ハリポタ いつか自由を | ナノ
6周年企画:ふくろう便
孤児院にいた時も、そして僕と暮らすようになってからもココは細い。
まるで枯れ枝のような体だ。
その分小回りがきくようでココは足が早く、そしてあんな細い体のどこにそんなエネルギーがあるのかと疑うくらいの持久力を持っている。
けれど、それだけでどうにか出来るほど世の中は優しくない。
夜の相手をするのなら相手を悦ばせる技術を身につけなくては生きていけないし、奴隷として生きるなら自尊心なんて捨てて媚び諂う事を当然としなければならないのだ。
そのどちらにもいきたくなかったココは、第3の道として少しの知識を身につけることにしたのだ。だから僕に文字を習って少しなら読み書きは出来るし、一人で生きていく上で必要な計算に関しては、きっとあの孤児院の中では僕に次いで早かったはずだ。
とはいえ、僕が学校に通い始めた今、直接教えられる時間は短い。夏休みと冬休みの僅かな時間しかココと一緒に居られないのは、僕にとって結構なストレスになっている。
前は孤児院から出られる全寮制に大喜びしたけれど、ココと住める家を用意した今となっては、この制度は時間を拘束されるだけの枷となっている。
そこで思いついたのが、梟便だ。
ココは手紙を書く暇あるなら学校を満喫しなよと言って来たけれど、ココの文字の勉強にもなるからと続けている。
そして今回は、発音が分からなければ困るだろうという理由で声を直接送ることも出来る魔法アイテムを使うことにした。
文字と声を同時に送ればココも単語と発音を同時に理解できるようになるのだ。
きっとココも驚くに違いない。二つも封筒が届いて、首を傾げるかもしれない。
ああ、楽しみだ。ココは何を思う?
手紙に書きたくても書けなかった言葉が頭の中を満たしていく。
君は何をしている?
ちゃんと食べているか?
料理で怪我をしていない?
周りに変な奴はいない?
まるで親鳥になった気分だ。そういう目で見ているつもりは無いのだけれど、ココに関してはどうしても心配が先立つ。
ココはマグルなのだ。魔法を使えないココを魔法界に連れてきて、一人で住まわせている。もしも純血主義に見つかったら大変なことになる。
家の場所は片田舎で隣は出来損ないのスクイブ婆さんだからココのことを快く受け入れているが、人なんてどこで変化するか分かったもんじゃない。
そこまで考えて、溜息を吐く。
ココはズルくて賢く、良い大人と悪い大人の嗅ぎ分けも僕と同じくらいには得意だ。
僕が気に掛けるということは、彼女を信頼していないことになる。
ココは自分で対処出来るに決まっているのだから、心配するのは失礼だ。
「トム?」
梟便が飛んで行った彼方を眺めている僕を不審に思ったのだろう、同じ寮の女が声をかけてくる。
馴れ馴れしい呼び方に気分が悪くなるが、表情筋は勝手に笑顔を作り出す。
「ああ、場所を占領していたね。どうぞ。君も梟便を出すんだろう?」
「ううん、違うのよ。トムが何処かに行こうとしているのが見えたから、何処へ行くのか気になって」
随分とストレートな物言いだ。
いっそ爽快とすら思う。
勝手に思いを募らせて、後ろをついて来て人の行動を監視して自分の気持ちを満たす気持ち悪い生き物。
人目に付くところで話しかける勇気は無いくせに人並みに恋心を持つ奴は、今までの経験上とても使える駒になる。
そう分かっているのに、今はとても煩わしい。
とても大事な時間を、僕だけの時間を邪魔された。そんな気持ちが先程までの温かくて落ち着いていた心を真っ黒に染めていく。
「そんなに僕が気になる?」
「だっていつもトムは人の中心にいるから、それなのに一人で何処かに行くなんて珍しいでしょう?」
「そう」
「ねぇトム、」
トム、と呼ぶ女。
その口の動き、発音、声音、全てが気に入らない。
僕をトムと呼んでいいのは、男に媚びることも人を監視して欲求を満たすこともしない、現実の惨たらしいことも受け入れながら毎日を自分の足で生きるココだけだ。
「君」
「なぁに?トム」
「僕の視界に入るな。不愉快だ」
女の表情が変わる。愉快でならない。
そうだ。さっさと僕の視界から消えろ。
***
暖炉のそばでぬくぬくと毛布にくるまっていると、カツン、カツン、と窓を硬質な物で叩く音。
慣れた音に慌てることもなく窓の外を見れば、雪を頭にかぶった梟。
見慣れたトムの梟だ。
「いらっしゃい」
窓を開けると冷たい風と粉雪と一緒に、梟はぴょんと跳ねて室内に入って来る。相変わらず可愛い。
その嘴には手紙が咥えられていた。
「ありがとう」
受け取って、封筒が2つであることに気付く。
見れば両方私宛の手紙だ。
なんで2通?封をした後に入れ忘れでもあったのかな。トムらしくもない。
梟がじっと見上げてくるから、雪を払ってからいつも通りに頭から背中に向けて撫でると、梟は気持ち良さそうに目を閉じた。
随分とトムはこいつを世話したんだろう。そうでなかったら、こんなに人懐っこい梟にはならないはずだ。
「ちょっと待っててね。今餌を持ってくるから」
夕飯に使おうと思っていた鳥肉を一切れ分けると、梟は嬉しそうに口にした。
同じ鳥の肉なのに、喰えるのだなぁと常々思う。
封筒はどちらも肌触りが良い厚紙だ。
トムは変な所にお金を使う。たかが連絡を取り合うだけの物なのに、なんでこんな上質そうな紙を使うかな。
勿体無い…とは思うけれど、トムのお金だ。トムが何に使おうと私が口に出すことではない。
大きく@と書かれた封筒と、Aと書かれた封筒。
@から開封しろということだろう。
暇な時間に木を研いで作ったペーパーナイフを使って封を開けると、中には普通の手紙。
広げて、読む。
最近のトムの日常が、難しい単語と、その側に簡単な単語に言い換えられた状態で書かれていた。
それから、私がちゃんと食べられているか、魔法界での生活で不自由してないか、という質問。
「トムは将来いい父親になれそうだなぁ」
つい口から出る感想に、ふぅと息を吐く。
きっとトムが聞いたらムッとするのだろうけれど、事実だから仕方ない。
もう一つの封筒を開ける。
すると紙が宙に浮いて、パクパクと口みたいに動き出した。
『ココ』
発せられたのは、トムの声。随分と久しぶりに聞いた気がする。
内容は手紙の文章と同じで、けれど最後に私に単語の発音これで分かった?という言葉が添えられていた。
なるほど。知らない単語の意味は分かっても発音を間違えるようでは日常生活には使えないから、言葉を贈ってくれたってことなのか。
その紙はぱさりと床に落ちて、ただの紙になる。
一回で覚えろってこと?覚えられるわけないじゃん。私はトムみたいに賢くないんだから。
今度は何回も聞けるようにして送ってと、手紙に書こう。
胡蝶様
お久しぶりです胡蝶様!
リクエストいただき本当にありがとうございました!!
しかも!今回は「ホグワーツでヒロインのことを考えているリドル」というリクエストを頂けたので、書かせていただきました。
ご希望に沿っていないようでしたら済みません。再度挑戦させていただきますので何なりとお申し付けくださいませ。
リクエスト頂いてから1年以上の歳月が経ち本当に申し訳ございませんでした。
こんな辺鄙な所に足繁く通っていただけて、本当に嬉しいです。ありがとうございます。
今後とも、何卒よろしくお願い申し上げます。
2014/12/25
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