モノノ怪 飽和する世界 番外 | ナノ
文章修行家さんに40の短文描写お題
文章修行家さんに40の短文描写お題
です。
決まりは65字前後で文を書くというもの。
注意事項はタイトル横に表記。
本文後、一行空けた下にあるのは蛇足です。
01 告白 【66字】
「俺の事、どう思っています?」
と問えば、無愛想に何とも。と答えるのが日常。けれど最近は、少し俯いて、一緒にいて、嫌ではない。と呟く。
「俺の事好きですか?と訊いたら、どんな反応を見せるだろう」
02 嘘 【68字】
「以前、何処かでお会いしました?」
問う彼女に、いいえ、と言う。記憶の無い彼女に過去の話など不要。それでも共有したいと思う、甘美な思い出。
嘉永二年に貴女と夫婦になった。貴女を看取るまで、ずっと一緒にいたのに。俺を忘れる、なんて。
03 卒業*学パロ 【65字】
男の姿が見当たらなくて、呼び出されているな、と予測して笑う。もてる男だ、戻る頃には釦はすべて失っているだろう。あぁほら、やっぱり。
「見事に取られたな」
「手を」
「?」
差し出した手にコロンと転がる釦。驚いて男を見れば、第二釦です。と耳元で囁かれた。
04 旅*鬼化ED後 【68字】
道中怪我をした女が、白髪の鬼と、赤目の鬼に手厚く看病されたとか。マユツバから、この鬼二人に会えば、道中は安全だと言う噂が旅人に広まった。
「鬼とは、失礼な」
「いや、あながち外れていないだろう」
「俺は、鬼では、ありませんぜ」
しかし見た目がなぁ。とぼやく赤目は、白髪の尖った耳を引っ張った。
05 学ぶ 【64字】
本の虫、と言われて悪い気はしない。
しかし男は煩い。
「本を読んでも、得られない事は多い、ですよ」
「ほう、どんなだ?」
「床の術とか」
「帯に手を掛けるな!」
「良いじゃあ、ないですか」
良くない!という言葉と一緒に股間に一撃。
06 電車*新化け猫 【67字】
揺れる異国のそれに、一度は見た事がある者が数名乗車していた。懐かしさを感じるも、時代により変化しただろう心の有様に、畏怖の念を覚える。
知っている分、絶望する。
比べたくなんて、無いのに。
07 ペット 【68字】
肩が凝ると、黒猫が私に化けて肩を揉んでくれるようになった。
「黒猫の肩も揉もうか?」
「それより頭撫でて」
同じ顔なのに髪は黒猫のままだった。
同じ顔で、可愛いと思えるから不思議だ。
「愛敬の問題ですよ」
いつから其処に居た!?
08 癖*鬼化ED後 【59字】
赤い隈取りはまず鼻を描いてから、目元へ。藤色の口紅は小指で左から描く。共に旅を始めて同室で生活するから分かる、男の癖。
私はこんなにも、お前の事を知らなかったのだな。
09 おとな 【71字】
私と見た目変わらぬ年なのに、懐かしそうに私の親について語る。視線に気付いた男がどうしました?と問うてくる。何でもないと答えるのがやっとだった。
お前はいくつなのか、など、愚問だ。
10 食事 【67字】
栗ご飯に魚。食後には甘く熟した柿。男は表情にこそ出さないが、箸をいそいそと持って箸をすすめた。秋の味覚を堪能する男の、嬉しそうなこと。
魚よりも肉が好きそうに見えるのだが。
魚よりも栗や柿などの木の実が好きなお前が可愛く見える瞬間。
11 本*学パロ 【65字】
朝読書の時間、男は基本寝ている。
翌朝、面白いから読んでみろ、と本を一冊渡す。
昼休みに返却されて、ついで、一言。
「続き持ってます?」
「もう読んだのか?」
「半日かかりました」
「授業中も読んでいたのか!?」
だって、続きが気になるじゃあ、ないですか。
12 夢 【65字】
花見をしていると男が生娘のようにころころと笑った。酒に酔って少し朱に染まった頬。麻色の髪に花弁が絡まって綺麗で、一瞬現世を忘れた。
どうしてこんなに儚く見えてしまうのだろう。嗚呼、そうか、愛しいからだ。
13 女と女*一緒に旅ED 【65字】
妖艶な女が俺を呼ぶと、連れは俺の袖を引き、行くぞ、と言った。妖艶な女は舌打ち。連れの嫉妬する姿が見たくて、今日も無防備に街を歩く。
こんなに態度で見せてもらえると、意地悪したくなる。
14 手紙 【65字】
くすんだ色の和紙に走る彼の人の文字。
彼の人の孫から渡され、幾年経ったのだろうか。
ボロボロになった紙に触れ、今だけ、過去を振り返る。
文末は「また逢えたら」
何度でも、俺は貴女を見つけだしましょう。
貴女が俺を忘れても、俺は貴女を忘れない。
15 信仰*学パロ 【65字】
信仰すら戦争の道具になるのだからおっかない。
「そういう貴女は何教ですか」
「結婚式はクリスチャン、葬式では浄土信宗かな」
無信教万歳!
「やおよろずの神様っていうし」
「……」
16 遊び 【66字】
冗談、と笑う相手の手首を掴んで引き寄せる。本気だと伝えれば、笑顔のまま苦しげに眉根を寄せた。
今日も誤魔化して逃げる相手を追い詰める。
貴方は臆病だ。
本気のくせして遊びで済まそうとする。
いい加減、俺と向き合ってくれ。
17 初体験*店主女設定 【65字】
女性の華やかさは自分に合わないと思って黒ばかりを着ていた。
けれど、薬売りから貰った桜色の紅。
今度着物を買う時は、黒以外を買おうか。
少しは女性らしくなりたい、だなんて。
昔なら思いもしなかったのに。
18 仕事 【65字】
血に汚れた服に硝煙の匂いを纏った男が訪ねてきた。風呂に入れている間に着物を洗うとすぐに水は淀んで、まるで自分の気持ちだなと、笑う。
お前が物の怪と戦う業を背負わずとも良いではないか。坊主に任せて薬の商いだけをしていれば良いではないか。
出かかった叫び声を飲み込む。
胸が淀んで、自身が物の怪に一歩近づいたのを実感した。
19 化粧 【65字】
初対面では愛敬も必要だと思う。
仏頂面の相手の腕を引いて触れるだけの接吻をすれば、俺の口紅がついて、笑みを浮かべているように見えた。
「道中で何してくれる!」
せっかく口紅を付けて微笑んでいるようにしたのに、怒ったら意味が無い。
20 怒り*鬼化ED 【65字】
鬼になったあの人は、躊躇わず危険を冒す。
物の怪と戦う時、自分を標的にさせて俺に真と理を探せと言うのだ。
軽率なそれに、胸を燻る感情。
こんなにも、腹を立てたことは、無い。
21 神秘 【65字】
灰白色の髪に褐色の肌、金色の紋様。
人は是を神仏と呼ぶのかもしれない。
薬売りに変わって現われて物の怪を斬る男を見ながら、そう思った。
薬売り自身も人というよりは神仏に仕える者に見える。
お前は、お前達は、いったい何者だ。
22 噂 【65字】
骨董屋の家に薬売りが来た。
今度はどれくらい進展するかしら。
え?首に噛み跡が?
小さな村の中、薬売りが来るたびに噂される二人の行く末。
「っくし!」
「風邪ですか?」
「いや、悪寒が……」
「風邪、ですね」
薬売りに看病される骨董屋を目撃した隣人が噂を流すのは、また別の話。
23 彼と彼女*一緒に旅ED 【65字】
「あ!薬売りさん!」
街を歩いていると、知らない娘が声を張り上げた。加世と呼ばれた娘は私を見て首を傾げる。
「薬売りさんの恋人さん?」
「正解、です」
「違います」
「え、どっち?」
「違います」
「正解、です」
「だから、どっち!」
24 悲しみ 【65字】
新しく来た九十九神と話すその人は楽しそうだった。しかし俺には九十九神は姿が見えなければ声も聞こえず、一人疎外感を感じざるをえない。
「西明」
「どうした?薬売り」
「……何でも、ありません」
おかしな奴。という西明に、物に向かって独り言を言っている西明のほうがおかしい奴だと言えば、機嫌を悪くされた。
25 生 【66字】
友人の子が産まれた。猿みたいな顔で、口をもごもごさせている。友人の妻は、可愛いでしょうと言うが同意は出来ず、曖昧に笑って誤魔化した。
「名は、何にするのですか、久倉」
「西明、と」
友人は西明と書いた紙を俺の顔に突き付けて、良い名だろうと笑った。
26 死*鬼化ED後 【66字】
口内に血と臓物の味が広がっていた。目の前に転がる派手な衣裳の男はもう動かない。何故剣を抜かなかったのだ。問い掛けても答えは無かった。
私がお前を殺す夢を見た。とても嫌な夢だ。いつか、その時が来たら私を斬ってくれ。頼むから。
27 芝居*一緒に旅ED後 【64字】
街で手当てをした怪我人が旅の一座だったようで、是非芝居を見に来てくれと言われた。隣にいる薬売りを見ると、実に嬉しそうにしていた。
「芝居が好きか?」
そう問えば、男はさらりとこう言ってのけた。
「西明と見に行くのが、嬉しいんです」
28 体*学パロ 【65字】
プールの時間が一番嫌いだ。
陽に焼けるし、不衛生だし。
でも一番嫌なのは
「ロンティー着て下さい。その格好はエロいです」
「お前は馬鹿だ」
男「水着姿に、欲情するのは、仕方ない、かと」
佐々木「ロリコン、ショタコンの発言にしか聞こえないぞ」
西明「あ、佐々木」
柳「むしろ水着の上にロンティーの方がエロいだろう」
西明「柳は黙れ」
柳とは、仲良くなれそうだ。
29 感謝 【65字】
人に見えない物が見える。それを共有する事は出来ない。必要時以外は人と距離を置くようになった私の元に、薬売りは変わらず訪れてくれる。
「どうか、しましたか?」
「いいや、何でもない」
必要な事以外で人と会話をするというのを、毎年訪れては思い出させてくれる。それが、本当にありがたい。
30 イベント*学パロ 【65字】
借り物競争に駆り出された。紙を見て、ぎょっとする。悩んだ末に男の元へ走った。
「俺、ですか?」
問う男を連れてゴールすると二位だった。
「で、何が借りる物、だったんで?」
男が私に問う。
審査員はにやにやと笑っていた。
私は自分が選んだ、借りる物が書かれた紙をビリビリに破いて、紙吹雪にした。
(『いつも傍にいる人』だなんて、絶対に言えない)
31 やわらかさ 【64字】
表情をろくに変えない人が、にこりと、極上の笑みを浮かべた。
綺麗な曲線を描いた口から一言。
「私の饅頭、食べただろう」
恐怖を覚えた。
笑顔の裏には鬼がいる。
32 痛み 【65字】
好きだと思う。
愛していると思う。
けれど恋してはいないと思う。
なのに薬売りが他人に触れたりすると、心が軋んで痛い。
呼吸を忘れそうだ。
醜い独占欲。嫉妬。
それが恋なのか?
33 好き 【64字】
たった一言、好きだと言えたならば、どれだけ良いだろう。
好きだと言えない。
言ってはいけない。
お前を置いて逝くのに、言える筈が無い。
好きだと言って、お前の心のしこりになるのが怖い。
私が死んだ後は、私を思い出すな。
死者に囚われるなど、あってはならない。
34 今昔(いまむかし) 【65字】
百年後の歴史書には、俺もあなたも存在しない。けれど歴史の片隅、確かに存在した俺とあなたの物語。
それは俺の心の中で永遠に生き続ける。
今日も皆の心の中で、歴史は紡がれる。
35 渇き 【66字】
田は乾燥した肌のようになっていた。
雨が降らなければ実らない、皆も喉が渇いて仕方ない。
私は神々に頼んで、雨乞いをした。
雨は翌日降った。
「あぁ、善かった」
周りは歓喜に酔い痴れていた。
私は神々の待つ場へ急いだ。
「ありがとう御座いました」
『構わぬ。それより、久倉西明』
「勿論、忘れておりません」
神はただでは動かない。
私は、約束のものを差し出した。
36 浪漫 【65字】
帯に手を掛ける。
引っ張ればくるくるとその人は回って、薄い布一着だけとなる。
体の線を出すその姿、紅潮した頬、震える睫に、喉が鳴った。
「薬売り、どうした、一人でにやけて。気持ち悪い」
「考え事を、していました」
「何を考えていたんだ」
「男の浪漫について、ちょっと」
「は?」
いつか西明に、してみたい。
37 季節 【65字】
春は出会いの季節だと、何処の誰が言ったのか。昨日に比べて陽射しが暖かいと小耳に挟むだけで、太陽が恨めしい。春など、来なければ良い。
そうすれば、薬売りといつまでもいられるのに。
38 別れ 【66字】
別れの言葉は特に無い。
来年は来られる確証は無い。
くたばるかもしれない。
そう思っても今回を最後にはしたくなくて。
毎年俺は、これを言う。
「また」
「あぁ、達者でな」
西明はすべてを見透かしたかのように、それしか言わない。
また来年、と言えば、それは嘘になるかもしれない。だから俺は制限の無い言葉を選ぶ。
(もしかしたら、また来世、かもしれない)
39 欲 【68字】
物欲?そんな物あの人には無いでしょう。
そう周りは言う。
しかし俺は知っている。
あの人は欲しい物は何があっても手に入れるほど物欲が強い事を。
どうしても欲しくなってしまうから、欲しい物を作らないのでしょう?物欲が無いふりをして無いで、言ってみてはどうですか?俺が欲しいって。
「いや、いらないから」
40 贈り物 【65字】
物が欲しいのではない。
金が欲しいのでもない。
俺が欲しいのはただ一つ。
その人は、俺に抱きついて言った。
「傍にいてくれ。愛しているんだ」
形無いものが、何よりもの、贈り物だ。
俺は喉が震えて、西明を抱き締める事しか出来なかった。
西明を、愛しています。
お付き合い、ありがとう御座いました。
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