メモ帳

樫塚さんを家に送り届けるだけなのに、30分経っても誰も戻ってこない。さっき樫塚さんとコナン君が外に出るのは見たんだけど、その2人も戻ってくる気配ないし。というか、車でどっか行ってたし。

そう不思議に思っていると兄から連絡が来た。


『どうしたの?』

《少し、というか予想外の事が起こってね。まだかかりそうなんだ》

『何があったの?』

《彼女の家から盗聴器が仕掛けられてて、調べたいと言ったら樫塚さんとコナン君が居なくなってね。それで、仕方なく調べていたら死体が発見されたんだよ》

『死体……?』

《死体》

『行く』


そう言うと兄は、部屋の番号を教えてくれた。
後部座席の下から小さいスーツケースを取り、中から義足を出して、足に填める。同じくケースから杖も取り出す。義足で歩くの慣れてなくて少しフラフラするから、それを安定させる為の杖。
車から降りて、鍵をしてマンションのエントランスへ。先程教えてもらった部屋番号にインターホンを鳴らして、オートロックの扉を兄に開けてもらう。エレベーターに乗り、部屋へと向かって玄関を開けると、少し異臭がした。

死体の腐敗臭だ。

家に入り、皆を探すと突き当たりの部屋にいた。
そこには大きめのスーツケースに入れられた男性の死体が。

この人も見たことあるな。
というか、


『くっさ…』

「あ、安室さん!コナン君と樫塚さん、見なかった!?」

『2人なら、どこかに出かけてたけど…』

「えぇ!?」

『普通に談笑しながら歩いて駐車場の方に向かってたから、お茶を出そうとしたけど無くて、買いに行くとかそういうのだと思ったんだけど……違うの?』

「実は…」


どうやらコナン君は今、人質に取られているんだそう。先程、小五郎さん宛に警察に連絡するならコナン君を危険に晒すかもしれないというメールが届いたんだそう。


『部屋漁っても?』

「いいけど、プライベートな場所は止めておくように。蘭さん、妹について貰っていてもいいですか?まだ義足に慣れてなくて」

「あ、はい。足元気をつけてね」

『リビング…は、こっち?』

「うん」


兄は兄で色々探るようで、私は毛利さんと一緒にリビングへと向かう。


『ここって、毛利さん達が来た時からこんな感じだったの?』

「ううん、散らかってたよ。大学の友達と飲んでたって…だから少し片付けたの」

『……毛利さん、玄関の靴箱に、女性物の靴がいくつあるか見てきて欲しいんだけど』

「うん、わかった」


毛利さんに玄関を見てもらっている間に、リビングの横のキッチンにある食器棚を見る。シンプルな食器ばかりで、女性なら一つくらい可愛いマグカップとか持ってそうだけど…人によるか。
ふとゴミ箱の中身を見ると、中はカップ麺インスタント麺のゴミばかり。でも樫塚さんは肌も髪も綺麗だったし、スタイルもいいからとてもそんなインスタントラーメンやカップ麺だけ食べてるような、不健康な感じはなかった。


「安室さん、見てきたよ!」

『どうだった?』

「男性物のスニーカーとか、革靴とかはあったけど、女性物の靴ひとつも無かったんだよね…それに…」

『それに?』

「樫塚さん言ってたじゃない?子供の頃からの癖で、靴紐の先を結ぶって。そんな靴ひとつも無かったよ」

『そう、ありがとう。あと、』

「?」

『安室さんって、お兄ちゃんと混乱するだろうから珠雨でいいよ』

「あ、う、うん」


毛利さんの言葉を聞いて少し考えて、ふとテレビを付けた。予約番組を確認すると全てニュースで、録画時間的に、切り取り編集をしていた。


「こ、こんなにニュース録画するかな、普通…」

『余程の犯罪マニアか、この銀行強盗の犯人か。またはこの撃たれたっていう人の身内か』


録画されて切り抜かれていたのは、先日からずっと話題になっている強盗に入られた銀行の、事件当時の防犯カメラの映像のシーン。
当時、犯人の1人に「OK、止めてくれ」と言って撃たれ死亡した銀行員がいて、ニュースやワイドショーはずっとこの話題で持ち切りだった。


「珠雨、何か分かったかい?」

『ここが、樫塚さんの家じゃないかもって事と、あの女の人の名前がそもそも「樫塚圭」じゃないかもって事くらい』

「えぇ!?そうなの!?」


靴は男性物ばかりだし、そういう好みだとしても就活浪人だと言っていた彼女ならスーツ用にヒールの一つはあるはず。それすらない。
それに「樫塚圭」という名前は彼女本人が名乗っただけで、警察に身分証明書等渡していない事から、彼女の本名かどうかも分からない。探偵事務所で亡くなった男の人も身分証明書が無かったから、彼の名前が「樫塚圭」なのかもしれない。

そして1番気になるのがニュースの録画。

防犯カメラの映像の後、撃たれた銀行員の庄野賢也という男性の通夜が行われたとアナウンサーの人が言うと、その男性の顔写真が映し出された。その男性は、探偵事務所で樫塚さんが「兄」として私達に見せた男性。


「こ、この男の人…!圭さんの携帯の待ち受けに写っていたお兄さん!でも、なんで苗字が違うの……?」

『なんにせよ、もう少し調べた方がいいかも』

「んー…あと調べるところっていうと、寝室にあったパソコンくらいしかないよ」

『そこ調べなよ。一番怪しいじゃん』

「珠雨が気になるかなと思って残してたんだよ!」

『それはどうも』


兄に手を貸してもらって立ち上がり、手を引いてその寝室に連れていってもらう。

寝室では、パソコンの電源を付けて待機してた小五郎さんが腕を組んでうんうん言っていたので、どうしたのかと聞くとパスワードがかかっており開けないのだという。


『パスワード…大体生年月日とか何かの語呂合わせとかだよね』

「そうそう!お父さんは語呂合わせだよね」

「小五郎さん、で、5563だな」

「じゃあ、長くて覚えにくいものとかだった場合、どうしてますか?」

「携帯のメモ帳とかに…」

「俺なら紙に書いてこの辺に……ん!?ん?おっ!!あった!!」


机の下に手を入れたら、そこにパスワードが書いてある紙を見つけたらしい小五郎さん。それを見て「流石ですね!」と兄は笑顔で言っているけど、さっき机の下覗いているの知ってる。

小五郎さんより秀でてはいけないもんね、弟子だし。

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