ロープ

『どうして皆私に言いに来るのよ』


昴さんかお兄ちゃんに抱えてもらって、現場のこと先に見ておこうと思ったらコナン君もお兄ちゃんも昴さんも、私にああだったこうだったって言いに来るのなんなの。


『探偵でも警察でもないって言ってんでしょ』

「お嬢は気になるかと思ったんだが…」

『まあ、今日は聞こうと思ってたけどね』


コナン君は客席にタコ糸が巻かれた野球のボールがあった事。お兄ちゃんがステージ袖にパイプ椅子と工具箱、首を吊るのに余ったロープ。パイプ椅子は折りたたまれていて、ロープは綺麗に束ねられていたと。そして昴さんが、客席に繋がれたロープの結び目近くに何かをねじ込んだような穴があった事を教えてくれた。
普通に考えれば殺害された波土さんを、機械を使って吊り上げたんだろうけど、どうやらその機械を動かせるスタッフは全員外食をしている最中だそうで、今マネージャーさんが連絡して戻ってきているらしい。しかもその機械を動かす特殊設備のある部屋は鍵が掛かっていて、その外食しているスタッフが持っている鍵しか無いということで。つまり波土さんは人間の手であそこに吊り上げられた。

ただ老若男女関係なく、人間の力であんな高い位置に成人男性を吊り上げるのは難しいんじゃないかな。

暫くして目暮警部と高木刑事、鑑識の人達が駆け付けてきて同じ事をお兄ちゃん達が説明していた。一旦全員に事情聴取をすると言って目暮警部と高木刑事はスタッフ全員と私達一人一人に声をかけて行った。


「じゃあ、珠雨ちゃんが来た時には波土さんはもうステージにいたんだね?」

『多分。客席までの扉は閉まってたし…マネージャーさんもそう言ってたから』

「そっか…」

『もう全員から事情聴取終わったの?』

「うん、君が最後だよ」

『怪しい人いた?』

「簡単にしか聞いてないからまだなんとも…ただ、死亡推定時刻に姿が確認されていない人が二人いてね。その二人に詳しく話を聞く予定だけど…何か気になることがあるのかな?」

『正直なところよく分かんないんだよね。自殺の可能性はないの?』


聞くと、波土さんの胸のポケットから「ごめんな」と書かれたメモが見つかったらしい。ただ、吊るされてる位置が高かったのと、パイプ椅子がステージ袖にあったから自殺は難しいんじゃないかと、高木刑事は考えているそうで。


『筆跡鑑定はするんだよね?』

「うん、あとで全員にしてもらうよ。あ、珠雨ちゃんの今貰おうかな」


そう言いながら高木刑事に真っ白なページを開いた警察手帳を渡された。そこに「ごめんな」と自分の名前を書いていると、目暮警部が「事情聴取長くないか」と高木刑事の肩を叩いた。


「高木君、君は少し珠雨君を頼りすぎじゃないかね?」

「え!?あ、あ〜…あはは…」

「毛利君や安室君より事件の真相を見抜くのが早いから頼りたくなる気持ちは分かるが、彼女は探偵でも警察でも無い一般人だ。ましてやまだ高校生の女の子だぞ。我々警察が頼りきってどうする」

『いいよ目暮警部、気にしないで。私達が困ってたら警察の人達は助けてくれる、警察の人達が困ってたら私達が助ける。それでいいと思う』

「君がいいならいいんだが、嫌な時はちゃんと言うんだぞ。この前みたいに体調が悪くなるかもしれんからな」


この前の女性バンドグループのドラム担当の人の事件を言っているんだろう。「あの時はごめんなさい」と言えば、目暮警部は「大丈夫だ」と首を横に振る。


「これから今起こった聴取を元に容疑者を絞って詳しい話を聞くんだけど、何か聞いて欲しい事はある?」

『んー…野球のボールの事かなぁ…誰のものなのか知りたい』

「わかった。聞いてみよう」

『あと、お願いがあるんだけど』


鑑識さんが撮った遺体の写真を見せて欲しいと頼むと、目暮警部は首を傾げながらも了承してくれた。すぐに鑑識さんにそれを伝えると、急いで現像して来ますと鑑識さんは走って行った。

事情聴取はまとめて行われた。
コナン君も野球のボールが気になっていたらしく、高木刑事が聞く前にそれを聞いていて、あのボールは波土さん本人のものだと言うことが分かった。波土さんは高校まで野球部に所属していて、卒業する時に野球部の仲間から貰ったメッセージ入りのボール。彼はそれをいつも大事に持ち歩いていたとマネージャーさんが教えてくれた。
そんなマネージャーさんは中学の頃にテニス、事務所の社長さんは大学までラグビー。波土さんに付きまとって今日スタッフさんにお金を渡してスタッフジャンパーを買ってまで乗り込んできた記者の人は登山部。他に野球をやっていた人はいないらしい。

そしてマネージャーさんは波土さんの元カノで、そんなマネージャーさんに振られたのが社長さんだという事が、記者の人の話で分かった。


「あ、いたいた。君だよね、写真見たいって子」


皆の話を聞いている時、鑑識さんが肩を軽く叩いて話しかけてきた。手には茶色の封筒を持っていて、現像した遺体の写真を持ってきてくれたと。
お礼を言って、邪魔にならないように端に行ってから封筒を開ける。さっき見ればよかったんだけど降りられないから見れなかったのよね、遺体。

入っていた写真は三枚。「現場の写真もいるなら持ってくるよ」と言ってくれたけど、それは断った。というか、わざわざ遺体の写真だけ持ってきてくれたの。


『これ本当に遺体の写真?何も加工とかしてないよね?』

「勿論。何か気になるものでもあるのかい?」

『吉川線がないなぁって』


写真に写っている首元を指してそう言うと、鑑識さんは小さく「ホントだ」と少し驚いていた。どう見ても殺人なのに抵抗した痕が無い。それに後ろから絞めたなら縄が耳下辺りまであるはずなのに、それも無い。首吊り自殺した時に出来る様な鎖骨の上辺りまでしか縄の痕がない。


「確か歌詞を書きたいからってステージに籠ったんだったよな…」

『眠らされて殺されたという事ではなさそう』

「自殺だとしてもパイプ椅子はステージの端にあったし…」

『ごめんなさい、やっぱり現場の写真見せて』

「分かった、ちょっと待っててね」


鑑識さんは走って、先に目暮警部に渡していた現場の写真を取りに行った。私が欲しいと言っている事を説明すると、目暮警部もすんなり渡してくれてすぐに鑑識さんは戻ってきた。
「どうぞ」と渡されてその中からステージ端に置かれていたロープの写真を探す。束ねられていたロープはキレイな輪っか状に纏められていた。現物も見たいと言うと、まだステージで証拠を袋に入れている途中らしく、ステージに連れていってくれた。ロープは既に袋に入れているから、袋の上からなら触ってもいいと許可を貰って、それを受け取る。


『大きい』

「え、何が?」

『輪っかが。私の手首から肘の長さとほとんど変わらない』

「ほんとだ…まあ、まとめ方は人それぞれだしこれだけで犯人は分からないよ」

『いいえ、これで犯人は分かった。殺害方法も分かった』

「え!?」

『ただ証拠がないかな』


これはおそらく自殺。

吉川線が無いから睡眠薬など何かしらの方法で眠らせて殺した可能性もありはするけど、客席にあったボールでそれは無いだろう。あのボールは波土さん本人が投げたもの。そしてそれを誰よりも早く見つけたのが、あのマネージャーさん。彼女は何らかの理由で彼の自殺を殺人に見立てたんだ。
ロープの巻き方が運送業者の人がよくやるような腕に巻き付けて纏めるやり方で、内側は手首から肘までの長さ。つまり、人の足の大きさと変わらない。私の腕と同じ長さだったと言うことは、おそらくあの三人の中で一番身長が低かったマネージャーさんが纏めたんだろうもの。


「でも、被害者のポケットから出てきた「ごめんな」の文字がもし別の人が書いてたら…」

『別の人が書いていても、マネージャーさんがした殺人に見立てる為の小道具になるよ。あれは多分本人が書いた遺書…というよりは見ての通り誰かに宛てた謝罪文だよ』

「でも、それが本当だとしてなんで殺人に見立てる必要があるんだ…?」

『今の段階だと分からないかな』


事情聴取も詳しく聞いてるわけじゃないし、私達が今こうやってステージ上でお話してる間も受付のところで話があってるわけだし。それを聞かないと理由は何も分からないままだね。

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