ハリポタ 僕らの時代 番外 | ナノ
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まだ仲良くなり始めたばかりの二人です。
体がビクッと痙攣して、全神経が覚醒する感覚。
先生がこちらを見たのが分かって、咄嗟に誤魔化すように咳払いをすると先生は黒板に向き直った。
羊皮紙を見るとミミズがのたうち回ったような痕跡。
周りの人は何人か気付いたみたいで声を殺して笑っていて、隣に座っていたリドルは呆れた顔をしている。
冬休みの里帰りの合間にノクターンへ行った時、面白そうな本を見つけたのだ。
それで昨日の夜から読み始めてみたのだけれど、これがまた面白くて睡眠時間を削ったのだという言い訳は、胸中でしか発せられないから誰にも伝わらない。
授業中に寝るなんて、僕としたことが。
リドルも起こしてくれれば良いのに。リドルを見ると綺麗な横顔。板書をしているのだ。
それでもじっと横顔を見ていれば、視線に気付いたのだろう、リドルがこちらを向いて、口だけ動かして何?と問うてくる。
起こしてくれたって良いじゃないか。そんな恨み節を言ったところでリドルが相手だ、寝る君が悪いという返答で終了だろう。
だから何も、と返せば、リドルの人差し指が黒板を指す。
あっちを見ていろと言いたいのだろうけれど、僕は結構な時間を寝ていたみたいで話がかなり飛んでいるような印象を受けるし、何より教科書で読めば分かる箇所の話だから興味がまるでない。
面白い話が寝ている間にされていたのかもしれないと思うと非常に残念な気持ちになる。何の為にこの授業を履修したのやら。
「以上」
教師が終わりの号令を出して、皆は羊皮紙や教科書、ペンとインクを纏め始めた。
僕もろくに記録していない羊皮紙を丸めて、インク壺の蓋を閉める。
「ナチ、お前寝てただろー」
後ろから声をかけられて、振り向けば親しくしている子。
リドルはその言葉に追撃するように、ぐっすり寝ていたよ、と言ってくる。
「授業の半分は寝てたんじゃないの?」
リドルは僕が寝始めたのも気付いていたのだろう、おおよそ授業の半分は寝ていた、と言ってくる。
殆どを寝て過ごしていたという言葉に周りは笑って、リドルは呆れ顔。
「リドル、分かってたんなら起こしてよー」
「嫌だよ、僕はナチのお母さんじゃないし」
「ママ〜起こしてぇ〜」
裏声で言えば周りは大笑い。リドルだけは気持ち悪さを隠しもせずに顔を歪めた。
「羊皮紙、見せないからね」
「冗談だよ、ごめんごめん。何?面白い話あったの?」
羊皮紙を見せると言い出すとは、リドルらしくもない。
基本的にお互い授業中に寝ないからかもしれないけれど、羊皮紙の貸し借りなんて互いにした記憶はない。だというのに、それを勧めてくるようなリドルの言葉。
僕が求めている、教科書からは得られない情報があったと言っているようなものだ。
「見れば分かるよ」
「あれ?見せてもらえない感じ?」
「見たいならそれなりの誠意を見せれば?」
リドルは荷物をまとめて、ほら行くよ、と席を立ってしまう。
でも、あんな事を言われてしまっては先生が話した教科書外の物語が気になって仕方ない。
内容を教えて貰えないと、とても落ち着かない。まるでパズルがあと少しで完成というところで、就寝時間だからとパズルを取り上げられてしまったような落ち着かなさだ。
どれだけ眠くても、気になって眠れないよ。
他の人から羊皮紙を借りるというのも有りだけれど、リドルの記録の取り方というのも気になる。
お互いに羊皮紙を交換した事もないし、そもそも互いの記録の取り方に興味を持った事もなかったから全く見当がつかない。
リドルのノートの取り方は、どんなものだろう。
見る為には誠意をと言われたけれど、リドルの求める誠意というのが分からない。
リドルが僕に求める誠意とは、どんなものなのだろうか?
先程の授業の後だと考えれば寝ない事となるかもしれないけれど、それは誠意というより常識の範囲内だから除外だ。
リドルでなければ相手の好きな物で、という物々交換のルールを考えられるのだけれど、リドルは物につられるタイプでもなさそうだからそれもないだろう。
そもそも、リドルの好きな物が何か、あまり知らないのだ。
リドルが好きな物って?食べ物の種類は大まかに把握しているけれど、この飽食のホグワーツで食べ物と取引するとは到底考えられない。
食べる以外の物で好き、とは何だろう?
本を読むのは好きそうだけれど、好きな部類が分からないし、僕が好んで買う本に興味を持つとは思えない。
かと言って本人に聞くなんてみっともないから、絶対にしたくないしなぁ。どんな話題を振れば引き出せる?リドルの興味がある物を探すには、何をすればいい?
人に物を乞いる性格でもない相手の欲しがる物を探すのは非常に難しい。下手に物を渡せば怒りに触れかねないし、プライドを傷付けかねない。
昼食の場である大広間に来て、脇に抱えていた教科書や羊皮紙、それから寝不足の原因である本を置く。
周りに人が居るから読めないのだけれど、先程の授業がつまらなかったら読もうと思って持ち歩いていたのだ。
尤も、読む前に教師の声が子守唄になって寝てしまったのだけれど。
肉料理を多めに取っていると、隣のリドルはサラダと野菜をバランス良く皿に盛り付けていた。
周囲に居る女子より女子力が高い食事の摂り方だよ。
とは言え、リドルは皮を剥くのが面倒だからと果物をろくに食べない人間なのだけれど。
そうだ、果物を剥いて渡せば誠意となるかな?
「リドル、リンゴ食べる?」
「いきなりごますりとか魂胆見え見えで気持ち悪いんだけど」
凄い嫌そうな顔。そんな顔しなくたっていいじゃないか。
流石に傷付くよ。
「じゃあ何をすれば見せてくれるのさ」
「さぁね」
「もしかして、見せる気ない?」
「僕の記録がリンゴ一個分だなんて失礼だって言ってるんだよ」
「えー?皮剥き付きだよ?」
「別にリンゴそんなに好きじゃないし」
取りつく島もない。どうしろっていうのさ。
もう見せる気がないって諦めたほうがいいのかな。
銀のナイフとリンゴを元の位置に置く。
するとリドルは口にサラダを運んで咀嚼しながら、目線を遠くに飛ばしている。何処見てるのさ。
咀嚼していた物を飲み込んでから、僕の荷物に人差し指を置いて、これ、と言った。
「君が読んでる本、貸してくれるなら良いよ」
「え?」
「僕の直筆の羊皮紙と、君が買って読んでる本だ、安い取引だろ?貸出期間はこの厚みなら2日間ってくらいだし」
いや、でも、この中身はあまり人に勧められるような物ではない。
闇に関する知識であって、学校としては見てはいけない、隠すべき世界の話だ。
リドルが僕に嫌悪感を抱くだけならば、たまたま興味本位で購入しただけだと言ってはぐらかせば良いけれど、もし他人に口を滑らせたら、そこからの派生が恐ろしい。
他人は人のこととなると尾ビレ背ビレどころか胸ビレまでつけて噂を流すのが世の理だ。
そんな事になれば話はたちまち大きくなって僕は危険因子呼ばわりされかねないし、学校側としては興味を持たれたくない話であるから校長に呼び出されるだろう。
運が悪ければ父親にまで話がいって最悪は学校を辞めさせられるか、監視がつくかだ。
それだけは、勘弁願いたい。
「たまたま買った本で、あまりリドルは楽しめないと思うよ?」
「でも君がわざわざ持ち歩いてまで読もうとしてるんだから、君は興味を持ったんだろ?」
本当、僕の性格をよく分かっていらっしゃる。興味は持ってるし、実際は好きだ。けれどそれをオープンに言って良い内容の本ではない。
ここまでリドルが食らいついてくるという事は、もう誤魔化してこの本を貸さずに済むという退路はなさそうだ。
先にこの本の内容を言っておいたほうが良いのかもしれない。読んでから気分を悪くされて周りに言われるくらいなら、予防線を張っておくのが良いだろう。
「リドル、この本はね、闇の生き物に関する本なんだよ」
「闇の生き物?」
入学して半年にも満たない今、マグル界で生きてきたリドルが魔法界の闇の生き物に関する知識を多く持っているはずもないと思っていたのだけれど、その表情は少しの驚きの後、すぐに真面目なものに変わった。
「それで貸し渋ってたわけ?」
「えーっと、まぁ、うん」
「くだらない気遣いだね」
馬鹿らしいと言わんばかりの溜め息。
どういう事?リドルも知識を持っているの?
「あのね、僕が学校指定の教科書からしか知識得てないと思ってるなら馬鹿にしないでよ。僕だってそういう世界の知識、少しくらいは持ってるんだから」
「そうなの?」
「……学校の図書館でしか、まだ読んだ事はないけど」
今は毎日フルで授業があるのだけれど、いつ図書館の本を読みに行っていたのかな?冬休みに読んでいたのだろうか?
「じゃあ借りるよ」
「リドル、良いの?」
「良いって、なんで?」
「あんまりお勧めする知識ではないし、学校ではこういった知識は嫌煙されるものだからだよ」
「僕の話聞いてた?学校側が見せるだけの知識で満足するような人間じゃないんだよ、僕は」
そう言って僕の荷物から本を抜き取って、代わりに羊皮紙を置くリドル。
「明後日には返すよ」
「別に急いでないからゆっくりで良いよ。僕みたいに授業中に居眠りするのも嫌でしょ」
「……休み明けに返す」
「うん、分かった」
まさか僕と同じような本に興味を抱いているとは思わなかった。
もし気に入ってくれたなら、その本には続編があるから続きを貸してみるのも良いかもしれない。
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