ロープをあれこれしてそうする

お兄ちゃん達が全て分かったと目暮警部達に伝えて実践してみせると言い、全員をステージに集めた。

被害者役として高木刑事にステージに上がってもらい、スポットライトが付いたバーにロープを吊るしてその片方を高木刑事の体に結びつけた。もう片方のロープの途中部分で輪っかを二つ作り、片方の輪にもう片方を潜らせるように二回巻き付けて、巻き付けた方の輪を捻りながらもう片方の輪の中に入れ込む。輪っかの下に垂れているロープを少し通して大きな輪っかにし、それを近くの座席の手すりに引っ掛ける。
輪っかにならなかったところを同じ座席の手すりに引っ掛けるように通して同じ輪っかを作り、出来た大きな輪っかを少し離れた場所の座席の手すりに引っ掛けた。そしてまた同じ工程で輪っかを作り、出来た大きな輪っかは離れた場所の座席の手すりに持っていき、最後に作った小さな輪の場所へ戻り余ったロープを引けば、成人男性を一人の人間の力だけで吊り上げることが出来る装置が出来上がる。

この中で一番非力そうだからと、兄は園子ちゃんを指名して引っ張るようにお願いした。
本来なら梓さんなんだろうけど、中身がベルモットお姉さんだから頼まなかったんだろうな。

頼まれた園子ちゃんは「持ち上がらないと思う」といいながら力いっぱいロープを引っ張る。そうすると、高木刑事が少しだけ浮いた。


「なんで!?」

「滑車の原理…ですよね、沖矢さん?」


兄が聞くと、昴さんは頷いた。要するに途中途中で作った小さな輪が滑車の役目をしていて、ロープだから摩擦の影響で本来滑車のように八倍とは行かないけど二倍、四倍の力でロープを引くことが出来る。だから園子ちゃんでも高木刑事を持ち上げることが出来た。


「なお、これは「輸送結び」と言い、運送業者が積荷を固定する時に使うロープの結び方。つまり、波土さんを吊り上げた犯人として一番疑わしいのは、若い頃運送業者でバイトをしていたという円城佳苗さん。貴女ということになります」

『あの輸送結びって、結び目が付かなくて解く時楽なんだけど、真新しいロープとかだと跡が付いちゃうから分かるんだよね』

「その跡を隠すために、束ねて工具箱の近くに置いたってこと?」

『多分ね。束ねられて工具箱の傍にあったロープの大きさが私の腕と同じ長さだったから、一番小柄なマネージャーさんが吊り上げた犯人だと思う』

「え?どうして腕の長さで小柄な人って分かるの?」

『足の大きさって、その人の肘から手首までの長さと同じなんだよ』

「そうなんだ…」


私は証拠が無かったけど、コナン君達はちゃんと事情聴取とか聞いていたから見つけていたようで。
何かの拍子に見た波土さんの免許証と、記者の人が今日リハーサル前に撮った波土さんの写真を見比べたらサークルレンズで目を大きく見せていることが分かったらしく、その片方がマネージャーさんの背中に付いていることを指摘した。吊り上げた時にでも付いたんだろうそれを目暮警部が確認し、署で詳しく聞く為に同行する様求めた。彼女は否定したり同行を拒否したりすること無く、大人しく目暮警部に連行されようとしたのを見た社長さんが「何故殺したのか」を聞いた。そりゃ高校の時から支え続けた彼女が殺す動機が分からないから、当然の行為ではある。

ただ、彼女は波土さんを殺してない。


「えぇ!?どういう事!?」

『波土さんが自殺したのを、マネージャーさんが見つけて殺人に見立てたんだよ。現場写真見せてもらったけど、首に抵抗した痕がなかったし、野球のボールが客席に落ちてたんだけど、あれはロープをバーに吊るために投げたもの。マネージャーさんが投げられるとは思えない』

「な、なんでわざわざ殺人に見立てる必要があったの?」

『波土さんとマネージャーさん、昔付き合ってたんでしょ?多分だけど、自殺した原因がマネージャーさんにあって、それを今の奥さんに知られたくなかったんじゃない?』


そう言うと、予想通り。17年前にマネージャーさんは波土さんとの子供を妊娠し、その子の為にとデビューしたての彼はスタジオに籠り徹夜で死ぬんじゃないかと思う程作曲をし続けていたのを見て、マネージャーさんが止めに来たもののスタジオ前で倒れて流産。口止めしたが、何らかの理由で波土さんが事情を知り今回発表する予定だった曲がその「ASACA」。だけど、どうしても歌詞が付けられず「ごめんな」とメモを遺して死を選んだ。
自殺から殺人に見せるようにしたのは、元カノの子供のせいで自殺したと知られたら今の家族に申し訳なかったのと、不可能犯罪にしたのは誰にも罪を着せたくなかったから。

殺人ではないから手錠は掛けられず、任意同行という形で一旦マネージャーさんは連行されることになった。記者の人も波土さんの気持ちを汲んで今回のことは記事に書かないらしい。


「でも結局分からずじまいよね、なんでアサカのカが「CA」なのか」


高木刑事に連れていかれたマネージャーさんを見送りながらベルモットお姉さんがそう言うと、社長さんが「朝カフェで聞いたから」と教えてくれた。女の子なら「朝香」でアルファベットにするとCafeから取って「ASACA」だと。

要するに、組織とは全く関係ないということ。


「珠雨ちゃん、明日学校来れそう?」

『えっとね…明日は午前中だけかな』


園子ちゃんに聞かれて携帯に入れてあるスケジュールを確認した。明日はお昼から検査だから学校は午前中だけ。どうして?と聞くと一限と五限が入れ替わって小テストをするらしい。待ってそんなの聞いてない。


『範囲分かる?』

「あとでメールしとくね!」

『ありがとう』

「珠雨、そろそろ帰るよ」

『はーい。じゃあまた明日ね』

「またね〜!」


園子ちゃんに手を振って、後ろにいる蘭ちゃんとコナン君にも手を振った。
駐車場に行き、車に乗せられると助手席からベルモットお姉さんが笑顔で「学生してるのね」と言われた。


「ちゃんとお友達が出来てるみたいで嬉しいわ」

『それなりには』

「なんて言われたの?」

『一限から小テストだって』

「あら…大丈夫?出来そう?」

『帰ったらお勉強』

「分からないことあればすぐに聞いて構わないからね」

『分かるからいいし、お兄ちゃんどうせこれから仕事でしょ』


高校の範囲なんて既に警察学校で教わって、「東条澪」で高校卒業資格も取ってるんだから問題ないわ。

|

[ 戻る ]






×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -