ハリポタ 人を愛した死神 | ナノ
act.01 出会い
周りに疎まれていた。
院長も、僕を悪魔の子だと称して周りから遠ざけた。
苦しかった。
何で誰も僕を必要としてくれないのだろう、愛してくれないのだろう。
別に周りと同じように、嫌いな物を頑張って食べて偉いねと頭を撫でて欲しかったわけじゃない。
後ろから先生に抱きついて、先生が困ったように笑いながらその子を抱き止めるみたいに、抱き締めて欲しかったわけじゃない。
ただ、恐怖の対象にしないで欲しかった。
周りと同じように、おはようと言えば笑顔でおはようと返してもらえて、おやすみなさいと言えばおやすみなさいと言いながら頭を撫でて欲しかったんだ。
声をかければ気持ち悪いモノを見るような顔をして、何か問題があればすべて僕のせいにするのではなくて……
言葉に耳を傾けて欲しかった。
ただそれだけなのに、皆が当然のように与えられているものを望んだ僕を神様は罰した。
僕はやっていないと言ったのに、罰として一日外にいる事を強いられた。
何でこんなに苦しいのだろう。
空を見上げる。
僕の瞳よりもは薄い、紅と橙を混ぜた色の月が僕を見下して、嗤っていた。
人を愛した死神
act.01 出会い
気が付いたら、駆け出していた。
月がこっちだ、こっちだ、と僕を呼ぶ。
お前が居る世界はそんな普通の世界ではない、特別な世界なのだと。
息が切れて、煉瓦造りの道で何も無いのに転ぶ。
空っぽの胃からせり上がってくる何かは、喉元で留まって喉を焼く。
カラカラに乾いた口が痛くて、涙も無いのに目が霞む。
起き上がりたいのに、身体が震えて起き上がれない。
特別な力も、こんな状態ではろくに使えない。
悔しい。
悔しい。
これでは、本当に僕はただのちっぽけな嫌われ者になってしまう。
空を見上げると、紅い月が相変わらず嗤っていた。
暖かくてふわふわした感覚に、ここは天国だと分かった。僕でも死んだら天国に行けたのか。
僕は悪魔の子供だから、てっきり地獄に行くんだと思っていた。
けれど瞼を透ける明かりと、鼻をくすぐる石鹸の清潔な香りは、ここが『良い所』だと物語っているから地獄ではない。
口の中がカラカラで、唇がへばりついて開かない。代わりに瞼を上げれば、世界は少し青みを帯びて見えた。
白い天井に、白熱電球が吊されている。
壁から壁へ、紐がサーカスの綱渡りのように繋がって、何かがぶら下がっている。
人がいた空間を思わせるここに、思わず顔をしかめた。
途端に、頬に走る痛み。
驚いて触れてみれば、そこには布が貼り付けられていた。
トン、トン、と階段を歩く音がして、身体が強ばる。
ここは何処だ。
僕はどうしてここに居る?
カチャリと開く扉に、咄嗟にとった行動は狸寝入り。
部屋に入ってきた誰かは何かをガタガタと動かした後、僕の額に触れてきた。思わず目元に力が入ってしまって、すると相手は「起きた?」と訊いてきた。
その声は女のそれで、穏やかなものだった。
女1人ならば僕の力でどうとでも出来るから、瞼を上げる。
そこには予想通り女の人が居て、白熱電球の光を背後から受けて少し影みたいになっていた。
「おはよう」
「ぁ……」
へばりついた唇を無理に開けてみても、口の中がカラカラで舌が丸まっていて声が満足に出ない。女の人は微笑んで、僕の髪を撫でながらまずは水を飲みなさい。と言った。
体を起こせば、女の人はデスクに置いた硝子瓶からコップに水を注いで、僕に差し出してくる。
受け取って大丈夫なのだろうか。
毒でも盛られていたらと考えるけれど、それを調べる方法を僕は持ち合わせていない。
女の人は何を思ったのか、急にコップを自分の口をつけたと思ったら水を飲んだ。
「砂糖を少し入れて甘くしているけれど、変な物は入っていないから、安心して飲みなさい」
コップにまた水が注がれて、差し出される。受け取って口に付けると、乾燥した唇がコップに吸い付いた。
口に含むとほんの少し甘い水はどんどん喉を流れて、カピカピに乾いた舌が膨らんでいくのが分かる。すぐにコップは空になってしまって、まだ喉も舌も潤いきっていないからガサガサした感覚が残った。
それを察知したのだろうか、女の人はコップにまた水を注いでくれる。ゆっくり飲みなさい、という言葉をかけられたので今度は一口だけ水を含む。口の中の皮膚が水分を吸っているみたいで、膨らむような感覚。
「口の中は痛くない?」
「う、あ、はい」
「そう」
女の人は机に置いたお椀の中身を一口食べて、大丈夫だと見せた後にまた僕に差し出した。
コップと引き換えに受け取ったお椀の中を見れば粥が湯気をたてていて、僕は黙ってスプーンを動かす。口の中に入れた粥はミルク味で、カサカサして表皮がやられた喉に刺激はない。
口内でとろりと溶ける温かいご飯。幸福な気持ちになった。
空になったお椀を受け取った女の人は、僕に満腹になったかと訊ねてくる。頷けば僕の頭を撫でて、寝ていなさいと言う。
「でも、あの」
「何?」
「どうして、僕がここに?」
女の人はじっと僕を見てきて、気まずさに目を伏せた。
紅い瞳を気持ち悪いと言われそうで怖い。
悪魔だと言われたら、苦しくて殺してしまいそうだ。
「倒れていた君を偶然見つけたから助けた、ただそれだけだよ」
さぁ寝なさい。と言われる。けれど不安で仕方ない。
悪魔の子を助けるなんて、有り得ない。そうか、この人は僕が倒れていたから助けたのであって、瞳が紅いと知らなかったのだ。
だから助けた。
紅い瞳だと知っていたら、きっと助けたりしなかったはず。
「心配せずに眠りなさい。私は君に危害を加えはしないから」
そんな言葉、誰が信じるだろう。優しく囁いた後に手のひらを返すのが人間だ。
僕はそれを、身を持って知っている。
なら、それなら。
掌を裏返す前に僕が逃げれば良い。
利用するだけ利用して、また逃げればきっと大丈夫。
そう思えば、勝手に笑みが浮かんだ。
「ありがとう御座います」
「ゆっくり休みなさい」
「はい」
女の人は僕の髪をさらりと撫でるように梳く。
僕は初めてのふかふかのベッドに身を沈めて、満腹感と充実感に満たされて眠った。
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