ハリポタ 人を愛した死神 番外 | ナノ
七夕の夕立2013
それは稀に見る、夕立の日の事
人を愛した死神
番外 夕立の七夕
ピカッと空が光って、少しすると大地を震わせる唸り声が聞こえる。バシバシと窓を叩く雨粒は凶暴な牙みたいだ。
ベッドに座って、ブランケットを頭からかぶる。
暑いけど、急に光る空に比べたらまだ良い。
早く雷が過ぎてくれれば良いのに。そう思いながら、外を見る。
窓ガラスは雨に打たれて世界を歪ませている。
歪む世界で人の姿は頼りない。
キリーはこの雨の中を帰ってくるのだろうか。
傘、持って行ったのかな?
今朝は晴れていたし、さっきまで空は明るく陽射しが眩しくて目に痛いくらいだったから、キリーも油断して傘を持って行っていないかもしれない。
届けた方が良いかな?
でも、キリーはいつ帰って来るか分からないし、入れ違いになる可能性だってある。それにキリーは徒歩で帰ってくるのか、馬車で帰ってくるのかも分からない。
キリーの生活がどういう風に刻まれているのか今まで関心がなかったから知らないし、それに暗くなってから家を出るのは危ないって散々言われてきた。
きっとキリーは雨に濡れて帰るより、僕が外に出る事のほうを嫌がるだろう。
ピカッと空が光って、轟く音。それに混ざって、階下からガタガタと音がした。
キリーが帰ってきたんだ。
熱気のこもったブランケットを剥ぎ取って、部屋を飛び出す。
階段の電気はキリーが階下でつけたのだろう、オレンジ色に輝いていた。階段下を見ると、びしょ濡れのキリーが靴をひっくり返して水を抜いていた。
頭もお風呂でシャワーを浴びた時みたいに髪がべったりとくっついている。
「トム、ただいま」
「お帰り、キリー」
階段を駆け下りる。
ちょうどその時、背後の窓から光が飛び込んできた。それと同時に地面を揺するほどの衝撃。雷が落ちたと分かったけど、もう怖くなんてない。
そう思って次の足を出した時、世界が真っ暗になった。ビックリして、手すりを握る手に力を入れて足を止める。
「停電だね、トム、動いては駄目だよ。階段を転げ落ちてしまうから」
暗闇の中、キリーの声が雨音と大地を揺する轟音に混ざって聞こえてくる。その声だけが、僕の頼りだった。
「キリー」
「居るよ。ちょっと待ってね。……私が湿気っているからかな、マッチがつかない」
困ったね、と困った様子も無い声。
僕は手で探りながら階段に腰を下ろす。
バシバシと家を叩く雨。
まるで何か大きな生き物が家を壊そうとしているみたいだ。
生ぬるいし空気も床もベタベタして、気持ちが悪い。
轟音は大きな化け物があげている咆哮みたいだ。
「キリー」
「はいはい」
「キリー、まだなの?」
「ちょっと待ってね」
カシュ、カシュ、とマッチを擦る音。
何回か繰り返されたそれに、ポッと灯りが生まれた。
「よし」
キリーは玄関先に飾っていた…というより貰って置き場所が無かったから玄関先に置いていたのだろう花の香りがするというロウソクに火を付ける。
それは大きなロウソクだから明かりとするには最適なようで、キリーの顔も見える。
キリーはロウソクを持って、僕に近づいてきた。
「お待たせしました」
「遅いよ、キリーの馬鹿」
「仕方ないでしょう、これだけ濡れているんだから」
見ればキリーの服も体にへばりついていて、頭からバケツの水を浴びた状態だ。
「ひとまず、リビングに行こう」
キリーは自分の家だから足元が見えなくても不安が無いのだろう、自分の足元ではなく僕の足元を照らしながら階段をおりていく。
リビングに入って、テーブルにロウソクが置かれた。リビングの広さに対してロウソクの光はあまりにも小さくて、部屋にある家具の影がゆらゆらと壁で動いていて、何か黒い生き物が壁を這ってるようで気持ち悪い。
「しかし困ったね。暫くは復旧しないだろうし…」
タオルを引っ張り出したキリーは頭を拭き始める。
服を着替えたいのだろうけれど、キリーの服は一階のキリーの部屋だ。
明かりは今ここにあるロウソクしかなくて、一階の自室に服を取りにいけないのだろう。
別に僕は暗がりだって平気なんだから、ロウソクくらい持って行けばいいのに。
窓の向こうに見える世界は雲に覆われて薄暗いけれど、まだ夜の真っ暗さではない。
窓の外を見ていると、キリーが服を脱ぎ始めた。
「ちょっとキリー」
「だって、濡れているから」
「せめてカーテン閉めなよ。外から見える」
「ロウソク一個の明かりでは、外に照らし出されないよ。見えて影が動いているくらいでしょう」
「そういうものじゃないだろ!キリーの馬鹿!」
「本日2回目だね、馬鹿って言われるの」
「キリーが馬鹿だからだよ」
キリーは仕方ないと言うように、ワイシャツとパンツは脱がずに服の水をタオルで取ろうとしていた。
「もうすぐ夏がくるね」
キリーがポツリと呟いた。
キリーは窓の外を見ているから、表情は伺えない。
「夏は海に行こう。ピクニックも良いね。キャンプも……やってみようか」
「それ、キリーがやりたい事だろ」
「私はすべて経験済みだよ」
言われて、ちょっと驚いた。
いつも病院と家の往復だけだし、休日は僕にべったりだから他人との付き合いなんてないだろうから、そういうのを経験しているとは思ってもいなかった。
でも、キリーも大人だ。
僕が知らない昔のキリーは、色々経験してきていたのかもしれない。
そう思うと、灰色の空のように僕の肺にも重たい雲が溜まってくる。
「じゃあ良いじゃないか。そんなのやらなくて」
嫌な言い方になったと分かっている。
でも、何だかムカムカして、嫌な気分なんだ。
「どうして?」
「別に。僕が知らないからって気を使わなくて良いし」
「そんな事を考えていたの」
キリーは少し驚いたという口調で言った後、水浸しの布が奏でるひたひたという音を出しながら僕のそばに来て、僕を見下してくる。
それが気に入らない。
睨みつけると、キリーはロウソクで照らされたオレンジ色の顔に笑みを浮かべていて、それが経験者の余裕のようで少し鼻についた。
「トムと一緒に海で泳ぎたい。トムと一緒にピクニックに行って、私が作ったサンドイッチをお日様の下、芝生の上で食べて欲しい。トムと一緒にキャンプに行って、焚き火をしたり、川で遊んだりしたい」
何を、真顔で言ってるのさ…。
キリーはしゃがんで、椅子に座った僕を見上げてくる。
「そう願っては、駄目かな?」
卑怯だ。
キリーは凄くズルい。
そんなに幸せそうに、言わないでよ。
断れないじゃないか。
僕もキリーと一緒に色々したいって、思っちゃうじゃないか。
「駄目、じゃないよ……」
キリーは笑顔を浮かべる。
「楽しみだね」
キリーは立ち上がって外を見る。
雷はもう鳴っていない。
「もうすぐ、雨が上がるよ」
窓は雨粒が所々ついている状態。
もう全体が濡れるような雨粒ではなくなったのだ。
〜戯言〜
キリーさんの七夕に口にした願いは、リドルも願ったことなので、二人の願いは無事に叶うと思います。
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