ハリポタ 僕らの時代 | ナノ
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冬休みと夏休みは実家に帰る。
その度に僕は憂鬱になったよ。
またあの空間に入れられて、父を褒める讚美を浴びせる奴等に会わなければならない。
家名の為に存在する僕に逆戻りだ。
そういう生活をしていると、二面性っていうのかな、自分の中で自分が完全に分裂してしまうんだ。
初めて夏休みを迎えた時、僕に武術を教えてくれていた先生が来ていてね、夏休みの短期間だけまた教えてくれるという話だった。
父が、僕に夏休みを遊んで過ごさせない様にと計画したものだったのだけれど、僕はその先生には結構懐いていてね、先生も僕を実の子の様に扱ってくれた。
尤も、先生も僕を『サハラさんの息子なんですから』って言う人だったけれども、それ以外は人間として素敵な人で好きだった。
そんな先生が毎日勉強と武術ばかりやっている僕にあるものをくれたのだけれど、それは梟の雛だった。
入学の時に父は僕には必要ないと言ってペットを持たせてくれなかったから、その時初めて動物を飼う事となった僕ははしゃいでね、凄く可愛がったよ。
目に入れても痛くないって言うの?そんな感じ。
僕は雛の世話に力を注いだ。
読めば分かる勉強なんかより行動が予測出来ない雛の動きを見ているほうが楽しかったし、サハラ家の跡取りとか父の息子とか関係無く僕を必要としてくれたからね。
雛も懐いてくれたから、本当に可愛かった。
でもね、それが駄目だったんだ。
父が帰って来た日、僕が雛を飼っていて可愛がっていると屋敷僕が父に言ったようでね、バレてしまったのさ。
それから社交界というのかな、純血だけが集まった閉鎖的な式典があったんだ。
先に行かされて、父は少し送れて登場した。
その時は家に帰れば雛がいると考えていたから、何を言われても特に気にならなかった。
何と言われようと、サハラと関係無い僕を必要としてくれる存在があるのは強みだった。
でもね、帰ってみたら雛は居なかったよ。
閉めていたはずの部屋の窓が開いていて、しかも、雛を入れていた鳥籠の出入り口まで丁寧に開けたままになっていた。
しかも中に雛はいない。
どんな気持ちか分かる?
絶望だ。
自分が可愛がっていた、大切にしていたものが奪われたのだから。
急いで父の所に行って、問い詰めたよ。
冷静さの欠けた僕に対し、父は鼻で笑う様にこう言った。
今でもあの時の父の台詞が記憶に焼き付いていて消えない。
私がそんな事をする理由はどこにある?おおかたお前が閉めたと思い込んでいただけではないのか? と。
勿論反論したよ、そんなはずが無いってね。
けれど父は僕の言葉に耳を貸すこともなく、続けてこう言った。
「気をつけた方が良い。お前にとって大切な事はいかに賢くなるかという事だけだ。ああ、そうだった、雛の事だったな。窓が開いていたなら飛び立とうとしたのではないのか?鳥なのだから」
すぐに家を飛び出して自分の部屋の所まで向かったよ。
そこには何かがあった。予感が外れて欲しいと願ったけれど、それは予感の通り、まん丸の毛玉だったよ。
もう動かないただの肉塊。
僕の部屋は二階だ。鳥ならばまだ生きられる可能性がある高さ。だというのに死んでいるのは、父が窓から雛を叩き落としたからだろう。
でも、何も言えなかった。
言わなかったんだ。
父には何を言っても無駄だとはっきりと分かったからね。
雛は穴を掘って埋めた。
僕と関わったせいで命がこうも簡単に奪われてしまう。関わらせてはいけなかったのだと気付けなかった自分がとても愚かで、大嫌いだ。何度も謝ったけど、決して許されない。
この一件で、父は僕が大切なものを作るとそれを容赦無く奪う人なのだと思い知った。
喜んで、愉快そうに僕から大切な物を奪う。
だから雛をくれた先生もそれから来なくなった。
悩んだよ。
僕にはホグワーツに行けば君がいる。
肩書きなんて関係なく親しくしてくれる君がね。
僕といる事で君にまで何らかの被害が及ぶ可能性は、先ほどの父の発言からもほぼ確実だと思えた。
父のことだから、君の事をもう知っているだろう。
さっきの発言は最後の警告と考えて間違いない。
だからこそ、君から離れるべきだ。
でも僕は君から離れたくなかった。
せっかく僕を一個人として見てくれて、しかも気が合う人と出会えたのに、その人から離れてまたサハラ家の跡取り息子として生きていくのは考えるだけで耐えられなかった。
それに父はもう君の情報をどこからか入手しているはずなのに、今まで手を出さずにいて、たまたま居た雛で比喩するのには何か理由があるはずだろう?
友人を父に奪い取られると僕に思い込ませ、自分から離れてゆくのを楽しんで見るつもりだったのだと思う。
いつまでも父の手の内で踊っていたくないという気持ちがあった。
だから理由ばかり書き連ねたノートも持たずに、書斎にいる父の元に行って言ったんだ。
僕は常に首席で居るから、学校の事は干渉しないでくれと。
すると父はこう言った。
それと学校が休みの時の式典には必ず参加すると約束するなら交渉しよう。ってね。
僕にとって式典に参加するのは苦痛だったけれど、それで学校での生活が保障されるならば安い事だと思った。
だから交渉をしたよ。
君から見れば馬鹿だと思われるかもしれないけど、僕は満足だった。
学校にいる時は、自由なのだから。
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