ハリポタ 僕らの時代 番外 | ナノ
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「ずっと気になってたんだけど」
そう言ったのは、リドル。
出会って四年と九ヶ月、今更気になっていたんだと言われても、何を、としか言えないわけで。
「それ」
それ、と示されたのはチェスの駒。
チェスの駒の、ポーン。
「ポーン?」
リドルは頷く。
なんだ、僕の事で、という訳ではないのか。
驚いて損した。
「ポーンの何が気になるの」
問えば、ポーンがキング以外の何にでも変わるのが信じられないのだと言った。
ポーンは前進して敵地の最終曲面まで行けばクイーン・ルーク・ビショップ・ナイトのいずれかに変身出来る。
それが不思議でならないのだとか。
「だって、ポーン進めなくなるでしょ」
敵地の最終曲面、つまり端まで前進したポーンはそれ以上進めなくなる。
ポーンはチェス上、最低ランクの歩兵で、前にしか動けないのだ。
端まで行ったらそこで立ち止まるっていうのは、この駒の利用価値が無くなったという事になる。
その救済に、ポーンはキング以外の他の駒にプロモーション(昇格)が出来る訳で。
「ゲームをより難解にして楽しむ為のルールなんじゃない?」
「ポーン(歩兵)がルーク(塔)やビショップ(聖職者)、ナイト(騎士)になるのがプロモーション(昇格)なのは分かるけど、クイーン(女王)になるのもプロモーション(昇格)って言うのはおかしい」
つまりリドルは、
歩兵は昇格すれば塔を守る兵士・聖職者・騎士になれる
しかし歩兵が女王になるのは有り得ない
と言いたいようだ。
そりゃそうだけど、これ、ゲームであって現実社会ではない。
まぁ、魔法界のチェスだからナイトは剣を抜いてポーンを斬ったりする訳で、それが現実の戦争の縮尺図みたいではある。
「確かにおかしいね」
「しかもクイーンがまだ敵に捕られていなかったら、クイーンが二体になる」
一夫多妻だね、と言えば、リドルは頷いた。
確かに、クイーンが二体はおかしい。
でも、歴史から見て、王妃が亡くなると、王は新しい王妃を招いたりしていたっけ。
不倫中の人を王妃にしたくて、王が王妃を殺したなんて歴史もあるし。
そう思うと、チェスは本当に現実の縮尺図だ。
マグルのチェスだと、手持ちの駒にクイーンは一つしかなくて、二体目のクイーンを作る際は逆さまのルークを代用したりするのだから。
クイーンの駒が倒れればクイーンの駒はチェスボードから追い出されて、逆さまルークで代用していたクイーンがクイーンの駒になる。
それは、王妃が亡くなったら次の王妃が現われるという暗示みたいだ。
尤も、魔法界のチェスはポーンが変身してくれるから、クイーンの駒が二体になるんだけど。
そう考えると、マグルのチェスのほうが現実を忠実に反映している。
「クイーンは二体も要らないね」
「そうだろ?」
「でも、これはゲームだから」
「でも!」
「ナイト・ポーン、b8、クイーン!」
「あっ!」
ポーンがリドルの陣営の最終地点に辿り着いて、クイーンに変身する。
これで、次にリドルのキングがどう動いてもチェックメイト出来る。
つまり、リドルの負けは確定。
二体いる僕のクイーン。
リドルのキングはどう逃げ回っても、どちらかのクイーンに討ち取られる。
どこの世界も、女のほうが強いんだね。
「クイーンが二体なんて卑怯だ!」
「頭を使って戦った結果」
「常識的には有り得ない」
「ゲームだし」
「世界に誇るゲームなのに、矛盾があるなんて変だ」
「はいはい、負け惜しみ言わないの」
「もう一戦」
「負けを認める?」
「次は、チェックメイトする」
リドルは負けると分かっていながらキングを動かした。
僕がチェックメイト、と言うと、リドルのキングは膝をついてうなだれた。
魔法界のチェスは、駒の動きがいちいちリアルだから切なくなる。
リドルは駒を初期配置に戻した。
「次は僕が先手だ」
「はいはい」
あまりにも本気になっているから、口元が緩くなってしまう。
リドルはそれに気付いたらしく、紅い瞳で睨み付けてきた。
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