ハリポタ 僕らの時代 | ナノ
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今ある現実が悪い夢で
目が覚めた時にこんな夢を見たのだと笑い話に出来るならどれだけ良いだろう
でも現実は現実で
目をそらすのは簡単だけれど、そらしていても状況は良くならない
そらしているうちに状況が悪化しかしないのならば
今という現実と向き合わなければならないのだ
例え嫌でも
例えつらくても
部屋に入って、息を吐く。
『貴様は年が明けたら学校を出るのか?』
リドルとの対話の最中静かにしていたサラザールがすぐに口を開く。
ずっと訊きたくて仕方なかったのだろう内容がそれだとは思いもしなかった。
もっと応えたくもない、難解な質問かと思っていた。
「どうしてそう思う?」
『現校長と貴様の話を聞いたからだ』
確信持っていながら問うのか、物好きというか用心深いというか。
もし心が詠めていて問うてきているのならば、嫌なところを突いてくる。
脳に直接響く声は未だ慣れる事無くて不愉快だ。
「僕がその質問に答えるなら、サラザールにもこっちから質問させてよ」
こちらは訊きたいことが沢山あるのだ。
下手に出て質問するよりも、取引で質問が出来るのならばそれに越したことはない。
『答えられんこともある』
「そりゃ僕もそうだよ。互いに答えられる範囲だけ答えれば良い。ただし、嘘は無し」
『ならばよかろう』
では、僕が先に答えるのか。
相手が質問した分質問出来るのならば、出来るだけ相手に多く質問をさせたい。
「聞き違いではないよ」
こう言えば、サラザールは興味本位に質問をしてくるかもしれない。
リドルならあぁそう。と言って気になっても他人の事だからと訊いてこないだろうけれど、サラザールは暇みたいだから興味を持つのではないだろうか。
『何故人より早い』
ほらやっぱり。
「その質問に答える前にこっちから一つ質問」
『交互にやるのか、回りくどいな』
「良いから。サラザールが媒体にしてた日記帳を最初に拾ったダンブルドア先生いるでしょ。あの人、君が入っていた日記帳に何か魔法かけたりした?」
日が変わったら日記帳を校長に渡さなければならない。
今からダミーを作るのだけれど、受け取ったリドルの日記帳とダミーをまったく同じ物に仕上げなければいけないのだ。
つまりリドルの日記帳にかかった魔法をダミー用の日記帳にもかけなくてはならないのだけれど、もし教師達が何か魔法をかけていたら、それもかけなくてはならない。
そうしなければ偽物だとすぐに気付かれて、疑われる事は間違いない。
そうなると今までやってきた事が無駄になる。
わざわざサラザールを身体に取り込んだのに、それを無駄にしてたまるか。
『魔法はかけられていない』
魔法は、か。
引っかかる言い方だ。
他に何か仕掛けがあるのかと勘ぐってしまう。
まぁ僕もさっき同じ答え方をとったから人のこと言えないのだけれども。
「君の質問に答えるよ。僕がいつもトップだったから、親の積んだ金もあって学校側が了解したんだ。一応、決定権は僕にあったんだけどね」
『学校が嫌いだったのか』
「まさか、その逆。好きだよ」
ここは僕を家名ではなくナチと呼ぶ人がいる、立場や権力を使う奴が極一部しかいない空間だ。
家に帰ればサハラ家がどうしたとか、家名や権力等の自力で取得したのではないものをこれ見よがしに着飾る馬鹿な奴らしか周りにいない。
純血主義しかいない空間。
そんな家に僕は居たくない。
僕は実力を見て欲しいのだから。
サハラ家の長男だからとか純血だからとか、そんなので僕を枠にはめられたくない。
僕は僕だ。
あの家の子だからとか、そんなもの堪えられない。
でもそれももう無理な話……。
『ならば断れば良かっただろう』
サラザールは秘密の部屋があるこの学校から離れたくないのだろうか、色と暗に言っている。
学校に執着はしていそうだとは思っていた。
けれどここまで予想通りに来られると、心が見透かされているのではないだろうかという考えが強くなる。
掴み所がないサラザール。
気を荒立てるのは駄目だと分かっているのに、苛立ちに髪を掻き上げる。
冷静になれ。
冷静になるんだ。
「断れなかったんだよ」
『決定権は貴様にあったのだろう』
「理由は次に回してよ。何で人より早いかは答えたんだからさ」
『そうだな』
聞き分けが良い態度に、何か落とし穴があるのではないかと言う疑念が不安となって背をゆっくりと這い上がってくる。
駄目だ。
精神的に負けている様では例え勝ち試合だと言われていてもそれは負け試合になる。
弱気になっては駄目だ。
常に強気で、相手を上だと思ってはならない。
自分を上に。それが駄目ならせめて対等。
ペースを乱すな。
相手のペースに呑まれるな。
「先生はサラザールが媒体にしていた日記に何か仕掛けをしたり、代わりを作ってそれを渡したらすぐ分かるように目印を付けたりはした?」
どれだけ気が荒れていても声はどれも平常心を表すようなもの。
常に余裕そうに見せる為にと顔に張り付けていた笑みは今更剥がれないらしい。
有難いけれど、中と外のギャップに嘲いそうになる。
『上手い質問だ』
「考えて言っているからね」
何度も質問させてくれるとは思っていない。
ならば的確に、要点だけを伝えるべきだ。
『良い事を教えてやろう。私が入っていた物にちんけな魔法をかけられると思うか?まして目印などを私につけられると?』
烙印を人の腕にはつけておいて、そういう事を言うのか。
所有するのは良いけど所有されるのは嫌。僕もそうだからその考えよく分かるよ。
「その返事は何もつけられていないし魔法もかけられていないととって良いのかな?」
『そうだ』
サラザールも馬鹿ではない。
ここで嘘をついて僕に疑いがかけられたら自分も危うくなるのは分かっているだろう。
今嘘を吐いて後でくる皺寄せを考えたら嘘は吐かないはず。
サラザールが追い込まれる人を見るのが趣味なら話は別だけども。
まぁ、今は信じるしかないか。
疑ったところで始まらない。
『それで、貴様はどうして断らなかった』
本当の事を話すべきだろうか。
僕がリドルを庇おうとした時点で、サラザールは僕の弱点がリドルだと気付いているのだろう。
心が詠まれているとも限らない。
ならば別に言っても良いのか。
相手はサラザールで、僕以外には声が聞こえないのだから周りにこの理由を知られる事もない。
「僕の父は結構な権力者なんだよ。その人がさぁ、僕にも権力を使ってきたわけ」
思い出すだけで苦々しい。
嫌いな事ほど脳は記憶していて、あの手紙がまざまざと脳裏に蘇る。
「今帰らなければ、また梟が可哀想な目に遭うぞってね」
『梟?』
「僕の大切な物を表すあの人なりの工夫」
『それで断れんのか』
「僕はね」
自分が苦しむのはいくらでも堪えられる。
苦しみも苦痛も慣れた。
けれど、自分が引き金になって身近な人を傷付けるのは怖い。
……だから嫌だったのだ。
だから大切な存在なんて作りたくなかったのだ。
いつかそれが僕の弱味になると分かっていたのに、今はこれだ。
今更リドルを切り捨てたところでもう遅い。
父は僕が帰らなければリドルを学校から追放するだろう。
それならば僕が学校を去る。
どうでも良い奴にならば、何を言われても何を思われても気にならないのに、一度仲間になった人が相手だと、恨まれるのも嫌悪されるのも怖くなってしまうのだ。
自分の弱さを思い知る。
自分からは仲間を切り捨てられない。
相手が切ろうとすれば僕は相手より先に、自主的に切るだろう。
自分が傷付く前に別れる事が出来るならば、傷は浅いから。
けれど、リドルは必死に僕を守ろうとする。
だから切れない。切れるはずがない。
僕があの女生徒を殺した時にリドルが僕を責めてくれれば楽だったのに。
守ろうとしてくれた事に対する嬉しさがある反面、絶望もあった。
『質問はないのか』
「今はね、一回分は後日にまわさせてもらうよ」
日記帳に杖を向ける。
今更過去の事をどうこう言っても始まらない。
後ろを振り向くのは今ではないのだ、今は前だけを向いていなければ駄目なのだ。
魔法を撃とうとすれば、右手の烙印部に激痛が走って杖が床に落ちる。
「……っなん……」
『美味い』
「……は?」
『貴様の魔力は美味いな』
僕の魔力を喰ったのか……?
魔法を打つ為に右手に集まった魔力が喰われたならば、右手に杖はもう持てないということか。
敵に餌を与えたのかと思うと悔しくなる。
「……タダ喰いはやめていただきたいね」
サラザールの笑い声が響く。
床に落ちた杖を左手に持つ。
左手で魔法が撃てるのか不安だけれど、右手で撃てないのならば左手でやるしかない。
躊躇する暇はない。
やらなければならないのだから。
昔右手を骨折して左手で生活していた自分に感謝しよう。
僕は魔法を唱えた。
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