ハリポタ 人を愛した死神 | ナノ
act.22 学校選び
結局雑貨屋でトムが何を買ったかは分からず、紙袋を後生大事そうに抱えて此方に駆け足で来るのを見るだけとなった。
「買えた?」
「うん。はい、これ、おつり」
手に握った紙幣とコインをずいっと突き出して来るのでそれを受け取れば、随分と残っていた。どうやら子供に見合った安い買い物だったようだ。
戻って来たお金を、買ったばかりの小さな財布に入れているとトムは何してるの?と疑問を口にした。普段使っている財布と違うこれに疑問を持つのは、考察力があるという事だろう。
「はい、トムの財布」
「僕の財布?」
「そう。一緒に出かけた時、買い物を自分で出来るようにトムの財布」
今の服装に合う斜め掛けの鞄とお金が入った財布を渡せば、嬉々として二つを受け取った。慣れない手つきで財布を鞄に入れて、鞄は斜め掛けにしている。もしかしたら、財布を持った事がないのかもしれない。
トムが買い物している間にトイレに駆け込み、それでも余った時間で選んだ即席の物だけれども、そこそこ気に入っているようだ。
「さて、帰ろうか」
「うん」
店を出て、手を差し出せばトムは繋いでくれる。
この関係に成れた事が、とても嬉しい。
人を愛した死神
act.22 学校選び
夕食の材料を購入して帰宅すると、購入品を抱えてトムは即座に部屋へと行ってしまった。
そんなに知られたくない物なのだろうか?あの雑貨店でそんな特殊な物が売られていたとは思えないのだけれど、何を買い、どうして隠しているのだろう。他人に向ける好奇心なんて干物のように枯れ果てたと思っていたのに、水を得たかのように膨張するのだから、生き物というのは厄介だ。
とは言え、家族だからというのを大義名分に干渉しては、「家族」という概念を煙たがられる可能性もある。せっかく家族という外殻を得たのに、それが内側から瓦解するのは良くない。
ここは私が好奇心を抑えるのが妥当だろう。
息を一度大きく吐いて、三階に駆け上がったトムに手を洗うようにと二階から声を少し大きくして伝えれば、はぁい。と陽気な声。帰ってきて安心したからか、それとも買い物が出来て上機嫌だからなのかは不明だが、嬉しそうで何よりだ。
駆け下りてきたトムは、手を洗うとまたすぐに部屋へ戻ってしまった。きっと買ってきた何かに夢中なのだろう。テキストと筆記用具と絵本しか買っていなかったから、この数週間、トムには退屈だったのかもしれない。
子供の気持ちが分からない大人になっていた自分が恥ずかしい。これからは定期的に雑貨店へ連れて行って、トムに好きな物を買ってもらうとしよう。
休みの日は凝った料理を作るようにしているので、今日も早めに台所に立つ。休日の陽が傾く時刻。随分と静謐なものだ。こういった日々がいつまでも続けばいい。そう、思った。
夕食の席で学校の話をすると、トムからの要件は「年齢に合った学年への入学」「自宅から通う」であった。
前者はトムの性格を思えば納得出来る意見である。この子は負けん気の強い子だから、年下と同じ教室に居るのを周囲が許しても自分が許せないだろう。己の境遇を嘆いてその立場に甘んじる事はないと思っていたから、これから暫くは教師役を務めるか、家庭教師を雇おう。
後者は、寮がある学校のほうが歴史は古く厳格であるけれど、孤児院で集団生活をしていたトムにとって寮生活というのに好印象を持てないのかもしれない。
まったく環境は違うのだけれど、私がどれだけ話したところでトムの骨身に染みた集団生活の印象を払拭出来ないようだ。
「お昼や夜に温かい食事が食べられるよ?」
「そんなに寮に入れたいの?」
嫌そうに顔をしかめるトムに、そんなつもりはないとは言えない。正直、寮に入ってくれたら冷めた昼食や夕食を食べさせなくて良いし、独りぼっちでの食事を強いることもない。それに私の業務によっては不規則になる生活リズムにトムが付き合うこともなくなるし、子供に鍵を持たせて通学させることもない。
メリットとデメリットを考えれば、生活面でのメリットは圧倒的に寮生活にある。
それに、私にもメリットがある。
一つに食事をしなくて良い事。
二つに、お金を払いさすれば学校はトムを守ってくれるから、私が老いない事に疑問を持つ前に私が姿を消したとしても、支払いさえし続ければトムの衣食住は保証される。
トムが嫌がる理由も理解しているけれど、それは孤児院と比較するからだ。学校は学費を払って、親が子を安心して預けられる設備を用意している。それを思えば、きっと環境は良いはずだ。周りも教養を身に着けているから、瞳の色を理由にトムを傷つけはしないだろう。
私の考えはきっと理詰めになる。けれど、今のうちに話してトムの記憶の片隅に置いておいてもらうのも良いだろう。
そう思って一通りの説明を終えた頃には、トムは表情を険しいままに、口をへの字にしていた。
「寮生活って、いつ帰ってこられるの?」
「基本的には夏季と冬季の長期休暇の二回だよ。両方とも約一か月くらいかな?」
パンフレットを捲って中身を確認して伝えれば、そう。という言葉。
「良いよ。分かった。寮のある学校に入るよ。でも、最初は家から通う。それで、僕が寮に入っても良いと思ったら、入寮するよ。それで良いでしょう?」
「途中入寮?出来る学校あったかな……」
そんなに融通が利く学校があったとは思えない。最初入寮していて、学校の事情や本人の事情で止む無く退寮というのはあるけれど、逆が通用するだろうか?
そもそも寮がある学校は敷地が必要になるから、必然的にこの家からの距離が問題になる。通学を考えると厳しい。
「あったらそこに入る。無かったら、寮が無い学校に入る」
「ねぇトム、学校っていうのは寮だけで決めるのではないんだよ?通学にかかる時間は大きいし、他にも色々見なければいけない箇所は沢山あるんだよ」
「そういうのは分からないからキリーが選んで」
あっさりと投げ捨てられる采配に、トムの事なのだけれど。と口をついて出そうになって辞める。
まだ小さな子供に学校を選べと言うほうがおかしいのかもしれない。本来ならば親が初等部までの道は舗装するのだろう。その後の道は、その子の歩みたいように歩ませるのがきっと親だ。
「分かった。トムに一番いい学校を選ぶね」
「うん。よろしく」
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