ハリポタ 人を愛した死神 番外 | ナノ
30万企画:魔法界散策(未来if)蛇足
魔法界に連れてきたキリーは、普段使わない感嘆文をよく口にした。空を作る天井を見上げて「へぇ」と声を出し、触れると開花する蕾に「わぁ」と笑みを零した。
沢山の見慣れない物に、キリーは目を輝かせる。入学する前に買い出しに来た時は新学期の品ばかりが並んでいて必需品ばかり目についたけれど、今はクリスマス商戦の時期だから、プレゼント向けの物が沢山売られていて普段よりも珍しい、見るに楽しい品が多いのだ。
「キリー、こっち来て」
店を出て、キリーの手を引く。次は何を見せてくれるのかな?とキリーは楽しそうにクスクスと笑った。その笑顔を見て、僕との散歩を楽しんでくれているようで安心する。
夏休みと冬休みしか帰れないから、こうやって2人でいられる時間はとても貴重だ。それなのに冬休みに帰ってくるなと言われるのだから、こちらとしては不満しかない。
僕に学生生活を謳歌して欲しいという気持ちからの発言だと分かっているけれど、一緒にいるのが嫌になったのかもしれない。他に一緒にいたい人が出来たのかもしれない。そんな考えが渦巻いて、試しに何も連絡せず帰らなければキリーから問い合わせすら来なくて苛立った。
今頃一人の時間を、もしくは僕ではない誰かとの時間を満喫しているのではないかと不満や疑心が増幅していたのを思い出す。
今日だって早く帰ろうとでもしようものなら何か用事があるのかと問い詰めてやれるのに、キリーは僕との魔法界散策を満喫している。いや、もしかしたら今日は予定が入っていないだけで、明日は誰かとの予定が入っているかもしれない。
そんなの、絶対に許さないよ。君は僕の【お母さん】なのだから、【息子】の僕を第一に優先しなくてはいけないんだ。
「森の中のコテージ。今日借りてるから、そこに泊まるよ」
「とうとう彼女とご対面?楽しみだなぁ」
……ん?何言ってるんだ?満面の笑み、といった具合に口角を上げたキリーが僕を少し見上げて、それから「あ」と声を上げた。
「そうだ、トム、服は汚れていない?さっきショーウィンドウに写った際に身なりは確認したけれど、背中までは見えなかったんだよ。煤で汚れてはいないかな?」
「汚れていないよ。最初に魔法で綺麗にしたし」
「そうだったの?ありがとう」
空いた手で良い子、と頭を撫でてくる。身長も僕の方が高いのに頭を撫でるのは、流石に子供扱いではないかと思う。それで喜ぶような年ではないよ。まぁ、嫌ではないけれど。
「それよりキリー、彼女って?」
「トムの彼女だよ。コテージで初めましてかぁ。いずれはとは思っていたけれど、このシチュエーションは、少し緊張するなぁ」
「……あの、さ」
「そんなに緊張しなくて良いよ。大丈夫、これでも人付き合いはそこそこ上手く出来ると思っているよ」
違うよ。緊張はしてない。ただ、少し頭が痛くなりそうな事案を抱えているだけだ。
何で、どうしてキリーはこんなにも僕に色恋沙汰を押し付けてくるのだろう。この位の年ならっていうレッテルをそろそろ剥がして欲しい。
僕は周りに居る、ありふれた男達とは違うって、どうして分からないのだろう。
「これから行くコテージは、僕が日頃の感謝の気持ちを込めて、キリーにプレゼントとして用意した場所だよ。一泊二日、魔法世界の旅をプレゼントしているつもりなんだけど」
全寮制の学校だから、母の日を一緒に過ごすことは出来ないし、かと言って手紙に感謝の気持ちを綴るような性分ではないから、この数年間、何も出来なかった。けれど今回、この計画を立てている時に、日頃の感謝をこれに込めれば良いのだと思って企画した。
キリーは毎年12/23とその翌日に仕事を休むのを知っているから出来た企画だ。
「……」
キリーはポカンと口を開けて間抜け面。ポカンと開いた口から吐く息は、やっぱりあまり白くない。
「クリスマスパーティは夜からなの?」
「僕は参加するだなんて一言も言っていないよ」
キリーが勝手に妄想を膨らませて僕の学校での過ごし方を創り出しただけだ。今は彼女なんて居ないし、パーティは欠席だ。
キリーは驚いたようで目を大きく開いた後、問いただすなんていう愚行はせずにそう、とだけ返して来た。
「良い息子だよ」
「自慢の息子だろう?」
僕が成長すればするほど、親子に見えなくなる。今だってもう僕とキリーは親子には見えていない。見た目も似ていないから、年の離れた姉弟にも見えないだろう。もっと先では親子が逆転して、爺さんと孫になるかもしれない。
「魔法界のクリスマスを一緒に過ごそう。沢山の驚きをあげる」
「それは楽しみだね」
雪かきをするスノーマンや、冬に咲く光る花。他にも沢山見せてあげる。
一緒にゆっくり、二人の時間を満喫しよう。
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