ハリポタ 僕らの時代 番外 | ナノ
ハロウィン企画:リドルと豆の木
丘の上にポツンとある家にトム・マールヴォロ・リドルという人が住んでいました。
リドルは他人と関わるのをとても面倒臭がる人なので、半分世捨て人のような感じで暮らしていました。
どれくらい面倒臭がり屋なのかと言うと、町内会の会合には顔を出さないし、回覧板が回ってきても読まずにそのまま放置するような面倒臭がり屋です。
おかげでリドルの次に回覧板を受け取る人が、自らの足でリドルの家の前に置かれたままの回覧板を受け取りにくる状態。
いっそリドルを抜いて次の人に回覧板を回せば良いのに、律儀にリドルに回覧板が回ってくるのです。
そんなリドルの家の玄関をノックする人が現われました。
リドルはソファに寛いで読書をしています。
出るつもりはまったくありません。
ノックして出なければ去るだろう、そう思っているみたいです。
しかし、ノックは止みません。
止まないどころか、ガンガンと大きな音になる始末。
読書中のリドルにとって、それはとても不愉快な音です。
とうとう腹が立って乱暴に分厚い本を閉じ、玄関に向かおうとした矢先、大きな音が響きました。
その音と同時に玄関扉が室内に吹っ飛んできて、リドルは驚きに動きを止めます。
入ってきたのは、どこをどう見ても玄関扉を吹っ飛ばす力など無さそうな老人です。
奇抜なファッション姿で、白い髭を仙人のように伸ばしています。
はっきり言って、変態です。
「水を一杯くれんかな?」
その変態は悠長にそんな事を言いました。
水一杯の為に玄関が吹っ飛ばされたのかよ!とリドルは気付きますが、敵は正体不明の老人。逆らわないのが吉と見て、水を一杯出します。
「ああ甦った。お礼にこれをやろう」
「お礼は良いからさっさと出ていって」
老人はテーブルに一つの豆を起きます。
ただのソラ豆です。
「こんな物いらないんだけど」
「これを植えると、一晩で天に届く幹になるのじゃ」
「聞けよ」
「では、さっそく植えてみるとよい」
誰も植えるとは言ってない。
リドルは沢山言いたい事があるみたいですが、老人は外に行けと言うだけで、こちらの事なんてまるで考えてはいないようです。
しかもこの老人、自分の主張が通らない限りは家に居座りそうです。
リドルは渋々と扉が消えた玄関を抜けて庭に出て、シャベルで穴を掘ると、ソラ豆を埋めました。
「明日には天にも届く幹が出る。それを登るのじゃ、よいな?」
「僕の趣味に木登りはないよ」
「よいな?」
「……分かったよ」
威圧感のある老人に負けてリドルが頷くと、老人は穏やかに微笑んで、指をすいっと指揮者のように動かしました。
すると、どういった原理でしょうか。
玄関が元の状態に戻ったではありませんか。
「あんた、何者?」
「通りすがりの老いぼれじゃ」
それじゃあ、と老人はさっさと丘を下って姿を消してしまいます。
取り残されたリドルは、疲れてるんだ、寝よう、と自分に言い聞かせました。
リドル
と豆の木
翌朝起きてカーテンを勢い良く開けると、そこには太い幹がありました。
リドルは一度目を擦ってみますが、幹は消えません。
一度顔を洗ってからまた庭を見るけれど、庭にはやはり太い幹があります。
「……ふざけてるだろ」
一日で成長するはずないだろ、と思いましたが、指をちょいっと動かすだけで壊した玄関を直せる老人が渡したソラ豆です。
自然の摂理を無視していても、それはそうか、と思えてしまう不思議さ。
リドルは庭に出て、幹の先を見ました。
それは天高く、雲に突き刺さっていました。
これを登れっていうの?とリドルは思います。
正直、登れる気がしません。
しかし、昨日登ると言ってしまいました。
それを律儀に守るのも馬鹿のする事のように思えますが、不思議な力を持った老人との約束というのがリドルに躊躇させます。
登る努力ぐらいはしよう、それで駄目でしたなら、あの老人も諦めるだろう。そう思ってリドルは大きな葉にまず乗りました。
するとどうした事でしょう。
エレベーターのように葉が上へ上へと昇っていくではありませんか。
あっという間に雲に辿り着いたリドル。
雲の上には、お城がありました。
何なんだ、と思いながら、老人が木を登れと言って、登った結果城があるという事は城に入れという事だろう、と考えました。
リドルは何が待ち構えているのだろう、と思いながら、お城の中に入ります。
高い天井。
広いフロア。
絢爛豪華な作りのそれに、リドルは感嘆の溜め息を吐きました。
「誰?」
突然の声に、リドルは驚きました。
声のした方角を見ると、そこにはリドルと同い年ぐらいの少年が居ました。
少年はリドルが同年代だと分かるやいなや笑顔になって、いらっしゃい!と言います。
「お客様なんて久しぶりだよ!良く来たね!朝は食べた?まだ?」
「まだ、だけど?」
テンション高く押しが強い少年に、リドルは押され気味です。
勝手に城に入った事を咎められるだろうと思っていたのに歓迎されたのだから、それは驚くでしょう。
「じゃあ朝食を食べながら自己紹介といきますか」
少年はこっちこっち!と手招きします。
リドルは少し警戒しながら、案内された部屋に入ります。
そこは豪華な会食が出来そうな空間でした。
けれど食事の準備はされていません。
少年が指をちょいと動かすと、テーブルの上に食事が現われました。
リドルが驚いていると、少年は一つの椅子を引いて、どうぞ、と言います。
リドルは椅子に座ります。
その椅子は装飾も凄くて、座り心地も良く、背もたれも柔らかいです。
この椅子が欲しいなぁ、とリドルは思いました。
「僕はナチ・サハラ。よろしくね」
リドルの前の席に着くとすぐに、ニコニコと笑いながら少年は自己紹介を始めました。
「僕はトム・マールヴォロ・リドル」
「トム?」
「トムは世の中に五万と居るから、リドルって呼んで」
「ん、了解。僕の事はナチって呼んでね」
「ナチ」
「うん」
ニコニコとリドルを見るナチに、リドルは食事がしづらいんだけど。と言います。
ナチはごめんごめん、と、軽く言いました。
「ところで、リドルはどうやって此処に来たの?」
「木を登ってきた」
「木を登って!?」
「うん」
「いやいや、うんって。地上から此処まで何千メートルあると思ってるの。とてもじゃないけど、リドルの細腕で此処まで登れるとは思えないよ」
「いちいち失礼だね。葉っぱが昇降運動したから、僕は木登りしてきたわけじゃないよ」
「葉っぱが昇降運動?」
リドルは昨日の出来事を話して、ついでに今日の朝、葉がエレベーターよろしく昇降したと教えました。
「変なお爺さんだね」
「え?」
「え?」
「ナチの知り合いじゃないの?」
「知らない知らない」
「同じ事出来るから、知り合いだと思ってた」
「同じ事?」
リドルは食事を終えて、紅茶を飲みながら指でちょいっとするところを指摘しました。
ナチはそれを魔法だと言います。
「魔法?」
「うん。一人でこの雲を所有していると、掃除とかそういうの、行き届かないでしょ?その為に使えるようになったって言われてるよ」
「こんな広い城に君、一人で住んでるの?」
「うん」
ナチはちょっと困ったように笑います。
リドルは一人で住むのに、こんな広い空間はいらないだろうに、と言います。
ナチはそうだね、と言うだけでした。
「魔法があって此処に一人暮らしか、羨ましいよ」
「良かったら、リドルも一緒に住む?」
「僕も?」
まさかそんな提案をしてくるとは思っていなかったのでしょう、リドルは驚いています。
ナチはいい考えじゃない?と言いました。
「僕は一人暮らしが性にあってるから遠慮するよ」
「残念。でも此処を気に入ってもらえて嬉しいよ。またいつでも来てね」
来ないよ、とリドルが言う前に、ナチは「あ、そうだ」と声を上げました。
「ちょっと待ってて」
ナチはそれだけ言って、すぐに部屋を出ていってしまいました。
一人で騒がしい奴、と思いながらリドルは優雅に紅茶を口に含んでぼんやりしていると、言葉通りすぐにナチは戻ってきました。
戻ってきたナチは脇に鶏を抱えていて、何で鶏、と突っ込みたいところは沢山ありますがひとまずリドルは一瞥するだけです。
「この子、金の卵を産むんだ。あげるよ」
「金の卵?」
「うん」
リドルは昔から、珍しい物を集める癖があります。
なので、その珍しい鶏はリドルを十分に魅了しました。
「どれもこれも、僕が持っていても意味が無いからね。明日までには、また珍しいの探しておくよ」
とナチが言います。
それはリドルを魅了する台詞でした。
リドルは元来、他人と関わるのが面倒な人間です。
今回は仕方なく此処にやってきましたが、もう此処に来る理由はないのです。
しかし、此処に来ればまた珍しい物を貰える。それはリドルが此処を訪れるには十分な理由になります。
リドルは鶏を受け取ってその日は帰りました。
翌日も、リドルは雲の上に来ました。
ナチは喜んでリドルを出迎えます。
そして雲の上に住むナチの話は珍しいのでしょう、リドルはナチの話に耳を傾けて、不思議な物語を楽しんでいました。
代わりに、ナチは地上の事を知りたがりました。
リドルはありきたりな生活の話をしますが、ナチはそれにいちいち驚いて、当たり前と思えるようなことも質問してきます。
「じゃが芋の皮を剥いた事が無いの?」
「うん。だって魔法で全部出来ちゃうし」
「包丁を持った事は?」
「包丁ってそもそも、何?」
ナチの世間知らずはリドルの予想を超えていました。
火を起こすのも魔法、灯りも魔法、料理も魔法。何も知らないのです。
「分かった。明日包丁とじゃが芋を持ってくるよ」
良いの?とナチは喜びます。
リドルはそれくらいで大袈裟に喜ぶな、と言いました。
「ナチは地上の生活が如何に不便かを知るべきだと思うよ」
「へぇ、そんなに不便なんだ」
「此処と比べたら大変だよ。というか、君、地上に来れば?そうすれば、手っ取り早く地上の生活を知れるだろ?」
ナチは困ったように笑って、それは出来ないんだ、と言いました。
「地上に下りちゃ駄目なんだよ」
「は?何で。変な爺さんは僕の所に来たじゃないか」
「そう云う決まりがあってね」
リドルは、珍しく歯切れが悪いナチにこれは何かあるな、と思いましたが、問いただす事は出来ませんでした。
何故なら、ナチが落胆している様子だったからです。
「明日、覚悟しておきなよ」
「え?覚悟?」
「初めて包丁使うなら、指を切ったりするからね」
「指切るって、それじゃあ指が無くなっちゃうよ」
「切断するんじゃないよ、ナチはどんな想像してるのさ。切り傷だよ」
「あぁなんだ、良かった。痛いのは嫌だからね」
「切り傷も十分痛いよ」
本当に常識が通じないなこいつと思いながら、リドルはその日、初めて会ったあの日、食事の時に座った椅子を寄越せと言いました。
同じ椅子は何席もあるので、ナチは全部あげるよと言いましたが、家に全席置く場所はないとリドルは言って、一席だけ貰う事になりました。
「本当にそんなので良いの?」
ナチは今日の分として用意していた金のハープをリドルに渡そうとします。
リドルは頑なに、いらないと言いました。
「もう家に物が溢れ返ってるんだよ。だからいらない」
リドルはそう言いました。
リドルは最初こそ、物につられてナチの元を訪れていました。
けれど今は、ナチと話すのが楽しいから毎日来るのです。
だから、物をあげる代わりに来てもらう、という関係はおしまいです。
「じゃあ、また明日」
リドルがそう言うと、ナチは驚いたようでした。
もしかしたら、欲しい物は貰ったからもう来ないと言われてしまうのではないかと思っていたのです。
「うん。じゃあ、明日」
幸せそうに微笑んだナチ。
リドルは少し顔を赤らめて、すぐに地上へと下りていきました。
翌日、リドルは大きなダンボールを抱えてやってきました。
ダンボールの見える部分には、じゃが芋・人参・玉葱・林檎と、包丁二つがあります。
「中身全部じゃが芋なの?」
「そんなはず無いだろ」
リドルはダンボールの中を興味津々に見るナチに、良いからキッチンに案内しろ!と言いました。
ナチはリドルが何で怒っているのか分からずに、とにかく機嫌をこれ以上悪くしたらマズイと思って、すぐにキッチンへと案内します。
リドルは、キッチンにある木製のテーブルにダンボールを置いて、ナチと向き合う場所の椅子に座ります。
「まず、手本を見せるよ」
そう言って、まずは林檎の皮剥きをしてみせました。
するすると剥かれる林檎の皮。
薄い均等のとれたそれに、ナチは目を奪われていました。
「リドル凄いね。魔法みたいだ」
感嘆の溜め息を吐いて、ナチは言いました。
「本当の魔法使いが何言ってるのさ」
「魔法使いにこれは出来ないよ。魔法より、凄い」
ナチはリドルが剥いた林檎の皮を、触っても良いかと聞きました。
それゴミなんだけど、と言えないリドルは頷いて返事を出しました。
ナチは喜んで林檎の皮に触れます。
「はい」
リドルは包丁で食べやすく切った林檎をナチの前に出します。
ナチは林檎を受け取って一口齧ると、美味しい!と言いました。
林檎をペロリと平らげたナチに、リドルは包丁とじゃが芋を渡します。
リドルが見本をやって、ナチはそれを真似してじゃが芋の皮を剥きます。
最初こそ危なっかしい手つきでしたが、ナチは物覚えが良いのか、じゃが芋が山もりになるくらい剥かれた頃には、すっかり手慣れていました。
「じゃ、次はこれ」
そう言ってリドルは人参を出します。
堅い人参に悪戦苦闘しながらも、ナチはどうにか一本の人参を剥きました。
玉葱も剥くと、リドルはダンボールの奥から鍋とまな板、牛乳などを出しました。
「何するの?」
「剥いただけだと、食べられないだろ?」
そう言って、ナチに一口サイズに切るようにと言います。
リドルとナチ、二人で作ったのは、シチューと、ポテトとベーコンのグラタンでした。
ナチは美味しい!と本当に美味しそうに食べます。
リドルは、たかがシチューでこんなに喜ぶナチに笑いました。
その日、リドルは初めてナチのお城に泊まる事にしました。
広い広い寝室に、大きなベッドが一つ、ぽつんとありました。
三人でも眠れそうな広さのベッドに、ナチとリドルは寝転びます。
夜の静寂は、普段口に出来ない思いを言わせてしまう、不思議な力がありました。
「何でリドルは丘の上に住んでるの?」
「人が嫌いだから」
「何で?」
リドルは唇を尖らせました。
「僕が子供の頃、僕の身の回りで変な事があって、それで周りが僕と距離を置いたんだ」
「……変な事?」
「僕を苛めていた奴が怪我したり、僕が叱られて寒い雪の降る外に出されたら、急に晴れて小春日和になったり、僕の物を盗んだ奴が高熱にうなされたり」
ナチはポカンとしました。
リドルは、僕のせいじゃないよ、と言います。
「それは勿論分かってるよ」
「なら良いけど。ところで君は、何で此処から出られないの?」
ナチは弱ったように笑いました。
「怒んない?」
「怒るような内容なの?」
「いや、うーん……怒られる内容だと思う」
何なのさ、はっきりしなよ、とリドルは言います。
ナチは意を決したように、口を開きました。
「罪を犯したから」
「犯罪者だったんだ」
リドルがさらりと言うので、違うよ!とナチは言います。
「いや、強ち外れてない、というより違わないけど、殺人とか犯したわけじゃないから」
「じゃあ何したのさ」
問われて、ナチは言い淀みます。
「僕は答えたよ」
「えー、それ言う?」
「良いから吐け」
ベッドの中、リドルはナチを蹴ります。
ナチは、地上に干渉したから、と言いました。
「地上に干渉?」
何それ、と言うリドルに、ナチは説明を始めました。
天上にいる魔法使いたちは、地上にいる人間を自分達より下だとみなしていて、たまに地上に下りて悪戯をしたり、魔法で人を恐がらせたりするのだと。
そんな中、ナチは地上の人が大好きで、地上の人の為にある事をしてしまったのだそうです。
それが魔法使いのお偉いさんにバレて、ナチは地上を干渉するのも、地上に下りるのも禁止になったのだと言います。
「良い事したのに?」
「まぁ、善し悪しはやった本人ではなくやられた本人が決める事だから、僕からは良いとか悪いとか言えないよ」
「黙って地上に下りれば良いのに」
「それをしたら、僕が手を出した人が不幸にされちゃうんだよ」
「へぇ、陰湿な奴ら」
君の弱味握ってるなんて最低だね。そう言うリドルに、ナチは仕方ないよ、と聞き分けの良い発言をしました。
リドルは権力に屈するみたいで、それが気に入りません。
いつもにこにこして、いつも面白そうに過ごしているくせに何でこんな諦めたような顔をするのかと、少し腹が立ちました。
「君一人が犠牲になるのっておかしいだろ」
「自分が招いた種だからね。それに、今はリドルが来てくれてる」
だから今は幸せ。そうナチは笑いました。
リドルは、何だか心が苦しくなりました。
翌朝、ナチはリドルを揺すり起こしました。
「リドル、リドル、起きて」
「なに……」
「天上界のお偉い様方が来た」
「は……?」
リドルは起き上がります。
と、そこに、天上界の上官がやってきました。
「ナチ、そんなに下界の生き物が好きか」
「天上界に下界の生き物を招くとは」
「次は檻に入れなければなるまい」
口々に上官はそんな事を言います。
ナチはリドルを守る盾のように上官と対峙しました。
「規約違反だ。そこの者に呪いをかける」
「そんな事はさせない!」
ナチが吠えます。
リドルは魔法が使えないので、何も出来ません。
ナチはリドルの腕を後ろ手に掴みました。
リドルを何処かへ逃がすつもりなのです。
「それは止めてくれんか」
どこからともなく、男性の声がしました。
誰もが突然の来訪者に驚いて、声の主を見ます。
そこには、リドルの記憶にしっかり残っている、トリッキーな老人が居ました。
そう、リドルにソラ豆を渡した老人です。
「ダンブルドア先生!」
ナチが驚いたように声を上げました。
「ナチ、久しぶりじゃのう」
ダンブルドアは朗らかに笑いながら、ナチと上官の間に移動しました。
「ダンブルドア、どういうつもりだ」
「簡単な事じゃよ。ナチにもトムにも、年相応の生き方をして欲しい。それだけじゃ」
教師として、それを望むのは自然な事だろうとダンブルドアは言います。
リドルはダンブルドアの生徒ではありませんが、ダンブルドアにとって子供は皆、生徒のようです。
「サハラは罪人だぞ!」
「確かに、高熱を出させたり、怪我をさせたり、天候を変えるのは、罪じゃろう」
ダンブルドアの言葉に、リドルが驚きます。
ナチがやった罪は、自分の身の回りで起きた不可解な出来事と一致しているではありませんか。
ナチはリドルを助けたくて魔法を使って、罪人になったのです。
リドルはその不可解な出来事が身の回りで起きた事で、人間嫌いになりました。
ナチが使った魔法が、人ひとりの人生を変えてしまったのです。
それは、確かに罪です。
「しかし幼さ故の、無知からくる罪じゃ。それがこれだけ時が経った今でもナチを拘束するのは可哀相ではないかな?」
「しかし、我々はナチを許しはしない。下界の者の為に魔法を使用する事は……」
「僕は許されたいなんて思ってない!それに、僕が使った魔法は、その人の為にはならなかった!」
上官の言葉に、ナチは反論します。
ナチにとって自分が軽率に魔法を使った結果、リドルが迫害されて人間嫌いになったという事実は、心臓を抉られるくらい辛い事だったのです。
辛くて辛くて、ナチは反論を胸に収めておく事が出来なかったのです。
周りは勝手に話を進めます。
「では今回は目を瞑り、次、下界の者と関わりを持ったらナチ・サハラを牢獄に入れる。それで良いな?」
リドルはそれを聞いて、リドルの腕を持ったまま力の抜けているナチの腕を掴みます。
ナチは驚いて、振り返ります。
「君、手作りの料理は好き?」
「え?」
「どうなの?」
「好き、だよ」
「下界は不便だ。魔法が無いからね。平気?」
「僕は、下界に産まれたかったよ」
リドルとナチはヒソヒソと話して、それからリドルは意を決したように駆けだしました。
勿論、ナチの腕を掴んだまま。
「待て!」
そんな事を言われて待つはずがありません。
リドルは勝手知ったる他人の何とやら、ナチの城を熟知しています。
リドルはナチの城に来て、一番最初に通された部屋に来ました。
相変わらず絢爛豪華な、会食でもなされそうな空間です。
「リドル?」
「この椅子、一つ持ってくよ」
ここにきて椅子?とナチは当惑しながら、言われた通り椅子を一つ抱えて走ります。
そして、リドルがいつも此処に来るのに使っている豆の木の所へ来ました。
上官たちは、ダンブルドアが足止めしてくれているようでリドルとナチの所まで来ていません。
「行くよ」
「僕も下界に?」
「当たり前だろ。僕を人間嫌いにしたのはナチなんだから、その責任はとれ」
どうやって、と言おうとしたナチの耳に、上官の声が届きました。
此処でグダグダ話す時間はありません。
リドルとナチと椅子は豆の木の大きな葉に乗ります。
すると葉は待っていましたとでも言うかのように、すぐに地上を目指して下りました。
豆の木は、その日の内に落雷に撃たれて姿を消しました。
それから数ヶ月経った今、ナチはリドルの家で変わらず生活を共にしています。
持ち前のコミュニケーション能力で、リドルが疎遠となっていた村とも親しくなりました。
村とリドルは、ナチという仲介者を挟んで繋がりを持てるようになったのです。
しかも、ナチと居るとリドルもよく喋るので、話し掛けづらい人という印象が払拭されたらしく、リドルもよく声をかけられるようになりました。
「ナチ、鍋焦げてる!」
「しまった!」
その日、ナチが夕食を作っていたのですが、鍋を焦がしてしまいました。
「あー……」
「これは駄目だね」
鍋を覗き込んで、二人で落胆します。
今日の夕食は、ポテトとベーコンのグラタン一品だけになってしまいました。
安っぽい木製のテーブルに似付かわしくない高級な二つの椅子。
各々が、その高級な椅子に座って、テーブルを挟んで向き合います。
ナチは魔法が使えなくなりましたが、何不自由なく、生活しています。
「美味しい?」
「まぁまぁ」
「良かった。食後には林檎があるよ」
ナチは、リドルが剥いてくれた林檎を食べて以来、林檎が大好きになりました。
リドルはそんなナチを見て、庭に林檎の木を植えようかなぁと、思案しました。
〜終〜
ハロウィン企画、僕らの時代で『ジャックと豆の木』でした。
原作をほぼ無視していますね。
変な設定が多すぎて長くなりました。
いつも『リドルを守るナチ君』なので、今回は『ナチ君を守るリドル』になってもらいました。
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