弁護士

裕也さんの協力者はすぐに蘭ちゃんのお母さんの妃法律事務所に向かうと聞いた。翌日蘭ちゃんに電話すると「暫くはコナン君と一緒にお母さんのところにいる」と教えてくれて、行っていいか聞くとお母さんに許可を取ってくれた。


「あれ…珠雨さん?」

『蘭ちゃんにここにいるって聞いてね』

「そっか…それで、えっと…」


事務所前の扉に行くと眼鏡をかけた女性がひとりいて、あの人が協力者かな?って思っていると後ろからスケートボードを持ったコナン君に声をかけられた。
コナン君もこの人が誰か分かってないから多分事務所の人間じゃない。つまり裕也さんの協力者で決まりだろう。眼鏡のお姉さんが着ているジャケットには弁護士を証明する弁護士バッチが付いている。そういえば昨日、
零さんが弁護士の協力者だって言ってたな。

コナン君が扉をノックすると、中から落ち着いた声で「どうぞ」と言われる。そのまま扉を開くと、奥にある机に妃弁護士だろう女性と、蘭ちゃんがいた。


「珠雨ちゃん…!…と?」

「どちら様でしょう?」

「はい、眠りの小五郎の弁護をさせて頂きたいと御相談に参りました」


お姉さんは「橘境子」という名前で、事務所を持たないフリーの弁護士だと教えてくれた。事務所を持たないから自分で弁護する仕事を探していて、弁護士会で「妃弁護士が眠りの小五郎の弁護士を探している」という話を聞いて来たと。


「私がこれまでに扱った事件です」


お姉さんがカバンから取り出した資料のコピーを机の上に出して、それを覗くと公安関係が多かった。コナン君が裁判の勝率を聞くと「全部負けてるの」と笑いながら教えてくれた。それを聞いてドン引きしているコナン君の横で、蘭ちゃんは「は?」と固まってしまっている。


『公安が起訴した事件は、公安の勝率が99.9%なんだよね?』

「そうよ。詳しいのね」

「どうしてそんなこと知ってるの?」

『昔、高明さんに聞いたことがあって』

「へぇ…」


お姉さんが持ってきた資料を捲ると、「二条院大学過激派事件」や「経産省スパイ事件」、「NAS不正アクセス事件」など、どれもどこかで聞いたことのある有名な事件だった。
真剣な顔で「やらせてください」と、妃弁護士に頼み込んでいるものの、どう聞いても会話の内容的に勝つ気が無い。

協力者は弁護士で、毛利小五郎を無罪にさせるように言っているって聞いたけど、この人じゃないの?

勝つ気がないと感じているのは蘭ちゃん達も同じなようで、「ちょっとお待ちください!」と蘭ちゃんがお姉さんの前に立ち、妃弁護士を部屋の端に引っ張って小声で何かを話し出した。
暫くして落ち着いたのか、お姉さんに弁護を頼むことになったらしい。


「それで…この子は昨日言ってた子かしら?」

「そう、最近転校してきた安室珠雨ちゃん。お父さんの弟子さんの妹さんで、お父さんや新一に負けないくらい頭いいの」

「へぇ。初めまして、妃英理です。娘を心配してくれて来てくれてありがとう」

『安室珠雨です。良かったらこれ』


持ってきた紙袋を渡すと、妃弁護士はそれを机の上に置いて袋の中を取り出した。
中に入っているのは大きめのタッパーが三つ。クッキーとカップケーキとマカロンを作って持って来た。


「わあ…!これ、珠雨ちゃんの手作り?」

『うん。蘭ちゃんもコナン君も、小五郎さんの事心配で頭使いすぎて、糖分摂取出来てないんじゃないかと思って』

「ありがとう…!」

「せっかくだから皆で頂きましょうか。境子先生も良かったらどうぞ」

「いいんですか?ありがとうございます!」


妃弁護士はそう言うと、隣の部屋に入っていき蘭ちゃんもそれに続いた。どうやら隣は給湯室らしい。蘭ちゃんが扉から顔だけ出して、「珠雨ちゃんはりんごジュースでいい?」と聞いてきたので頷くと、トレイにりんごジュースを乗せたコップを持ってきてくれた。コナン君も同じりんごジュースらしく、蘭ちゃんからコップを受け取って私の隣に座った。

私が持ってきたものを広げて、皆で食べながら今回の事件の事を境子さんに話し始める。境子さんはメモを取りながら話を聞き、少しした頃に扉がノックされた。
入ってきたのはスーツの男の人で、コナン君が小声で知り合いの警部だと教えてくれた。そういえば高木刑事が拉致された時見た気がする。


「今回の爆破事件、地検公安部の日下部検事が担当することになりました」

「あら大変…」

「はぁ…公安事件の弁護をすることが少ない私でも、名前は知ってる…」

「そんなに凄い検事さんなの?」


日下部検事は確か、公安警察が担当する事件の裁判を多く担当してる人で、顔は知らないけど名前だけはよく聞く人。去年起きたNAZUの不正アクセス事件も、日下部検事が担当したって聞いたことある。
その不正アクセス事件の弁護士を担当したのが、境子さんらしく、二人はよく顔を会わせるらしい。まあ、公安事件にまで発展する事件の弁護士なんて、数少ないよね。

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