サンドウィッチ

ボアロに行くと、コナン君がなにやら推理を披露していた。兄を尾行していた男が、実力行使に出ようとしたから止めに来たようで。その男は商店街のパン屋で働いている人で、ポアロのサンドウィッチが美味しいって話を聞いて食べたらそれに惚れて、同じようなサンドウィッチを作りたいけど作れない。どうしても作りたいって気持ちが抑えられなかったんだって。


『…えっと、つまり?』

「事件では無いね」


観察して作り方を見ても出来ず、尾行して同じスーパーで同じ食材を買ってみたが特別な物は何も無い。それで作ってみても全く別の味になる。


「毎日毎日そればかり考えて、もうおかしくなりそうだった…どうして!どうしてあんたは、あんな美味いハムサンドが作れるんだ!!」


もしかして私一番面白い時に来たかな。

男の人は兄の肩を掴んでそう叫んだ。梓さんやコナン君と一緒に来たらしい歩美ちゃん達もポカーンと口を開けてそれを見ていた。

どう考えても一番面白い時だよねこれ。
ドラマだとクライマックス直前だよ。


「…おじさん、それは安室さんの企業秘密だよ?流石に教えて貰えるはずが…」

「いいですよ?別に教えても。ね、珠雨」

『いいけど』

「え、そうなの…?」

「あのサンドウィッチは、妹の珠雨が僕に作り方を教えてくれたもので、別に僕考案ではないんですよ」

『私も友達から教わったの』


作り方を教えてくれたのは景兄で、この人に教えたのは私と景兄の二人。零さん、今は料理出来るけど昔は全然ダメだったから二人でスパルタ教室みたいな事したっけなぁ。零さんは苦手なことが結構あって、私が教えた事なんていくつもある。

兄は男の人と一緒に厨房に入り、コナン君と梓さん、光彦君、元太君、歩美ちゃんと私はカウンターから覗くようにして、サンドウィッチの作り方を見ることに。


「ハムは安いものでいいんですが、出来るだけ脂のないものを選んでください。これに、オリーブオイルを塗ります」

「あっ、そうか!あのハムの濃厚な風味はオリーブオイル!」

「えぇ。でもそれだけじゃありません」


ハムに満遍なくオリーブオイルを塗って、マヨネーズに隠し味として味噌を入れて混ぜる。意外に思われるかもしれないが、味噌とオリーブオイルの相性は良い。それとハムを一緒にする事でハムが主役になれる。


「で、これは普通のお湯。そしてこれも普通のレタスです」


お湯を入れたボウルとザルに入れたレタスを用意して、兄はレタスをお湯の中に入れた。
熱いお湯、というものではなくお風呂の温度程度のお湯だからしなしなになる事はないし、レタスが冷たいと味がよく分からないという事がよくあるけどそれも無くなる。それに、これをすることによってパンに挟んでしばらく経っても、レタスのシャキシャキした食感が残ってくれるから、時間が経っていても作りたてのような食感が味わえる。


「ねーちゃんの友達がこれ考えたんだろ?すげぇな!」

『あの人料理が好きだから』

「いつか歩美もその人の作ったお料理食べてみたーい!」

「で、肝心のパンですが…こういうパンで結構です」


兄が取り出したのは「見切り品」と書かれたシールが貼られた8枚切りの食パン。

サンドウィッチを作る直前にパンを蒸すから、時間が経って固くなったパンの方がいい。固くなった分、水分を吸ってくれるからふわふわになるし、暖かいパンでサンドウィッチを食べられるからレタスが暖かくても温度に違和感がなく食べられる。

パンを蒸したら、マヨネーズを塗ってハムとレタスを乗せて、挟んでカットして出来上がり。簡単だしすぐに出来るから私もよく家で作って食べてる。流石に蒸しはしないけど。


「でも、こうやって作ったふわふわって長時間は持たないんですよ。だから、お店で食べるにはいいけどテイクアウトには向かないんですよね」

「私はパン職人です。パンなら工夫できます。だから…だから!あなたのこのサンドウィッチをうちの店で売らせてください!!」


男の人は被っていた帽子を取って、深深と頭を下げた。


「まあ、僕は構いませんが…」

『店長に言うべきでは?』

「ポアロのサンドウィッチだしね…」


兄が「いい」と言ったのはおそらく、自分がいつまでもここにいるわけじゃないから。ここにいる必要が無くなった時、梓さんが作るだろうけど、こんなに惚れてくれたのなら広まるべきだと考えたんだろう。
ただ、ポアロのサンドウィッチを別の店で売るのなら流石に店長の許可が必要だろう。男の人は、後日改めて正式に店長に相談しに来ると言ってその場は収まった。


「折角作りましたし、皆さん食べます?」

「食べたいです!」

「やったぁ!」


子供達が大喜びでテーブル席に座り、兄が勧めて男の人もそこに座った。全員分のサンドウィッチを作った兄がお皿を持って来て皆の前に置くと、皆美味しそうに食べてくれた。それをニコニコと見ていた兄の携帯が鳴り、電話をする為に少し離れた場所に移動した。
小さくスピーカーから聞こえた声はベルモットお姉さんのもので、きっとさっきウォッカお兄さんから言われた事と同じことを言われてるんだと思う。表情からしていい話をしている事じゃないことは確か。すぐに通話は切れて、兄は私が座っている横に来た。


「ベルモットから何か言われたりしてないか?」

『ウォッカお兄さんから、あなたが怪しまれてるから気をつけてとは言われた』

「…そうか…」

『そうだ。これちょっと調べて欲しいんだけど』

「…?リップ?」


カバンから貰ったリップを取り出して零さんに渡した。


『さっきここに来る前にベルモットお姉さんから貰ったの。発信機とか無いか見て欲しくて』

「なるほど。ちょっと待ってて」


そう言うと零さんは厨房の奥にある従業員のロッカーなどがある部屋に入っていった。しばらくして戻ってきて「特に何も無かったよ」と返してくれた。

本当にただのプレゼントらしい。
疑ってごめん。

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