ハリポタ 人を愛した死神 番外 | ナノ
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am7:00
三階からトイレの水が流れる音がした。その合図を受けて、私は新聞を畳んで台所へ向かう。
レタスを数枚取り、洗ってから適当な大きさに千切る。瑞々しい青臭さを感じながら、トマトとキュウリとパプリカを切ってレタスと共に盛れば、簡素なサラダの出来上がり。
ドレッシングはイタリアン。
彼が一番美味しそうに食べたのがイタリアンだったから、他のドレッシングは捨てた。
やや薄めのパンをトースターにセットして、焼き上がるまでにベーコンを炒めて、スクランブルエッグを作る。
彼はこの組み合わせが好きらしい。
最近旬のオレンジを食べやすいサイズにカットし終える頃に、丁度トースターからカリカリになったパンが飛び出した。
トントントン、と階段を下りる音。
そのまま洗濯機へ向かってパジャマを放り投げているのだろう、二階に来た彼はすぐにはリビングに姿を見せない。
その間にトレイに皿と、牛乳を注いだコップを乗せて運ぶ。テーブルの彼の席にトレイを置いた時、真後ろでドアが開いた。
「おはよう」
子供特有の高い声。
これを小鳥の囀りだと言った人間は、子供がよほど好きだったのだろう。私には気怠い声にしか聞こえない。事実、トムは寝起きで気怠いのだろうけれど。
「おはよう、朝食は出来ているよ」
「うん」
席に着いて、食事を始めるトム。健康な体を作るにはまず食事というが、彼を見ていてまさにそうだなと思わざるを得ない。
拾った時には血色も悪く髪も質が悪かったが、今は顔色も良くて髪も少し艶が戻った。僅か数十日でここまで良くなるのだから、子供というのは栄養の吸収率が良い体をしているのだろう。
「ねぇ、今日は何時くらいに帰ってくるの?」
カリカリのトーストにアプリコットジャムを塗って、少しパンクズを零しながら齧るトム。
明日はフレンチトーストにしようか。フレンチトーストならばクズが床を汚す事もないだろう。
「今日もいつもと変わらずだろうね、急患が無い限り」
「医者っていうのも面倒な仕事だね」
「人の命を預かるから、融通が利かないのは仕方の無い事だよ」
トムはふぅん、と気の無い返事をして、オニオンが入っていないサラダをつつく。
初日のサラダに入ったオニオンだけを綺麗に避けていたのでオニオン自体が嫌いなのかと思ったが、スープに入ったものは気にする様子もなくたいらげていた。トムは火を通したオニオンなら食べられるのに、生のオニオンは嫌いらしい。
確かにオニオンは独特の匂いがあるから、好き嫌いが顕著に現れる。更に生は毒素も強い為に、好きな人は好き、嫌いな人は嫌いなのだ。
「ねぇ、次はいつが休み?」
手帳など開かず、明後日だと答える。何処かに行きたいのかと問えば、別に、と返された。
「動物園に」
「嫌だよ」
「そう、行きたいの」
「はあ!?何でそうなるのさ!」
「私は動物園に行くのはよそう。と言おうとしていたんだよ。トムが嫌だと言ったから、行きたいって事だと解釈させてもらった訳だけれど」
トムの顔がかぁっと赤くなる。分かりやすい表情だ。
子供の相手をした記憶はあまり無いから、こんなにも子供は分かりやすいのかと笑う。するとトムは顔を赤くしたまま、眉根を寄せた。
「僕は行かないって言いたかったんだ!」
「そんなのは知らないね。最後まで聞かずに見切り発射するトムが悪い」
「だいたい、わざわざ動物園って言って、行くのはよそうなんて言うと思うわけないだろ!?キリーがおかしいんだよ!」
確かにそうだ。
休日は必ず動物園に行っていますという家庭でならば、次の休みは別の場所に行きたいから動物園に行くのはよそう、と言える。
しかし私達は一度たりとも動物園に行っていない。それなのに行くのはよそう、等と言う訳が無い。トムの予想は間違っていないし、正論だ。
しかし、人の話を最後まできちんと聞かないと痛い目に遭うとトムは少し学んだほうが良い。私だって動物園に興味の欠けらもないが、トムに学ばせる為にも行くとしよう。
「何処の動物園へ行こうか。今日、同僚に色々と訊いてくるよ」
「行かないって言っているだろ!」
「自分の発言には責任を持ちなさい」
トムはフォークを握る手に力を入れていて、少し震えている。口で負けたのが悔しいのだろう。
「トムの年にしては、十分過ぎるほど口が達者だよ」
「慰めは、侮辱だ」
人の優しさを突っぱねる気の強さ。
大人みたいに自尊心ばかり肥やして、こんなところだけ大人びていては生きづらいだろうに。
それに気付かないあたり、まだまだ子供だ。
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