」


ぐいぐいと食い気味に聞いてくる園子ちゃんを、蘭ちゃんが止めながら「誰だろ?」と首を傾げる。蘭ちゃんって学校の交友関係だけじゃなく小五郎さんのお仕事で知り合った人とかお友達とかも沢山いるから、記憶を片っ端から辿っていってるみたい。

「この人?」って聞かれても絶対「そうだよ」って言わないけどね。

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