ハリポタ 人を愛した死神 番外 | ナノ
30万企画:魔法界散策(未来if)
!attention!
この物語では、トムはキリーさんの体質を知っている前提です。
『キリー
この手紙が何日に届くか知らないけれど、
12/23にキリーを魔法界へ連れて行くから
仕事は休んでね 』
北風が吹き抜け、枯れ葉が地面を駆け抜ける時分。フクロウによって届けられた手紙には、随分と勝手な事を述べる文字が並んでいた。
冬休みに帰って来るのではなくパーティを楽しんで来なさい!と今夏も口酸っぱく言った。そうしたら帰省時期に帰るという手紙1つ届かなかったし、実際に我が家の玄関を叩く人もいなかった。
やっと学校の行事に参加する気になったのかと喜びつつも、ほんの少しの哀愁を感じていたところに、この手紙である。親離れしてくれたことを手放しに喜べなかった自分に呆れかえって、さっさと子離れしなければと自分の心に鞭打っていたところに、これである。
何でクリスマスイブの前日に、里親を魔法界に呼ぼうとするのだろうか。考えがさっぱり分からない。
トムくらいの年齢を想像すれば、好いた惚れたでうつつ抜かして一時も離れたくないとか、翌日のダンスに向けて準備をするとか、あるだろう。
なのに何で、この私を呼ぶのかな。
足りない頭で散々悩んで思いついたのは、彼女へのクリスマスプレゼント選びだった。男友達に言えば冷やかされるから、母親を頼ろうという魂胆だろう。
本当ならば姉や妹の意見を参考にしたいところだけれど、生憎姉や妹のポジションになる人物は居ないから妥協して母親を頼ってきたのかもしれない。
普通の母親ならあらあらと喜んで聞き入れるかもしれない。しかし忘れてならないのが、私はとうの昔に生まれ育った、例えるなら生きた化石なのだ。若い子の趣味なんて分からない。
どうやってトムの想い人が喜ぶ物を探せば良いのだろうか。
「……明日かぁ」
元々23日と24日はトムが帰ってきた時に一緒にクリスマスを祝えるようにと休みにしていたから問題はない。問題はないが、若い子の流行を知らない。
今はまだ店が閉まる前の時間だ。急いでコートを着なおして外に出れば、陽が沈んだ街は街灯だけの薄暗がりではなく、クリスマスのネオンで輝いていた。
クリスマスが終わり、新年が来ればネオンは無くなってまた街灯だけの世界になる。そうなったら今のように夜に出かけよう等と考えもしないだろう。
本屋でトム世代の女性が好む雑誌を買って、雑貨屋にも寄る。もうすぐ夕食時だと言うのに若い女の子が沢山いた。特に集まっている売り場を見て、何が求められているかを頭に叩き込む。大衆受けする物を選べば、ハズレはないだろう。
黄色い声がワイワイと騒ぐ中で、女の子達の話を意識して聞いてみると話題はやはりクリスマスプレゼントの事だった。好きな子に渡されたらという話をしていて、後ろのヘアアクセサリーを見るふりをしながら声を聞き漏らさないように集中する。
好きな子から貰えるなら何だって良いという全く参考にならない意見が多いけれど、それでもこういうのなら嬉しいなと言われて出てくるのはヌイグルミかアクセサリーだった。
ヌイグルミは病院でお見舞いの品として見る物と酷似している。何かのキャラクターなのかもしれない。成る程、あのキャラクターのヌイグルミが今は好まれるのか。
アクセサリーはやはり好みがあるようで、可愛すぎるのは、とか、大きなチャームは、とか色々錯綜していて難しそうだ。とはいえ、女性は流行に敏感だから、流行に乗っているチャームであればある程度は許されるのだろうけれど。
帰って雑誌を読んで、若い子の流行を学ぶとしよう。
翌朝、日が昇って少し経った頃。窓側のソファに腰かけてコーヒーを飲んで寛いでいると、リビングの暖炉から緑の炎が立ち上がって、中からトムが現れた。
いったい何が起きたのか。暖炉の先にはレンガの壁しかないのに、どこから出てきたのだろう。魔法使いだからと言われたら、凡人の私はそうですか、としか返せないのだけれど。
「随分と早いね、トム、おはよう」
「キリーこそ早いじゃないか。起きた時には居て、驚かせてやろうと思ったのに」
「それは残念だったね。でも今ので十分驚いたよ」
マグカップを落とさなかった事を褒めたくなるほどには、驚いた。トムは私が驚いていないと思っているようだが、驚きが過ぎると表情に出ないという事をトムは知らないのだろう。
ところでトムは朝食をもう済ませたのだろうか?問えば、軽く、という言葉だったので紅茶の準備を始める。
自分の席に座ったトムの服装は私服だ。てっきり魔法界の服装でくるかと思っていたのだけれど、どうやら魔法界の中でも、私服で良い場所に行くのだろうか?
それとも、冬休みだと私服で問題ない、という意味なのかもしれない。
「トム、お腹は空いてる?」
「ん…あまり。何かあるの?」
冬休みを学校で過ごすように言ったけれど、もしかしたら帰ってくるかもしれないと思い作っていたクリスマスプディングがある。それを言って良いものか考えあぐねいていると、クリスマスプディング?と目を細めて、更に口角まで上げて問われた。いつも思うけれど、この子は聡い。
「もしもの時用に作ったのが」
言い訳っぽくなるのを覚悟で言えば、トムは満足そうに頷いて食べる。と一言。
「1日早いけど、構わないでしょ?」
「トム以外食べる人はいないからね、いつ食べても良いよ」
紅茶と一緒に出せば、トムは一口食べていつもの味だと言った。味が分からないので作り方も分量も常に同じにしているけれど、気温や湿度で発酵具合が変わることも多いので、その一言を聞けるまではいつも落ち着かない。
やっとついた一息に、トムは意味を理解しているのかしていないのか、長い睫毛に縁取られた瞳を真っ直ぐにこちらへ向けてきた。
「この後、魔法界に行くけどその軽装で平気?あっちは雪が降っているよ」
「この上にコートとマフラーを纏うよ。それから、手袋も」
魔法界の人に触れた時、誤って食事をしては問題だ。魔法界の住民は私が人でないと嗅ぎ当てる可能性もあるから、極力危ない橋は渡りたくない。
「ん、分かった。じゃあ持ってきて。すぐに出発するから」
「すぐ?まだトム食べてるでしょう?そんなに急がなくても」
「僕は混む前に行きたいんだよ。人混みなんてまっぴらだ」
私と目を合わせずにプディングをフォークでつつくトムに成る程、と理解する。お母さんを連れてお買い物なんて、恥ずかしくて出来れば人に見られたくないという事なのかもしれない。
トムも思春期の男の子だ。私を傷付けないために言葉を選ぶけれど、実際は恥ずかしいとか、嫌だとか、考えているのだろう。
トムの姿に、病院で母親が付き添おうとして恥ずかしそうに拒絶する子供を重ねる。息子の見た目だけでなく、中身の成長が垣間見えて口元が緩んでしまいそうだ。
「キリー?」
口元を押さえた私を不審に思ったのか、トムは伺うように声を掛けてくる。
自分の考えが読まれたかもしれないと焦っているのだろうか?私に対してはどこまでも優しい子だから、私を傷付けはしないかと心配しているのかもしれない。本当に、可愛い。
「何でもないよ。すぐ支度をするから紅茶をゆっくり飲んで待っていて」
「うん」
コートとマフラー、手袋を身に付けてリビングに戻るとトムが暖炉の火を消して、暖炉の淵に緑と金銀の粉が入った小さなバケツを置いている。
「それは何?」
「フルーパウダー。これを持って暖炉の中に立って、ダイアゴン横丁って言って」
「よく分からないのだけど」
一応清掃員にお願いして綺麗にしているけれど、暖炉の中は煤だらけだし、あまり入りたくはない。今の防寒着は通勤時に着ている物なので、汚したくないのだ。
「じゃあ、手本見せるからちゃんと後を追ってきてよ?」
溜息交じりに言われて頷けば、トムは小さなバケツから一握りの粉を持って暖炉の中に入ってしまう。汚れると思ってトム、と声をかけたけれど、トムは握っている腕を突き出して「ダイアゴン横丁」と言うと手を開いた。
緑のキラキラした物が暖炉の下に落ちるとみるみる燃え盛って、深緑色の炎がトムを包み込む。
「トム!」
慌てて引っ張り出そうと手を伸ばすと、炎なのに熱さも無く、しかもトムが居たはずなのに何も掴めなかった。
「……え?」
まるで来た時と同じように、炎の中でトムは存在を消した。
魔法のアイテムだから不可思議な事が当たり前なのかもしれないけれど、流石に頭が追いつかない。緑の炎に飲み込まれて消えたトム。それと同じことをしろと言っていたけれど、どうしろと言うのだろう。
緑にキラキラしたものが混ざる粉を握る。この緑色の粉は可燃性の物で、炎色反応からしてキラキラしているのは銅の粒子かもしれない。こんな物で何処かに姿を消すなんて、流石マグルと呼ばれる我々の世界とはまるで理論が違う世界だ。
壁に当たらないように暖炉の中に潜って、ダイアゴン横丁と呟いて手を開く。
あっという間に足元から炎が舐めてきて、けれど熱さは無く、視界を緑の炎が埋めたと思えばすぐに鎮火して、視界には全く別の空間が広がった。
「……」
ガヤガヤと煩い、狭い建物内に人がひしめき合う空間。朝早い時間だというのに、もうこんなに人が居るのか。
「キリー、こっち」
突っ立っていると手を握られて、引かれる。
その手の主人は勿論トムで、後ろを振り返りみれば高さ2.5mはあるだろう暖炉が火を灯しもせずに大きな口を開けていた。
人が多い店から出ると、端に雪が追いやられた道に出る。店がひしめき合っているので、想像するに、ここがメインストリートなのだろう。
人が多く、まるで芋洗いのようだけれど、外気はやはり寒い。
「今さっきのは移動手段?」
「そうだよ。行きたい所を告げれば、繋がってさえいれば往来出来る」
「と言うことは、我が家も誰でも来られるということ?」
素朴な疑問を口にすれば、まさか!と返された。僕とキリー2人だけしか通過出来ないよ。と言われて安心する。
盗られて困る物は金品以外無いけれど、それでも知らない人に家の中を好き勝手徘徊されるのは気持ちの良いものではない。トムの部屋で誰かが勝手に寛いでいたら、その相手を悪気も無く食べてしまいそうだ。
改めて周りを見れば、老若男女が魔法使いらしい服装から私達の世界での服装まで、好きな格好で街を闊歩している。
服装に縛りがないのは有難い。私の服装も馴染めているようだ。
「トム、何処に行くの?」
「雑貨を見に行こうかと思ってるよ」
雑貨屋からプレゼントを探すのか。良い案だ。女の扱いや喜ぶ物をいちいち教えたわけではないけれど、知識として持っているのが頼もしい。ちゃんとそういった方面にも知識を広げているのだと思えて、母というポジション上、とても嬉しく感じる。
「キリーも魔法界の雑貨を真面目に見たことないだろ?きっと、楽しいよ」
「それは楽しみだね」
子供ながらに親も楽しませようと考えてくれているのがいじらしい。
仕事もあったから、あまり手塩にかけて育児をした記憶はないけれど、こんなに良い子に育ってくれるとは思わなかった。もしかしたら、私が反面教師だったのかもしれない。
「ところでトム、いつまで手を繋いでいるの?」
ぎゅっと握られた手袋越しの手は、夏に比べて大きくなったようにも思える。ただ、握り方が私の指を鷲掴みにするような形なので、力を込められると少し痛いのだ。
「キリーが迷子になったら困るからね」
一度手を離して、今度は散歩で手を繋ぐように握ってくる。親と手を繋ぐのは嫌ではないだろうか?普通は嫌がる。周りに友達でもいてみろ、からかわれる事間違いなしだ。
それに、意中の女の子からマザコン疑惑を持たれかねない。
「一緒に見て回るなら私は迷子にならないよ。そんな勝手にいなくなるような性格ではないって、知っているでしょう?」
「……キリーは手を繋ぐのが嫌なの?」
何でトムが拗ねるのだろう。
魔法使いの中にマグル嫌いがいるとは聞いているけれど、私がトムから離れなければそういう輩に絡まれる心配もないだろうに。手を繋がなければ心配だなんて、過保護にも程がある。
ここは一度、突き放すべきか。
「大きくなった息子と手を繋ぐ母親ってあまり見ないからね」
常識を押し付ければトムは一瞬眉間に皺を寄せて、それからあっさりと手を離した。罪悪感はあるけれど、トムのメンツの為だ、致し方ない。
「じゃあ、はい」
「?」
手を腰に当てて、脇に三角のスペースを作るトムに、何で腕を組ませるように促すのかと頭を抱えたくなった。確かに、老いた母親をエスコートするのに腕を組む親子は見るけれど、私は見た目上そんなに老いてはいない。
実年齢を言われたら、マグル界きっての年寄りだけれども。
「これなら良いでしょ?」
「良くないよ」
「何で。エスコートしてあげるって言っているのに」
「私はエスコートが無くては歩けないほど年寄りではないからね」
「年寄りのくせに」
「肉体は若いんだよ」
腰に三角を作る腕を押して閉じさせると、断られた方が恥だと言われた。もしかしたら彼女への予行練習だったのかもしれない。それならば、申し訳ないことをした。
「トムくらいの歳の子が、親と手や腕を組むなんて、親離れ出来てないって囃し立てられるでしょう?」
「は?キリーは僕の親に見られてると思ってるの?」
「え?」
親に見えてないと?親なのに?
結構ショックだ。確かに親らしく振舞っていないかもしれないけれど、もしトムが友人に会っても紹介される時は「親」ではなく「知り合いのおばさん」扱いをされるのかもしれない。
「あのさぁキリー、最近自分の顔見てる?」
「今朝も化粧したから見ているよ」
「成長止まってるの忘れてる?」
「忘れていないよ」
「自分をいくつに見積もってる?」
「20代後半から30代前半かな。そこら辺で成長も止まったし」
「僕の見た目は?」
「十代後半だね」
「そうなるとキリーは10歳から15歳位で僕を産んだことになる」
「長く説明しなくて良いよ。並んでいても親に見えないってことでしょう?」
「そうだよ」
分かったなら手を繋げるだろ?と手をまた出される。
諦めるつもりがないのか、厄介な子供だ。
「歳の離れた姉と手を繋ぐというのもそうそうないと思うけれど……」
「見た目似てないから姉に見えないし、そもそも僕が孤児なのは知れ渡ってるよ」
「分かったよ。でも、友達が来たら言うんだよ?」
「はいはい」
差し出された手に革製の手袋を纏った手を添える。きっと友達がいても、親告したりはしないのだろうなぁと思った。
トムに雑貨店に連れて行ってもらうと、そこは不思議の国のアリスもびっくりするワンダーランドだった。空を飛んで文字を描くペン、天井は空を映し出してサンタを走らせる。当たり前のように物が浮く空間に、知的好奇心が刺激される。
「見て回っできても良いかな?」
見て回るのもリサーチだ。だってこんな多種多様なものが売られていては、マグル界でのリサーチなんて全くの無駄だ。新たにリサーチしなければならない。そう、これはリサーチであって、決して自分の知的好奇心やそれに付随する欲求を満たすだけではない。トムの貴重な時間を無駄にはさせない。そう言い聞かせて、トムと繋いでいる手から力を抜く。
「ん、分かった」
繋いでいた手を離して、雑貨を1つ1つ見て回っているとスノードームの中で雪遊びをしているスノーマンがいた。
ゼンマイ仕掛けで動いているのではなく、好きに動き回っているから中のスノーマンもやはり魔法の品なのだろう。見ている私に気付いたのか、中にいるスノーマンが手を振ってきた。振り返せばスノーマンは跳ねて喜ぶ。随分と可愛い性格のようだ。
「気に入ったの?」
後ろから声をかけられて、びくりと驚いてしまった。そんなに驚く?とトムに言われて、少し気まずい。
「いや、スノーマンが勝手に動くから面白いなって」
「ふーん。そういうの好きなんだ」
「こちらでしか見ない品だから見ていただけだよ」
「……そう」
スノードームは見た目としては綺麗だけれど、置物だ。見るたびに渡された時のことを思い出すには良いかもしれないけれど、季節が限られているし重たいから貰ってもそんなに嬉しくないだろう。何より、部屋の片隅に置かれて相手にされないスノーマンも可哀想だ。
ヌイグルミを探すけれどマグルで人気だったキャラクターは無くて、仕方ないのでアクセサリー売り場に足を運ぶとトムもついてきた。
参考にしようと考えているのだろう。素直に彼女に買いたいのだけど何が良いかと聞いてくれれば、一緒に考えられるのに。
チャームとチェーンの装飾を見て、少し大人を意識する年齢だから大人っぽい物を選ぶ。魔法界の物だからだろう、チャームの中にはめ込まれた石がゆっくりと色を変えていた。
「こう言うのが人気だと思うよ」
「何その言い方。素直に気に入ったって言えば?」
私が気に入ってどうするの。と言いそうになって、止める。思春期の色恋沙汰はナイーブなのだ。不用意に足を踏み込むのは繊細な心を傷付けかねない。知らないふりに徹するのが良いだろう。
「他に、魔法界の物で良いなって思ったのはないの?」
「それなら、入り口付近にあったペンが欲しいな。自動書記のペンがあったでしょう。外では使えないけれど、家で使えば手が疲れることはないし」
家にカルテを持って帰って仕事している時は、ペンの持ちすぎで手が疲れてしまうことがある。
独り言は佗しい気もするが、発声をすれば耳に入り記憶にインプットされやすい。さらに勝手に記述してくれるなら、かなり効率的だ。
「そんな物で良いの?」
付き合ってくれたお礼にという意味で私にも何か買ってくれるのだろうか?勿論、と答えれば、じゃあ買ってくるからと言って文具エリアに行ってしまう。
ネックレスは私を帰してからまた此処に買いに来るつもりなのだろうか。二度手間になると、効率性を先に考えてしまう私には、やはり男の子の気持ちというのは分からない。
「トム、私は二階の雑貨を見てくるね」
ペン売り場にいるトムに一声かけて、買い物が終わったら二階に来てね、と告げて階段を登る。これで一階にいるトムがネックレスを買えば、二度手間は無くなるのだけれど、私の気遣いを理解しているだろうか。
二階は一階とは異なり、女の子が好みそうなファンシーなネグリジェなどが置いてあった。後で二階に来てねと言ったけれど、男の子は足を踏み入れづらいだろう。
かといって階段を降りるわけにもいかない。仕方なく階段付近をうろうろしていると、殊の外時間が経ってからトムが階段を登ってきた。
「待たせたね」
「全然。若い子たちに囲まれて、最近の流行とやらを知れて良かったよ」
「そっちの流行とは内容が違うと思うけど」
伸ばされた手と繋いで、階段を降りてそのまま店を後にする。プレゼント用に包装されたペンをはい、と渡してきて、息子からのプレゼントはこんなにも嬉しい物なのかと今更ながら思う。
「ありがとう。大切に使うね」
「そんなの消耗品なんだから、また必要になったら手紙にでも書いてよ。添えて送るから」
「プレゼントとして初めに貰った物だから、大切なんだよ」
トムから貰った物は、どれも大切な宝物だ。将来私が独りになった時、プレゼントされた物を見るたびにその時の情景が蘇るのだろう。
だって、トムは私が初めて真面目に、全てを晒して向き合った人物なのだ。何十年、何百年経ったとしても、トムとの思い出は色褪せないだろう。
「さて、買い物も終わったし、雑貨を見て回れたから私は満足したよ。トム」
「は?何?もう疲れたの?」
「そうではないけれど」
「じゃあ、もう少し付き合ってよ」
手をぐいっと引かれ、足がもつれそうになる。
「エスコートが下手だよ、トム」
「エスコートして欲しいなら、少しは空気を読んだら?」
難しいことを言う。トムはこの1年半ほど、ポーカーフェイスが上手くなったから空気を読むというのが難しいのだ。何を考えているか分からない。
せめて私くらいには素を、喜怒哀楽を出してくれても良いのにと思うけれど、やはりこれくらいの年頃の心は複雑なのだろうと、寂しく感じるが諦めてもいる。
思春期の異性に、親はあまり口を出すものではないのだ。
手を繋いだまま、魔法界の商店街だろう道を歩く。
見たい所があったら入ろう、という言葉に、もしかしたら私への日頃の感謝の意味を込めて親孝行として見知らぬ世界を散策させてくれているのかもしれない。
そう思えば、無表情も可愛く見えてくる。
「ねえ、トムが良く寄る店に行ってみたいのだけど、どうかな?トムの此方での生活を垣間見たい」
「手紙で書いてるのに?」
トムがふふっと笑った。白い息を吐いて、少し赤らんだ頬を緩めて、笑っている。子供の頃から変わらない笑い方だ。
口元が勝手に緩むけれど、それを隠す必要はもうないだろう。
「私はあちらの世界しか知らないから、想像が合っているか分からないんだよ。だから、見たいな」
「じゃあ、案内するよ、キリー」
「エスコート宜しくお願いします。トム」
トムの見た世界。トムの聞いた音。感じたもの。それらを追体験出来るのが嬉しい。
私はきっと、今日という日を、永遠に忘れないだろう。
シュサ様
初めましてシュサ様!この度はリクエストいただき誠にありがとうございます!
まさかジャンルを超えて小説を読んでいただけているとは、作者冥利に尽きます。本当に、ありがとうございます。
まさか古い作品の幻想水滸伝まで読んでいただけているとは…幻想水滸伝は随分と昔に書いた作品なので文章が拙いと思いますが、好きと言っていただけて嬉しいです。
モノノ怪の連載が落ち着いたので(とは言え、番外編が多いのと、END後の物語があるのでまだ更新は続きますが)跡継ぎと人を愛した死神を中心に更新をしていきたく考えております。
リクエスト、シュサ様が勇気を出してくださったおかげで、魔法界にヒロインを招待することが出来ました!
トムがそこそこ大きくなっていて、ヒロインの体質を理解しているという設定を盛り込んで書いてしまいましたこと、ご了承ください。
因みに、これにてこの物語は終わりですが、ここで書ききれなかった物語を蛇足として後ほど上げさせていただきます。
1つに纏められず、済みません。
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