ハリポタ 僕らの時代 | ナノ
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イライラしている自分に腹が立った。
何で僕が傷付かなくちゃいけないんだ。
何で僕が傷付くんだ。
悔しくて
歯を食いしばっていないと目の奥が熱くなる
悔しいのはナチの計画を狂わせた自分の浅はかさではなくて
ナチにああ言われたからだと云う事実が
余計に僕の胸をかき乱す
部屋に入ると、部屋のパートナーが何処に行っていたのかとしつこく訊いてきた。
煩くて耳障りな声。
「君に関係ないだろ」
人にあたるなんて不格好だと分かっているのに思った事をオブラートに包まずにそのまま口にすれば、相手は気まずそうにしてまた机に向かった。
別に君が傷付こうが傷付くまいが僕には関係ない、勝手に不満を胸の中で言っていれば良いさ。
互いに机に向かって座り、背中を向け合う。
視界に入るのは壁を衝動的に殴りたくなったけれど、そんな事で苛々を発散しようとしたところで発散出来るはずもない。
物に当たっても意味はないし、その後に来る虚しさは余計にストレスを増幅させる。
それならば、このもやもやした気持ちを何処にぶつければ良いのだろうか。
僕は助けに行ったのだから、僕は悪くない。
ナチが何も言ってくれないから悪いのだ。
言われないのに気付く訳がない。
ナチはただでさえ何を考えているのか分からないのだから何も言わなければ、分かる訳がないだろう?
時計の針は怠慢に時を刻む。
秒針の音すら煩くて、頭が痛くなりそうだ。
秒針の音に混じって扉を叩く音。
嫌な気配がして、僕が壁を見たままでいるとパートナーが返事をする。
「お邪魔するね」
すぐに声で分かる。
飄々として、何も考えていなさそうな声。
それでいて、何を考えているのか掴めないくらい色々と考えているのだ、こいつは。
「どうしたの?」
パートナーは声を小さくして言うが、僕にまで聞こえているよ。
「ちょっと喧嘩をね」
喧嘩?
本当の事は言えないから仕方ないかもしれないけれど、君にとってあれはちょっとした喧嘩なわけ?
ふざけるな。
「リドル」
名前を呼ばれて無視を決め込むのは子供のやり方。
椅子に座ったまま見ると、ナチは笑みを浮かべている。
ナチを見て、これだけ腹が立つ事なんて今まで無かった。
「何をしにきたわけ?」
「話をしに」
「僕はないね」
「僕はあるんだけど」
「へぇ、まだ嫌味が言い足りないんだ」
睨めばナチは苦笑を見せる。
言い厭きてないって事か。
「君、悪いけどちょっと席外してくれるかな?」
ナチが言うとパートナーは不安そうな顔。
「良いけど……ナチ君、怒ってるの?」
「怒ってるのはあちらです」
茶化したように言うから睨めば、パートナーはすぐに部屋を出て行った。
絶対にこっちからは何も言わない。
「リドル」
「……」
「リードールー」
ご機嫌取りの声。
無視を決め込むと、ナチがふぅと息を吐いたのが分かった。
「さっきはごめんね、言い過ぎた」
真面目な声であっさりと言われた謝罪のセリフ。
肩すかしを食らった気分。
君が自分の非を認める事なんてあるんだね。
「リドルは助けてくれたんだよね。有難う」
「……さっきとだいぶ違うね」
「感情的になり過ぎてたんだよ。ごめん、当たっちゃって」
「……」
怒っていた気持ちが抜けてゆく。
いや、怒っているし腹の虫はおさまらないけれど、こんなあっさり謝られたりしたら怒っているこっちが意地を通しているみたいだ。
ナチ相手に馬鹿らしい。そう思えてしまう。
「でもさっきのは君の本心だろ」
ナチは少しも間を置かずにそうだよと答えた。
本心では怒っていたんじゃないか……。
「リドルも知っての通り、僕は計画通りにしか動けないからね」
「何それ」
「計画通りに事が運ばないと癇癪起こす子供なんだよ、僕は。計画が少しでも崩れると、融通が利かないし、何か問題があったとき、それは自分のせいではなくて人のせいだという考えに走るんだ。駄目だよねぇ、僕」
ナチはふぅっと息を吐いてから苦笑して、少し俯いた。
僕は苦笑すら出来なかった。
僕も、自分は悪くないと思ったから。
「リドルが危険を冒してまで僕を助けようと姿を見せてくれたのに、あんな事を言ってごめん」
ナチはまっすぐにこっちを見てくる。
そんな風に謝られるとこちらも折れざるをえない。
ナチ相手に意地を張るのは馬鹿らしい。そう思えてしまうから、仕方ないから許してあげるよ。
「もう良いよ」
僕は悪くないと思えるならそれで良い。
足手まといになったのではないならそれで良いんだ。
「殴りたかったら一発なら良いよ。それくらいの事を言ったし……一発では済まないかもしれないけど」
突然の申し出に頭の中が一瞬真っ白になった。
僕がナチを殴る?
「遠慮するよ」
「殴ったら以外とすっきりするかもよ?」
「殴った事あるの?」
口での喧嘩は得意なのか人に何か言われたら倍言い返すナチ。
そんなナチが暴力のある喧嘩をしたのは見た事がないけれど、あるのか?
ナチが口で言い返したのに相手が怒って、というのはありそうだ。
ナチが殴ったりするのは見た事が無いから、殴られるのも殴る姿も想像はしづらいけれど。
「無い無い。僕は平和主義者だから。まぁやられたらやり返すけどね」
「やられたらやり返すのに平和主義者なんだ」
そういうのは平和主義って言わないよ。
「主義系は良いとして、本当に殴らなくて良いの?僕的には痛いのは好きじゃないから嬉しいけど」
「殴ったら手が痛そうだからね」
ナチは口元に手をやって肩を震わせる。
「何笑ってるのさ」
「ううん、何でもない」
口の端を上げながら言われても説得力は無い。
だらしない顔して、見ているとこっちは脱力しそうだよ。
「でもあれだよねぇ、リドルは身を挺してまで僕を助けようとしてくれたんだよねぇ」
「誇大表現だよ」
「いやいや、愛情故の行動だね。好きじゃなかったらリドルは勝手にすればって性格でしょ」
まずい。
ナチのテンションが高くなっている。
こうなるとナチの相手は面倒になるのだ。
何言っても効かないし、立て板に水状態になる。
「僕って愛されてるね」
「言ってて気持ち悪くならない?」
「言う相手を選んでるから平気。軽くスルーされるの慣れちゃってるから」
虚しくないのかそれは。
ナチは口の端を上げて笑っている。
腕を組んで、ナチは壁にもたれ掛かった。
偉そうな態度だね。
「あぁそうだ。日記帳のことだけど、あれは僕がもう一個作ってそれを渡すから安心してね」
「……」
「何その訝しげな顔」
「別に」
ナチが作った日記帳だから、ナチにしかダミーを作る事は出来ない。
ダミーを渡すのが得策なのも分かっているし、今の僕には何も出来る事がないのも分かっている。
けれど、君が全部をやるのはどうにも気に入らないのだ。
とはいえ、現状を考えると我侭という感情的なものがまかり通るはずがない。
僕が何かを言うのは間違いだろう。
「ナチに任せるよ。僕は何も知らないふり、だろ?」
「何もっていうよりは……ハグリッドが犯人で友人が怪我をしたという事でよろしく」
「分かった」
ナチがニッと笑う。
するならば完全犯罪という思考らしいナチ。
もう邪魔はしないよ。
君の計画にはついていけない。
僕は友達が怪我した。
ただそれだけ。
それがナチの計画。
言われた通りにするのは悔しいけれど、この計画には賛成だ。
ナチに笑みを向けると、ナチは驚いた顔をしてから笑みを浮かべた。
「じゃあ僕は日記帳を作るんで、またね」
「うん」
「おやすみ。夜更かししちゃ駄目だよ」
「子供扱いしないでくれる?」
「良いから。おやすみ」
「……おやすみ」
ナチが笑顔で部屋を出る。
まるで当たり前の日常を過ごした様な気分だ。
僕は息を吐いて、ベッドに腰掛けた。
眠くはないけれども、横になろう。
明日も明日で何が起こるか分からないから。
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