リハーサル

退院して数日。
明日は学校行けるかな、なんて思いながら部屋でハロちゃんと遊んでいると、零さんに「出掛けるから付いてきて」と言われた。組織絡みの用事のようで、今回は調べるだけ。ただし必要ならそれを止めさせる事が目的だとか。

急な組織からの命令で時間に余裕もあまりないらしく細かいことは車で説明すると言われ、有無を言わさず抱えられて車へ乗せられた。


『で、何するの?』

「波土禄道ってミュージシャン、知ってるかい?」

『…知らない』

「まあ、そうだろうと思ってたよ。その人物が今日、新曲を発表するらしくてね。そのリハーサルに行くんだ」


そのミュージシャンのリハーサルに行くと昨日ポアロで園子ちゃんと蘭ちゃんが話していたらしく、「自分もファンだ」と言ってリハーサルを見れるように手配して貰ったと。

ホント、息するように嘘吐くよねこの人。


『それが組織とどう関係するの?』

「その曲自体は17年前に作ったもので、やっと歌詞をつけて…新曲のタイトルが「アサカ」というものらしくてね。僕も詳しくは聞かされていないけど、ラムの命令で歌詞を調べてこいとだけベルモットに言われたんだ」

『ラムのおじ様、そのタイトルに何かあるの?』

「さぁ?ただ、新曲を出すことはネットで発表されてね。英語表記でアサカの「カ」がKAではなくCAだった。そこに何かあるんじゃないかと僕は思ったけど…」


17年前に作られた曲の名前が「アサカ」で、KAではなくCA表記。

この前コナン君に聞いた羽田浩司殺害事件で、割れた鏡の無くなった部分のアルファベットを組み合わせて出来るのも確か「ASACA」だった。その事件も17年前の事件。


『この事、上に報告は?』

「一応したよ。あの人も少し気になるみたいだ」

『でしょうね』


伝えてるならいっか。私が連絡しなくても零さんから行くでしょ。
それより不安なのは、おそらくこの事はコナン君と秀一さんの耳にも入っているだろうと言うこと。蘭ちゃんが話していたというならコナン君は確実に知っているだろう。そこから秀一さんに伝わる可能性はほぼ100%に近い。

喧嘩しないか不安しかないんだけど。

ライブ会場に到着して、車から車椅子に乗せられる。会場の入り口まで来たところで後ろから「バーボン」と零さんが呼ばれた。振り向くとそこには梓さんに変装したベルモットお姉さんが。


「珠雨も来てたのね」

「調べるだけですから、支障はないと」

「まあいいでしょう。話は聞いてるかしら」

「簡単に話はしていますよ」

「じゃあ話は早いわね」


お兄ちゃんと少し話したベルモットお姉さんは、お兄ちゃんの背中を押して中に半強制的に連れていかれる。中に入ると「波土」と背中に大きく書かれたジャケットを着たスタッフさん達が慌ただしく走り回っていて、機材等運んでいるところだった。そんな色んな人が走り回っている中で、ジャケットを着ていない人達が数人いてよく見れば蘭ちゃんと園子ちゃん、コナン君に昴さんもいた。

昴さん見るの久しぶりだな。

お兄ちゃんが声を掛けると、コナン君は明らかに驚いた顔をして昴さんは片方の目を開いてこちらを見ていた。


「珠雨ちゃんも波土さんに興味あるの?」

『ううん、全く知らない人なんだけど…』

「折角ですから、少しでも興味を持ってくれたらいいなと思って連れて来たんです」

「そうなんですか…でも、残念だったね。リハーサル見れないんだって」

『そうなの?』


例の新曲の歌詞がまだ出来上がっておらず、誰もいない客席を見ながら書きたいから一人にしてくれとマネージャーさんが頼まれたらしく、バックバンドの人達やステージのセット担当のスタッフさん達も外食していると、蘭ちゃんが教えてくれた。珍しいことでもないらしく、更に彼にとって最後のライブだから好きにさせようということで、いつ始まるか分からないからリハーサルの見学は出来ないとマネージャーさんに伝えられていた所らしい。


『お兄ちゃん、どうする?』

「そうだねぇ…」


んー、と顎に手を当てて考える素振りをするお兄ちゃん。多分考えてるのは「帰るか帰らないか」ではなく、「どうやって歌詞を発表前に探るか」だろう。
私としては一旦ここを離れるのが嬉しいんだけどな。零さんだけならともかく、ベルモットお姉さんもいるこの場所に昴さんがいるのは非常に危ない。

お兄ちゃんがベルモットお姉さんに「どうしましょうか?」と提案した時、消防査察の為に消防官が入ってきてマネージャーさんに一声かけてステージ客席に入る扉を開ける。と同時に大きく悲鳴をあげた。何事かと全員が扉の方に掛けていき、ステージを見るとおそらく波土さんだろう人が天井のライトが取り付けられた鉄のバーに吊るされたロープで首を吊っていた。


『あれが波土さん?』

「え、ええ…でも、なんで…こんな…!」

「とにかく警察へ連絡を!」


昴さんはマネージャーさんにそう言うと、ステージに吊るされている波土さんの元へ。一緒にコナン君とお兄ちゃんもステージへと走り、マネージャーさんは携帯を取り出して警察に電話をしに行った。


「珠雨ちゃんはステージの方、行かないでいいの?」

『え、どうして?』

「ほら、いつも高木刑事に色々聞かれてるじゃない?今日も高木刑事が来るとは限らないけど…一応、事前に調べていた方がいいんじゃないかなぁって。安室さんに頼んだら抱えてくれるんじゃないかな」


確かに、高木刑事が来た場合また私に話を聞きに来るだろう。蘭ちゃんの言うように、事前に調べておけば捜査もスムーズなんだろうけど。本当に毎回毎回思うけど、幼児化したとは言え有名な高校生探偵、日本警察、アメリカのFBI捜査官の心強い人が三人もいるんだから、私必要ないと思うんだよね。

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