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現場に向かうと、裕也さんだけ車から降りて規制線の奥に入っていった。ただ、直ぐに戻ってきて手にはポットと子供用の上着が一枚。
『なにそれ?』
「あのコナンという少年が持ち出したもので…」
『コナン君が…巻き込まれたってこと?』
「ええ、そのようです。脱出の際に爆弾の液体をそれぞれ採取してくれました。これ、少しの間持っていてもらっても?」
『いいよ』
裕也さんからポットを受け取ると、上着を別の成分が付着しないように密閉袋に入れた。そのまま研究施設に持っていき、科学班が分析し終わり次第中和剤の制作に取り掛かるそう。
「ところで澪さん。こちらを」
『ん?』
「これも先程の少年から送られてきた写真で、現場にあった爆弾だと」
『…あの時のと同じだね』
「同一犯だと思いますか?」
『うん』
爆弾は作り手の個性が強く出る。これ程精密で大きな装置に入った液体爆弾なんて、そうそう真似出来ない。模倣犯の可能性は切り捨ててもいいと思う。
一旦零さんに現状を話して指示を仰ぐと言い、裕也さんはまた車を走らせて零さんのいる地下シェルターへと向かった。その途中、捜査一課の刑事一人が拉致されたと連絡があり、それも念の為伝える事に。
裕也さんが地下シェルターに行っている間、私は他の公安の人達が用意してくれた変装道具に着替えていた。私の髪色とは違う色で、昔と同じくらいの長さで、ポニーテールにセットされたウィッグ。それからカラーサングラスに深めの帽子。白いシャツに幅が広がってる長いパンツ、いつも付けてる義足のカバーを取り外してスニーカーを履けば、「安室珠雨」とは別の義足の女の子になる。まあ、隠れてるから義足なのは分からないのだけど。
戻ってきた裕也さんに「どう?」と聞けば、「一瞬誰だか分かりませんでした」と本気で驚かれた。首に付けた変声機のスイッチを押して、もう一度「どう?」って聞けばさらに驚かれる。
「すごいですね…安室珠雨の面影はありませんよ」
『じゃあこれで行こっか。捜査一課と合流するよう言われたんでしょ?』
「は、はい…でも、何故…」
『三年前の爆弾と犯人を見てるのは今現在私だけ。それが「東条澪」なら捜査一課の人達が私を見ても何も不思議ではないでしょ?』
「だから…東条澪でいる許可を…?」
『零さん助けたいもん』
そう言うと裕也さんは少し嬉しそうに笑って「そうですか」と呟いた。
すぐに渋谷中央警察署へと向かい、その途中で裕也さんは目暮警部に捜査協力の依頼を申し出た。すぐに了承がおり、渋谷中央警察署の地下公安会議室で公安側の情報と捜査一課が持っている情報の交換をする事になった。
会議室に到着すると裕也さんはUSBメモリーを取り出し、プロジェクターに画像を読み込ませる。
そして、協力者である人物が親しげに話していると不自然に思われるからと、この姿の時はお互いに敬語で会話することを念入りに言われた。それくらいちゃんと分かってるってば。
「…いいですか、絶対、バレないようにしてくださいね」
『勿論です』
既に変声機のスイッチは付けているし、大丈夫でしょう。そう言えば裕也さんは少し心配そうなため息を吐いた。とほぼ同時に会議室の扉が開きそこから目暮警部達が入ってきた。
『…え、』
「急な協力要請で申し訳ない。公安の風見です」
「警視庁捜査一課の目暮だ。こちらこそ、遅れてすまない」
「…彼は?」
「高木です。訳あってこの格好で…」
びっくりした。思わず「陣平さん」って呼ぼうとしてしまった。高木刑事だった。
裕也さんが遮らなければそう呼んでた。危ない。
入ってきたのは目暮警部と佐藤刑事。そして、変装した高木刑事。千葉刑事が拉致されて解放の条件に松田刑事を連れてこいとの事で、変装した高木刑事が行くことになったらしい。
「彼女も、公安の人間ですか?」
「いいや、彼女は一般人だ。しかし、三年前に松田陣平巡査部長と一緒に例の怪しげな爆弾を見ている人物。彼女にも協力してもらうのがいいと思い連れてきた」
「松田さんと…?」
『初めまして、東条です』
軽くお辞儀をすると、高木刑事と佐藤刑事は「よろしく」と同じように頭を軽く下げて、目暮警部は握手を求められた。それくらいならいいだろうと手を握ると「何かあったらすぐに教えてくれ」と言われて手を離す。
目暮警部のこういうところ好きだな。会釈だけで済まさずに、ちゃんと握手して目を見て信頼を築こうとするところ。
「さっそくだが、話を」
「情報交換と言うけど、実際には何を?降谷という男に会わせてくれるの?」
「それは出来ない。彼は今隔離された施設にいる」
「隔離?」
その言葉に佐藤刑事が首を傾げると、裕也さんは会議室の照明を落として、プロジェクターのリモコンを手に持ちボタンを押した。スクリーンに映し出されたのは以前逮捕され、脱走した連続爆弾犯。零さんはこの男を追跡中に何者かに襲われ首輪の爆弾を付けられ、脱走したこの男も同じ爆弾を首に付けられていて、それが爆発し死亡した。
首輪には二液混合式の特殊爆薬が使われており、同種の爆弾が三年前に私や陣平さん達が行ったビルの事件にも使用されている。
「で、その爆弾犯は一体何者なんだ?」
「正体不明の殺し屋だ。国籍、性別、年齢、全てが不明。世界中で活動しているが、活動拠点はロシアでプラーミャと呼ばれている事しか判っていない」
「ねぇ、プラーミャってロシア語で“炎”って意味だよね?その人の使う爆薬って、爆発するとどんな感じになるの?」
どこからかひょこって出てきて、裕也さんにそう聞いたのはコナン君だった。彼も同じように爆弾を見た一人で、佐藤刑事達から話を伝えるより連れてきた方が早いという理由でここに来ていたらしい。
「どうしましょうか」という目で私を見る裕也さんに、「いいんじゃないですか?」と伝えると頷いて彼の質問に答える為に口を開いた。
爆発は燃焼力、爆発力ともに強く、中の液体が混じりあった瞬間爆発し一気に燃え広がる。
それを聞いたコナン君は、警視庁前で外国人焼死した時の爆発も同じだったと佐藤刑事達に伝えた。
『その外国人、そもそもなんで警視庁を訪ねてきたんです?』
「それはまだ不明で、調べている最中よ」
「ヒントは、この名刺じゃない?」
コナン君が指を鳴らすと裕也さんがスクリーンの映像を切りかえた。そこに映し出されたのは「警視庁刑事部捜査一課 巡査部長 松田陣平」と書かれた名刺の写真。
警視庁前で爆死した外国人が持っていたものの写真のようで、彼はおそらくどうしても陣平さんに助けを求めたくて逢いに来たんだとコナン君は予想した。
それはつまり、亡くなった外国人と今刑事一人を拉致している犯人達に何かしらの繋がりがあるということ。
『その拉致されてる刑事さんのお名前、教えて貰っても?』
「ああ。警視庁刑事部捜査一課強行犯捜査三係の刑事、千葉和伸。コナン君達が爆弾を発見したビル周辺で聞き込みをしている最中に何者かに拉致された」
『…その刑事さんを拉致したのはプラーミャではなく、全く違う組織だと考えていいかもですね』
「どうして?」
『三年前にプラーミャの計画を邪魔した全員を殺したいのなら、陣平さんだけじゃなくその場にいた私も呼ばれるはずです。しかし、呼ばれたのは陣平さんだけ。それに、プラーミャなら陣平さんが殉職したのも知ってるはずでしょう』
「確かに…降谷って人は爆弾を付けたから知ってるだろうけど、他の人は呼ばれてない……ねぇ、その降谷っていう人の同期四人は亡くなってるんだよね?」
七年前に爆発物処理班にいた研二さん。
三年前に捜査一課だった陣平さん。
一年前に同じく捜査一課だった航さん。
「諸伏って人は…?」
「申し訳ないがそれは極秘扱いだ」
「相変わらず秘密主義なのね」
「お姉さんは知ってるの?その諸伏って人が今どうしてるか…」
『…えぇ、』
私の近くで自殺した景兄。
厳密には見てないのだけど。
景兄が公安だとバレたらしいと聞いて、ライお兄様がなんとかしたいから話をしてくると言っていた。だけど零さんはそれを知らないから、危ないと感じて二人の所に行くと言うので様子見で付いて行った。
屋上に続く階段の下で待つように言われ零さんだけが屋上に上がって行った。ライお兄様なら大丈夫だろうと思って待っていれば銃声が聞こえて、零さんが威嚇でライお兄様を撃ったんだと思ってた。暫くしてライお兄様だけが降りてきて、私を見て「すまん」と一言。それから、「上には行くな」とも言われた。
その後、降りてきた零さんの表情で全てを察し、その数日後にライお兄様から詳細を聞いた。
「これだけは言える、今回の事件とは無関係だ」
「それを信じろと?」
『私の前で、自決しました』
「え…、」
『私の前で、私を守る為に、自決しました。……これで十分でしょう、人のトラウマをほじくり返すのは』
「え、えぇ……ごめん、なさい…」
半分本当で、半分は嘘だ。それに少しキツく言ったから詳細も聞いては来ないだろう。
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