ハリポタ 僕らの時代 番外 | ナノ
巳年の子供達
授業中にグリフィンドール生が打った魔法が故意か過失かスリザリン生に当たったらしく、スリザリン寮の談話室はどうやって仕返ししてやろうかという話で賑わっていた。
談話室の煖炉で芋を焼いていた僕は会話に加わることなく、しかし情報は仕入れることに力を注ぐ。
厄介事に巻き込まれないためにも情報収集は大切だからね。
「あいつらを逆さ吊りにしてやろうぜ」
「それじゃ減点されるわ。またグリフィンドールが最優秀寮だなんて、冗談じゃない!」
「そうだよ、今年は俺達の年なのに」
俺達の年?
最上級生のセリフなら、最後に最優秀寮になりたいという意味で分かるが、それにしても声が幼い。
芋を舐める炎から目線を外し、後方を見る。
炎ばかり見ていたからか、それとも地下だからか暗く見える視界の先には想像通りの人集り。
ここに集まっている人たちは、グリフィンドールに敵対心を持っているかお祭り騒ぎが好きかのどちらかだ。出来れば関わりたくない。
先程「俺達の年」発言をした子供を探す。
声の主は東洋人の子供だ。
子供、と言っても確か一つ下の学年であって、東洋人の幼顔が彼をより子供に見せているだけなのだけれども。
「今年は干支で言うと巳年、蛇の年なんだ。つまりスリザリンの年なんだよ!」
エト…聞いたことがない単語だな。
ホグワーツ魔法学校は全寮制で、しかも多国籍の子供が在学するから異文化には触れてきたつもりだったけど、東洋にはまだまだ秘密があるらしい。
どれ、ある程度知識もついたからあとは自分で調べるとして、芋も焼けてきたし部屋に戻るとするかな。
僕らの時代 番外
1941年 巳年
「リドル、入るよ」
リドルの部屋をノックして、返事があったので入る。
そこにはいつも通りベッドに寝転がって本を読んでいるリドルの姿。
うつ伏せで本を読んで、よく肩が凝らないね。
否、いつも肩が凝っている状態だから、凝りの感覚が分からないのかな。
「何を読んでるの?」
「君が置いて行った色彩の本」
「あぁ、あれか」
暇つぶしに買ったカラーの種類と生き物の色覚についての本。
僕は暇なら興味がなくても本を読むんだけど、リドルは興味がないと本を読まない。
色彩に関して興味がなさそうだから読まないかと思っていたんだけど…以外だな、色に興味があったのか。
否、生き物の色覚について記されているから、それに興味を惹かれて読んでいるのかも。
リドルは生物に関しての内容には興味を持つからね。
マグカップをデスクに置いて、芋を半分に折る。
片方をリドルの顔と本の間に差し出すと、たちまち眉間に皺が寄って赤い瞳が睨みつけてきた。
「本を読んでいる時に邪魔されるの、嫌いなんだよね」
「知ってるよ。でも本ばかり読んで何も食べてないでしょ。知識に貪欲なのは良いけど、食欲が皆無なのは良くないね」
「君に食べ物を管理されるほど落ちぶれてないよ」
「良いから良いから、甘いよ」
不機嫌な表情のまま溜息をついて、仕方ないなと受け取るリドル。
こうやって僕の我儘を許してくれるのだから、本当にリドルは優しいね。
リドルは起き上がってベッドに座ると、隣を叩いた。
隣に腰を下ろす。
リドルはやっぱりお腹が空いていたんだろう、もくもくと食べ始めた。
デスクに置いていたマグカップを渡すと、黙って受け取って飲み始める。
「ねぇリドル、今年が僕らの年だって知ってた?」
「……は?」
うわ、物凄く馬鹿にした表情。
それはそうだろう、僕達はイギリス出身イギリス育ちなのだから、東洋の風習は知らない。
だからリドルも僕同様に「俺達の年」つまり「蛇の年」だというのも知らないのだ。
少しでも分かる話なら興味を持って話に食いついてきてくれるけれど、全く知らない話。
これは先に種明かしをしないとリドルは話に食いついてこないな。
本当は謎かけで話を進めたかったんだけどね。
「東洋にはエトっていう風習があるみたいだよ」
「エト?聞いた事がないな」
さっきの僕もこういう顔だったのかな。
怪訝そうな表情で、談話室の溜まり場を見ていたのだろうか。
「そこでは今年が蛇の年で、だからスリザリン寮の年だってさ」
「それで、僕らの年だって?」
「そういう事」
なるほどね、と言ってリドルは最後の一口を食べてマグカップを空にすると僕にマグカップを返却してきた。
それをデスクに置くと、リドルは伸びをしながら仰向けに倒れた。
「で、ナチはどうなの?」
「え?」
顔だけをこちらに向けて、リドルは口を動かす。
「ナチは今年が自分の年になるって思ってるの?」
変な質問。
リドルにしては曖昧で非現実的なセリフだ。
「どうだろう。僕は毎年楽しんでるからね。今年が特別っていうのはないかな」
「だと思った」
リドルは笑う。
穏やかな笑みに、こちらも勝手に頬が緩む。
「リドルは?」
「え?」
「リドルは今年、特別?」
リドルは少し悩むように視線を彷徨わせて、それからふっと笑った。
「毎年ナチの面倒事に振り回されてるからね、ナチが特別何かしない限り、僕は例年と変わらないよ」
「面倒事って…」
「事実だろ?」
それは……否定できないか。
エイプリルフールには伝説の虫、と言うより勝手に図鑑に嘘書いて作り出した仮想の虫を探すのに付き合わせたし、夏には湖にリドルを巻き込んで飛び込んだ。
冬には雪が降ったら連れ回している。
あれ、思った以上にやりたい放題しているな、僕。
昨年の所業を思い出して、リドルに対して申し訳なさを感じる。
でも、後悔はしてない。だって今年もやるから。
「今年も例年通りの年になりそうだね、リドル」
「少しは自粛しなよ。そうすれば僕としては楽でいい」
「でも、それだとラクではあるけど楽しくないでしょ」
「ここは学び舎だ。楽しみなんていらないね」
「全寮制でそれ言ったら、何も味気ない人生になっちゃうよ」
人生は短いんだ、楽しまないと、ね?
「じゃあ、今年は特別な年にしようか」
「…僕の話を聞いてなかったの?」
思い切り嫌な顔をして、起き上がって僕を睨みつけてくる。
「さっきの芋みたいに素材の味だけを楽しむのも良いけど、そればかり食べていても飽きるでしょ。食事は様々な食材と調味料が有るからこそ飽きないんだ。僕はリドルという食材の調味料、人生のスパイスになっているんだよ」
「…そういうのは女に言えば?流石に寒かった」
知ってるよ。
「自分でも言ってて寒かった」
笑って言えば、呆れた笑い。
今年もきっと、素敵な年になる。
1941年、僕達は今年、14歳になる。
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