ハリポタ 僕らの時代 | ナノ
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翌朝、ナチは冬休みの残り組が朝食を食べに大広間に来ている中で校長に日記帳を返却した。
誰もが校長と何かやりとりをしているナチを見て、声をひそめて何かを話している。
ナチは自分が周りから今回の犯人ではないかと疑われているのを知っているはずなのに、公衆の面前で校長と話すというパフォーマンスは周りの好奇心を刺激するだけだった。
ナチは校長と少し話してから、僕の隣に何事も無かったかのように腰掛けて紅茶をティーカップに注いで飲んだ。
それを見ていたナチの友人が、ナチに声をかける。
「おい、ナチ」
「何?」
「何じゃねーよ!周りの奴等、好奇の目でお前見てるぞ」
他寮ならまだしも、スリザリンの奴等まで、ちらちらとナチを見ては何かを話している。
ナチは周りを見て、笑った。
「いつか飽きるでしょ」
「ばっかやろ!お前、今回の殺人犯じゃないかって疑われてんだぞ!?しかもグリフィンドールの奴等なんて、替え歌でお前がマートルを殺したって口ずさんでやがった」
「それは初耳。どんな歌?」
渦中の人物のくせして、まるで傍観者気取りのナチ。
周りは呆れたように溜息を吐いた。
「お前のせいで今グリフィンドールは大変なんだぞ。内乱が起きてんだからな」
「どういう事?」
ナチが怪訝な顔をする。
友人が話すには、グリフィンドールとスリザリンは昔から仲が悪いから、スリザリン嫌いなグリフィンドール生が過激なくらいナチを犯人だと豪語しているらしい。
けれどナチは寮に関わらず仲間がいるから、グリフィンドール生の友人は犯人だと豪語する奴等と喧嘩しているのだとか。
尤も、これは他二つの寮でも起きている事だから、実際は全部の寮でナチを犯人だと言うチームと、ナチを弁護するチームが喧嘩をしているらしい。
「どおりで、どの寮もどこかぎこちないわけだ」
ナチは他の寮を眺めて、困ったねぇ、とまた他人事のように言う。
パンにバターを塗って、齧っているナチは本当にどこ吹く風だ。
「ま、僕は犯人じゃないんだし?行動制限される必要ないでしょ」
「まぁ、そうだけどよ」
周りは何を言ってもナチの自由奔放な態度は変わらないと分かったらしい。
諦めるように、溜息を吐いた。
朝食後は寮に戻れと教師陣が言ってこないので、周りはもしかしたら事件はもう解決したのかと言い出した。
僕は言われたとおり知らないふりを装って、ナチはそれなら良いねと笑った。
「リドル、図書室行こう?」
「は?何で」
「良いから」
ね?と言って捕まれる手首。
僕達二人は周りが寮に戻る中をバレないように抜け出して、一階に移動する。
待ちなよ。そっちは図書室じゃないだろ。
言おうとして、向かう先がどこか理解する。
ハグリッドを犯人に仕立て上げた所だ。
「ナチ」
「リドルって占い学は履修してなかったよね」
「……何さ急に」
「今朝ね、ちょっと占いをしてみたんだよ。そしたら今日の僕は物凄く運が良いんだって」
「占いなんか信じてるの?女々しい」
ナチは笑う。
僕は占いなんて信じない。
だって、そんなもので総てが決まっているようでは、努力云々は本当に無駄になる。
定められた事なんて無い。
それが僕の考えだ。
そして、ナチもそれに類似した考えの持ち主だったはず。
授業だって興味本位で履修していたくらいなのに、何でそんな事を言うのか。
「占いってさ、何の為にあるんだろうって考えていたんだ」
「悪い結果なら自分に言い訳するため、良い結果なら自分の背を押すため、だろ?」
「流石リドル。僕の考えと一緒だ」
「じゃあナチは、言い訳か何かしたかったの?」
「逆だよ」
ナチの歩みが止まる。
そこは、ハグリッドのいた部屋の前。
そして、ナチが見つめる先は外。
あの巨大な蜘蛛が逃げた場所であり、僕が透明マントを投げ捨てた場所。
そこは雪が降り積もっていて、葉を枯らした木の枝に雪が乗っているだけの空間だった。
しんしんと降る雪は大粒で、けれど音は何も生まれない。
静寂が耳に痛い。
周りを見回しても、透明マントは見当たらなかった。
先生に見つかったのだろうか。
分からない。
けれどここに無いという事は、何者かに持っていかれたという事だ。
途端に襲い来るのは、恐怖。
昨夜、僕が寮から出ていく姿を見た者はいない。
そして現場にある透明マント。
それから導き出せる答えは単純明快だ。
僕が透明マントの所有者となる。
そして、透明マントがあったとなればハグリッドを犯人に捏ち上げたこの事件を覆される可能性も出てくる。
そうなれば僕が疑われて犯人にされるだろう。
それだけならばまだしも、僕が犯人なのにハグリッドを犯人だと言って、男の子の霊を見たと証言したナチも疑われてしまう。
それだけは、免れたい。
足を引っ張るなんて、そんな事は絶対にしたくない、のに。
「リドル、あそこ見て」
ナチが示した場所を見れば、葉がすべて落ちた枝があるだけ。
しかしよく見れば、降り積もっている雪に少し隙間がある。
それはまるで、新雪と昨日から枝に降り積もっていた雪の間に硝子が挟まっているような。
「……まさか」
「そのまさかでしょ」
ナチは腰くらいの高さの欄干に手を置いて、ひょいと越えてしまった。
「足跡が残るよ」
「今も雪は降ってるし、じきに消えるから大丈夫だよ」
サクサクと雪を踏む音を奏でながらナチは木の傍へ行って、空中に腕を彷徨わせる。
まるでパントマイムのように空で何かを掴んで引っ張る仕草を見せれば、枝の上に降り積もっていた雪の一部がとさりと落ちた。
「ね、運が良いでしょ?」
ナチは欄干を越えて、僕の前に降り立つ。
ヒュウと風が吹いて、思わず身体を震わせた。
「寒いね」
「冬だからね」
「羽織る?」
左手に透明マントを持っているのだろう、ナチは左手を差し出してくる。
今ここで羽織ったら急に僕が消える事になるだろうに、そんな危険な真似をする事を冗談でも言うべきではない。
「寮に帰れば温かいよ」
「えー?地下だよ?」
「こんな曇り空じゃ、グリフィンドールも変わらないよ」
「そういうものかね?」
「そういうものだよ」
ナチは他の寮も見てみたいよね。と言った。
確かに、気にならない事もない。
「談話室に関しては、スリザリンは石畳だけど、グリフィンドールは絨毯だって。他はどうなんだろうね?」
「知らないね。聞いてみれば?」
「そうだね」
なんて事ない会話をして、寮へと戻る。
ナチは自室に、僕もまだパートナーの居ない自室に戻る。
扉を閉めて、背中を預けた。
強く瞼を閉じる。
右手に怪我を負ったナチ。
紅茶を注いだのも、ティーカップを持つのも、パンにバターを塗ったのも、透明マントを探したのも、差し出してきたのも左手だった。
周りに気付かれないように、右手が痛いくせに笑顔を貼りつけて左手で生活しているナチを思うと、胸が焼け焦げるような感覚を覚えた。
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