ハリポタ 人を愛した死神 | ナノ
act.06 冒険
朝食はいつもと変わらず、キリーは新聞を読んでいて、僕はジャムを塗ったトーストを齧っていた。そう、それはいつもと変わらないのだけれども、一つだけいつもと違う事がある。それは、キリーが読んでいる新聞のページが変わらない事だ。
ずっと同じ項目を読んでいる、という事だろうか。
「キリー?」
「ん?」
顔を上げたキリーは、いつもと変わらない。
「そこに何の記事があるの?」
キリーはニヤリと笑った。その口の片端を上げる笑い方は、やめたほうが良いと思うよ、悪どい顔になってる。
「知りたかったら自分で読めるようになる事だね」
「なっ……」
まだ名前が書けるようになったばかりだと言うのに、何を言いだすんだキリーは。僕が読めないって分かって言っているな。
馬鹿にするな。
「嫌いだ」
「嫌よ嫌よも好きのうちってね」
「その考え方が腹立つ」
「こらこら、怒らない」
怒らせているのはどこのどいつだとキリーを睨むけれど、キリーは口の両端を上げて笑顔だった。
人を愛した死神
act.06 冒険
キリーが鞄を持つのは、もう仕事先へ行くという合図だ。鞄を持ったらそのまま玄関へ行って、出ていく。中身の確認はいつもしていないけれど、キリーの事だから、事前にチェックとかはしているのだろう。
「一人で寂しいだろうけど、夜まで我慢していてね」
「寂しくないから帰ってこなくて良いよ」
「本当の気持ちの逆を言うとは、寂しがり屋なお口だね」
キリーはしゃがんで、ちょん、と僕の口をつついた。
「触るな!」
手を叩き落とそうとすれば、キリーはすぐに手を引っ込めて避ける。おかげでこっちは空振りだ。
それを微笑みながら見てくるから、余計に腹立つ。
「あぁそうだ、トム」
「何?」
キリーが子供に言い聞かせるように、僕と目線を合わせて口を開く。その瞳はいつものからかいが無くて、僕も真っすぐに見返す。
「誰が来ても開けちゃいけないよ?」
「何?変な奴でも来るの?」
キリーはにこりと笑った。
どういう事なのか分からない。
「ねぇ、誰が来るの」
「悪ーい人がね。最近空き巣も多いらしいから、注意しなさい。もし知らない人が上がり込んできたら、戦おうなんて思わずに逃げること」
良い?とキリーは言う。
新聞を食い入るように読んでいたのは、空き巣の記事が原因か?否、それは良いとして、戦わずに逃げろって、何を言ってるんだ、キリーは。
「そんな事したら物が盗まれるよ?」
「一番大切な物が盗まれなければ、良いんだよ」
「一番大切な物?」
それは、この家に無い物なのか?キリーの大切な物って何だろう?
いつも身につけているのかな。それとも僕が盗むと思って何処かに隠したの?孤児院の奴等みたいに。
キリーは満面の笑みで、こう言った。
「トムだよ」
「え?」
「だから、全力で自分を守りなさい。良いね?」
片頬に手が添えられて、もう片頬にチュ、と音がするキスがされた。見上げると、キリーは満足した様子で、行ってきます。と言った。
キリーが去って、パタンと玄関扉が閉まる音がする。
「……」
柔らかい物が触れた頬を押さえると、そこが熱くて、それが恥ずかしくて、悔しい。
キリーは、スキンシップが多すぎる。
キリーが空き巣がいると言ったから、窓が閉まっているかが気になってくる。三階や二階は人が入ってこられないだろうけど、心配だから見て回ろう。
三階は僕の部屋と倉庫らしき部屋と、トイレがある。僕の部屋は窓がちゃんと閉まっていた。
トイレの窓は少ししか開かないから、平気かな。でも、もしかしたら身体がタコみたいに柔らかい奴がいるかもしれないから、閉めておこう。
「それから……」
倉庫らしき扉を見る。
勝手に開けて良いのかな。……否、他人の僕を招いたのだから、見られたくない部屋なら鍵をしているはずだ。
孤児院でも、先生は入って欲しくない部屋には鍵をかけていたし。もし鍵をしていないなら、僕に見られても良いって事なんだろう。
……何となく、キリーはそういう、勝手に物を見られやしないかという危機感を持っていなさそうだから、鍵をし忘れていそうな気もするけど。
でもそれはキリーが不用心なだけであって、僕が悪いわけじゃない。それに僕は、泥棒が居るか居ないかを確かめる、良い行いをするのだ。それが悪いはずが無い。
ドアノブに手を添える。
鍵がかかっていたら、中に悪い人が入っていても出てこられないし、僕が後ろめたさを感じる必要も無い。鍵、かかっていたら良いな。
ドアノブを回して、押してみる。
すると、引っ掛かりもなく、あっさりと扉は開いた。
……やっぱり、キリーは不用心だ。
中を見ると、壁にクローゼットが一つ、それから掃除用具だろうバケツやモップがあるだけだった。どんよりとした空気に加えて少し埃臭い部屋に、何だ、ただの物置か、と少し拍子抜けする。
何かキリーが見られたくない物でも隠していれば面白かったのに。空気の悪さからして、物置の窓は開いていないだろう。……だけど、確認だ。
部屋に入ると、床は少しザラザラしていて、埃がうっすら積もっていたのだと知れた。埃を纏ったレースのカーテンを退かして、窓に触れると、鍵はかかっていた。
「っくし!」
埃が鼻に入ったみたいでむず痒い。さっさと部屋を出よう。
二階に降りて、リビングの窓を確かめて、浴室も見に行く。
続いて一階に降りる。
一階はキリーの部屋と、トイレがあるのだけれど、キリーの部屋には入った事が無い。どんなものなんだろう。
窓の鍵がかかっているかの確認だけだし、入っても良いはずだ。
キリーの部屋の扉のドアノブに触れる。押してみればやっぱりすんなり開いて、不用心だと思う。
「……え」
初めて見るキリーの部屋は、ローテーブルと向き合ったソファという、客間のような空間。
ソファに毛布はあるけれど、ベッドが無い。
キリーの部屋の、はずなのに。
だってキリーはおやすみと言って毎夜リビングを出て一階に下りて、この部屋に入って行っていた。だからキリーはここで寝ている筈なのに。
「……訳、分かんない」
キリーはいつもどこで寝ているのだろう。もしかしたら、まだ部屋があるのかな。
そう思って家の中を散策するけれど、縦長いこの家は一階に客間とトイレ、二階にはリビングとお風呂、三階に僕の部屋と倉庫にされている部屋とトイレだけだった。
まぁ、窓を閉めて回ったから、最初の目的は達成だ。
これで泥棒は入ってこれない。後はゆっくり過ごそう。
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