財布の中身

暫くしてから、目暮警部達が来て、現場の捜査が始まった。話を聞いた目暮警部は、男の目的が先日亡くなったお兄さんの遺品だとするなら、お兄さんの知り合いである可能性が高い。だから見覚えは無いのかとお姉さんに聞いたが、お姉さんは「知らない」という。
大人になったら兄弟姉妹の人付き合いなんて、わからないよね。


「ちなみに、お兄さんはなんで亡くなったんですか?」

「……」

『お姉さん?』

「え、なに?」

『お兄さんはどうして亡くなったの?ご病気?』

「いいえ、4日前に事故で……これが兄よ」


そう言ってお姉さんは、携帯の待受画面を見せてくれた。余程仲が良かったのだろう、お兄さんとのツーショットを待受の画面に設定していた。

ただ、そのお兄さんにどこか見覚えがあった。


「携帯電話といえば…自殺したこの男の携帯、妙なんだよ」

「妙、とは?」

「樫塚さんを装って、会う場所を変えたいという毛利君に宛てたメールは送信履歴にあるんだが、それ以外のメールが全くないんだ」

「え?」

「あ、あの男の人、その後のメールは私の携帯を使って送ってましたから…」


それでも妙な事に変わりはない。だってそれ以外のメールも登録されてるアドレスも、何一つ無いということなのだから。それほど傷もないところを見ると、中古の携帯を買い換えたばかりだとも考えられるが、それでも何かしらが引っかかる。

目暮警部が言うには、携帯以外にも妙な事があるらしい。


「携帯と一緒に男のポケットに入っていた財布なんだが、小銭は全部で五千円近くあって、一万円札は2枚に五千円札が5枚、千円札は47枚もあったんだよ」

『両替をした…にしては多すぎるし、して何をするのっていう量ね』

「そうなんだよ」

「あの、もしよろしければそのポケットに入っていた物を見せていただけませんか?」


兄が目暮警部に尋ねると、構わないと了承をしてくれて、すぐに持ってきてくれた。
樫塚さんから奪ったロッカーの鍵は、今高木刑事が調べているから、それ以外の物を揃えてくれた。

スタンガンに、煙草2箱にライター。財布と小銭入れ。男の家のものと思われる鍵。
それらを全て鞄ではなく、ポケットに入れていたと言う。


「そういえば、樫塚さん。トイレの遺体の足元に落ちていた2枚のタオルのうち、片方のタオルの先が濡れていた様ですが、何故だか分かるかね?」

「さぁ…私には……怖くてずっと俯いてましたから…」

「それと、そのタオルの下にあった、あなたのブーツの靴紐の先に結び目があって、ブーツに引っかかっていたんだが」

「あぁ、あれは子供の頃からの癖です。布製のスニーカーとかを丸洗いして干す時に、紐がそうなってると吊るしやすいって兄が。流石にブーツは洗いませんけど、癖だけが残ってて…もう、その兄もいませんけど…」

「…警部殿、今夜はこれくらいにしていいんじゃないですか?お兄さんを亡くされて間も無いし、見知らぬ男に目の前で自殺されたんですから…」


小五郎さんがそう言うと、目暮警部も同意した。後日改めて調書を取るから、住所と連絡先を樫塚さんから聞き、今日のところはそれで終わった。


「家に帰るなら、僕の車でお送りしましょうか。もしかしたらあの男の仲間が、あなたの家の近くで待ち伏せしてるかもしれませんし」

「わざわざすみません」

「いえいえ、そんな。珠雨もいいよね?」

『うん。時間も時間だし、女性一人で帰らせるのも心配だしね』

「ありがとう」


私達がそんな会話している時、目暮警部は兄が小五郎さんの弟子になった事を聞いて驚いていた。小五郎さんの周りにまた探偵が増えたのか、と。


『また?』

「お兄さんの他にもいるんだよ。最近毛利君と一緒にちょろちょろ現場に顔を出す若い女の探偵がな」

「へぇ、若い女性の探偵ですか!それは是非、会ってみたいですね…」


兄は直ぐに車を停めている駐車場に向かい、探偵事務所の前まで持ってきた。そして、私の車椅子を車のトランクに積み込み、私を抱えて後部座席に座らせた。
樫塚さんが心配だからと小五郎も乗り込み、人が自殺した事務所に残るのが怖いと毛利さん達も乗り込んできた。ただ、兄の車は後部座席に4人も乗れないので、私の膝にコナン君を乗せて、3人。助手席に樫塚さんを乗せて、そのまま彼女の家へと向かった。

彼女の住むマンションに着き、私以外の人達が車から降りる。


「お姉さんは車に残るの?」

『うん、車椅子降ろすの面倒だし。お兄ちゃん、何かあって長くなるなら連絡して。義足付けて来るから』

「分かった。じゃあ、車の鍵渡しておくよ」


そう言って、兄は車の鍵を取り出し、私に預けると、全員マンションへと入っていった。

全員行かなくても良かったんじゃないの…?


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