ハリポタ 僕らの時代 | ナノ
●
ノックもなく、勢い良く開いた扉。
睨みをきかせればそこには先輩が居て、一瞬間を作ってしまう。
「……何ですか、先輩」
こんな無礼を働く奴はてっきりナチかと思っていたのだけれど。
まさかスリザリンで他にもこんな不躾な奴が居たなんてね。
「談話室でダーツしてるんだ。リドル、やろうぜ!」
突然やって来て何だと思えば、遊びのお誘い。
同い年なら断るのに、流石に先輩の誘いを断れるはずも無いから読みかけの本を閉じて、ベッドに投げる。
それは遊びをOKしたサインだ。
「っしゃ!ってあれ、サハラは?」
「部屋じゃないんですか?」
「え、一緒じゃねぇんだ。珍しい」
「いつも一緒ではないですよ」
「お前らはいつも一緒にいる印象あったんだけどな。まぁ良いや、サハラの所に行くぞ」
行くぞって、僕と先輩の二人でナチの部屋に行くって事か?
効率が悪いとは思うが、先輩に対して効率が悪いなんて言えるはずもなく、渋々と後をついていく。
「そういやぁ、リドルはサハラといつも一緒にいるだろ」
「だから、いつもではないですよ」
「サハラ、殺人事件の犯人じゃないかって疑われてるだろ?リドルは何か知らないか?」
急に何を言うのかと思えば、そういうことか。
沈黙を答えに、前を歩く先輩を睨めば、先輩は肩を竦めた。
「そう怒るなよ。ただの野次馬根性だって」
「ナチは潔白ですよ。僕が言えるのは、それだけです」
「そう断言する理由は?」
「じきに分かりますよ」
ハグリッドが捕まったと公になれば、総てが終わる。
そして僕の名前は特別功労賞のカップに刻まれて、僕が捕まえたと周りは理解するのだ。
そうすれば、この台詞の裏付けとなる。
それまで堪えれば、ナチも僕も普通の生活に戻れる。
そう、また何事もないただの日常になるのだ。
先輩はつまらないと言うように溜め息を吐いて、その姿にざわりと心に波が起きた。
こいつは僕とナチを嫌っている。
嫌うなら良い。
どれだけ愛想良くしていても、万人に好かれるはずが無いと理解している。
でもこいつは嫌うだけではない。
僕達を陥れようとしている。
出来ることならナチの弱みを握って、それでナチを消したいのだ。
姑息な男だ。
「お、サハラの部屋だ」
ノックもなく扉を開ける男。
「サハラっ!」
バタン、と扉が強制的に閉まって、男は爪先と顔を扉に強打して転げた。
どうやら、開けようとすれば勝手に閉まる作りだったらしい。
今までノック無しに開けた事がなかったから知らなかったけれど、ナチの部屋は変な物が多いし、それ位はして当然か。
何より、少し気が晴れた。
調子に乗ってノックすらしない礼儀知らずな男は、これ位痛い目を見て当たり前だよ。
「大丈夫ですか、先輩」
心にもない心配を口にすれば、相手は大きな声を張り上げた。
「大丈夫な訳ないだろ!いってぇー!畜生サハラの野郎!人を馬鹿にしやがって!おいサハラ!出てこい!」
扉をまた開けようとした男は、扉がうんともすんとも言わないので、顔を赤らめた。
腹を立てているのだろう。滑稽だ。
けれど、ナチがここまで部屋に人が入るのを拒否するなんて珍しい。
何かあったのだろうか。
「畜生、開かねぇ!魔法でぶっ壊してやる!」
「そんな事をしたら三倍返しですよ。退いて下さい」
杖を持った男に退けと言えば、さらに不服そうな表情。
けれどナチの魔法のスキルを知っているからだろう、男は悔しげに扉の前を離れた。
「ナチ」
ノックをして、入るよ、と言ってドアノブに手を掛ける。
ドアノブは簡単に回って、扉もいつもと変わらない調子で開いた。
「あれ、どうしたのリドル」
ナチはベッドに腰掛けていて、欠伸をした。
寝ていたのか。
目も擦っている。
「談話室でダーツしてるんだ。君も参加しなよ」
「リドルからのお誘いなんて珍しいね、是非参加させていただくよ」
「僕の誘いじゃないよ」
扉まで来たナチがリドルじゃないの?と言って首を傾げる。
男に視線を送ればナチも誘導されてそちらを見て、ああ、と言いながらへらりと笑った。
「もー、先輩、ノックぐらいしてくださいよ」
「男相手にノックなんていらねぇだろ!無茶苦茶痛かったんだぞ!」
「僕も先輩傷付けちゃって心が痛んでます。おあいこですね」
「どこがおあいこだ!」
「先輩、談話室に行きますよ。ナチも」
男が言い返す限り、討論は続くに決まっている。
ナチは口が達者なのだから、例え先輩であろうとこんな奴相手でナチが討論に負けるはずが無い。
さっさと負けを認めるべきだよ、先輩。
先に談話室へ向かえばナチがすぐについてくる。
その後ろを先輩が駆け足でついてきた。
「あ、来た来た」
「トム、ナチ、こっちこっち」
広い談話室の片隅に居残り組が集まって、ダーツをしている。
「ダーツか、良いね」
ナチが笑う。
右手を負傷しているナチが出来るゲームではないから見学のほうが良いのではなのかと言おうとして、やめた。
「二人一組でやろうよ。チーム制のほうが張り切るでしょ。という事で僕はリドルとチームになりまーす」
肩を抱かれて、はあ?と言えば、嫌?と訊かれる。
「肩を抱かれるのは物凄く嫌だね」
「これは失敬」
「おいナチ!お前とトムが組んだら勝てないだろ!」
そう言ってくるのは、ナチの友人。
今朝方、ナチに忠告していた奴だ。
「じゃあ僕は左手でやるよ。それで良い?」
「お前右利きじゃん」
「だから、周りとレベルを合わせる為にペナルティとして左手でやるって言ってるんだよ」
「余裕言いやがって。後で痛い目見るぞサハラ」
そう言うのは、爪先と顔を扉にぶつけた先輩。
ナチを目の敵にしているらしい。
ナチは痛いのは嫌ですね、と笑いながら言った。
神経逆撫でしすぎだよ、君。
でも、これでナチは左手で投げる事が決まった。
本当、誘導が上手いよね、ナチは。
「ナチ」
「ん?何、リドル」
「足を引っ張る真似をしたら許さないから」
ナチは一瞬ポカンとして、任せてよと言って笑った。
僕はナチが左手で生活していると気付かないふりをする。
わざわざ左手でやるというルールを作るくらいにナチは周りに右手が負傷していて使えないと気付かれたくないのだろうから、僕も騙されたふりをしてあげる。
でも気付かないにも限度があるのだから、早く蜘蛛にやられた怪我を治して普通の生活に戻りなよ。
ナチは左手で生活出来るだけあって、下手には下手だけど、ダーツはそれなりに点数を稼いだ。
「ナチ君、左手でよく投げられるね」
僕と合い室の奴が言えば、ナチは待っていましたというように得意げに笑った。
「実は両利きなんだよ」
ナチがあっさりと左手も使えるのだと言う。
ちょっと、何を言ってるのさ、ナチ。
ペナルティとして右利きのくせして左手でダーツに挑戦しているって設定ではなかったの?
「えっ!?ナチ君両利きなの!?」
周りが騒ぎ出す。
それはそうだ、ペナルティでやっていたのに左手が右手同様に使えるのでは意味が無い。
「てめぇナチ!どうりで左手で投げてんのに二本は的に当たるはずだよ!」
「右手だったら全部的に当たるし、二本はトリプル出してるよ。それに比べて左手は右手よりコントロールが利かなくて的に当てるだけで精一杯だからね、足を引っ張ってるでしょ」
飄々と言ってのけるナチに、それでも周りは卑怯だと言った。
「仕方ないなぁ。じゃあ皆に無礼を働いたって事で、暫らく左利き生活送るよ。それで許して」
「いや、意味分かんないし。左利きの奴に左手で生活送れっておかしくないか?」
「分かってないなぁ。僕は元々右利きで、骨折した時にだけ左手で生活してたんだよ?右手並みには使えない左手での生活は結構つらいし、それに、周りに僕は左手も使えますってアピールすることにもなるでしょ?」
そうすれば、もうこのネタ使えなくなるしね。とナチは言った。
周りは少し不満そうだが、ナチに他に何か罰を与えるにしても、良いものが浮かばないのだろう、承諾した。
周りの女子達は勝手に食事のシーンを想像して、ナチが食べづらそうにしている姿を想像したのか、そういうナチ君も可愛いよね。と言っている。
後一年で卒業する男が食事で悪戦苦闘している姿が可愛いって、どういう頭をしているのやら。
僕はナチが左手でも食事が出来るのを今朝方見ていたから良かったけれど、もし見ていなかったら想像して気持ち悪いと思っているに違いない。
そんなナチは昼食でサンドイッチを食べていて、食べづらそうにしているナチをサポートしようとスプーンやフォークを持って控えていた周囲の女子を落胆させた。
「ナチ」
「何?」
ナチはサンドイッチを左手で持ちながら食べている。
「右手、そんなに痛いの?」
ナチは暫らくの間の後、そうでもないよ。と答えた。
「いつから気付いていたの?」
今度はナチからの問い。
「朝」
「朝から?」
ナチは深く溜め息を吐いて、適わないなぁ、と呟いた。
僕をなめてもらっては困るよ。
「変化に気付けないような間抜けではないんでね、それなりの洞察力は持ってるよ」
「リドル以外は気付いてないよ」
「それは周りが間抜けなだけだろ」
「辛辣」
ナチが笑う。
それに少し安心して、僕はナチの皿からサンドイッチを一つ奪って口にした。
瑞々しいトマトと、シャキシャキのレタス、それにカリカリのベーコンは相性抜群だ。
「早く右手、治しなよ」
ナチは少し俯いて、そうだねと言って、笑った。
それは今にも泣きそうな、そんな笑い方だった。
- 27 -
[
*前
] | [
次#
]
←
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -