モノノ怪 飽和する世界 番外 | ナノ
クリスマス〜2009〜
冬になって人の服装はモノトーンカラーになり、街はカラフルなイルミネーションに彩られる今日。
私はマフラーが棚を飾る場所に居た。
クリスマスを共に過ごす恋人も居なければ、友人とクリスマスプレゼントを交換する趣味も無い。
けれど常々、そう常々気になっていた事を知るチャンスだと思って、マフラーを買う。
プレゼント用でお願いします。と言えば、店員は箱のラッピングと袋のラッピング、どちらが良いかと聞いてきた。
どちらが良いのかいまいち分からない。
店員は箱のラッピングを勧めてきたので、箱のラッピングにしてもらった。
飽和する世界
学園パロディ
友人というべきだろう、髪の白い男の家のチャイムを鳴らす。
友人の母親の声が聞こえて、名前を名乗れば待ってて、と言われた。
彼が居るかどうかを訊ねに来ただけなのに、と思いながら、実は招かれる事を期待していた心は友人宅の客間を想像して踊り始める。
おばさん、というよりもその家庭と親しくしているからか、おばさんは玄関を開けて姿を現すと、外寒かったでしょう、あがってちょうだい。と言った。
「ちょっと渡したい物があって、会いに来ただけなんです」
だからと遠慮を見せても、ぐいぐい通される。
通された部屋に居る友人は、ソファにゴロンと寝転がっていた。
そこで手を挙げる格好。
「いらっしゃい」
「お邪魔してます」
「さ、座ってちょうだい。おばさん嬉しいわ。西明ちゃんが来てくれるって分かっていたら、ケーキを用意していたのに」
私は予告無く来た事を詫びる。
おばさんは西明ちゃんならいつでも大歓迎よ、と言って部屋を出て行ってしまった。
毎回思うが、何でこの人は私の事を“西明ちゃん”と呼ぶのだろう。
私を“ちゃん”付けで呼ぶのは、後にも先にもこの人くらいだ。
コートを脱いでマフラーを外す。
室内は暖房器具のおかげで暖かかくて、冷えきっていた指先がジンジンと痛む。
じきに顔も火照るだろう。
長椅子に寝転がっていた男は起きると自分の隣を叩いた。
そこに座ると、男は欠伸をする。
「突然、どうしたんで?」
しまった。
プレゼントを渡してさっさと帰るとしか考えてなくて、どうやって渡すか考えていなかった。
「元気か?」
「は?」
男はポカンとした。
確かに急な話題にポカンとして当然だろうと思う。
けれど、もう退けなくて。
「元気かと訊いてる」
「まぁ、元気ですね」
「でも出かけないな」
「寒い、ですから」
「元気じゃないな」
「そういう意味では」
「じゃあ、元気の出るおまじないをする?」
男がギョッとした。
私も自分で言ってて恥ずかしい。
何を言っているんだ、私は。
部屋の暖かさに、脳が湯であがったのか。
でも、もう言ってしまったのだから退けない。
「おまじないする?」
「え、あぁ、はぁ」
「じゃあ、はい」
プレゼントをバッグから出す。
男は本気で驚いた顔をした。
「急にどうしたんですか?」
「クリスマスが近いから」
「近いって……先に渡す物では、ないですよ。……誰かにあげる予定で、買ったんで?」
「は?」
誰かにって、お前にあげる以外に誰がいると言うのだろう。
私は他にプレゼントを渡す予定でそれを選んで買った訳ではないのだが。
「中、見ても良いですか?」
「あぁ、勿論」
男は包装紙を解いて、箱を開けた。
中からは私が選んだマフラーが出てきて、何だか気恥ずかしくなる。
部屋が暖かくて、顔がどんどん火照ってくる。
これを選ぶのに延々と悩んでいた自分を思い出すと、何でだろう、居た堪らない気持ちになってきた。
「マフラー、ですか」
男がマフラーを広げて、ポツリと呟いた。
プレゼントを目の前で開かれるって、物凄く恥ずかしい。
しかも、そんなしげしげと眺められては、どうしたら良いのか。
男が私を見る。
私は、目をそらした。
「お前がマフラーを絶対にしないから、首に何かを巻くのが嫌いなのかなって思った」
「でも、マフラーを、買ったんですね」
「それは……いつも寒そうだったから」
マフラーをしなくて、首が寒くないのかなといつも思っていた。
男は寒さに弱くて冬は極力家から出ないのも知っているから、何でマフラーをしないのか常々気になっていたのだ。
何処でだって売っていて、学生も手に入れられる金額のマフラーなのに、何で使わないのだろう。
本当にマフラーが嫌いなのだろうか。
分からないから、クリスマスプレゼントに託けて買って渡して、今度学校に来る時に着けているかどうかを見ようと思っていたのだ。
「ひと足早いクリスマスプレゼント、ありがとう、御座います」
「うん」
クリスマスはそれを着けて出かけたらどうだ?と言えなかった。
男は見目綺麗で人気があるから、沢山の女性から申し出があったのを知っている。
クリスマスを共に過ごす人は誰にしたのか聞きたいものだ。
勿論、訊ねたら西明はどうなのかと訊かれそうなので、問いはしないけれど。
「……」
「……」
何だろう、気まずい。
もう、帰ろうかな。
おばさんには申し訳ないけど、帰ろう。
立ち上がろうと覚悟を決めて、今だと思った時にタイミングよくおばさんが客間に入ってきた。
「時間が掛かっちゃってごめんなさいね、西明ちゃん」
「いえ……」
「西明ちゃんは、クリスマスをどうやって過ごすの?」
「え?」
「母さん」
「良いじゃない」
薬売りの制止を無視して、おばさんは問うてくる。
「家で過ごそうかと」
「あら、そうなの」
おばさんはにこりと笑って、部屋から出ていった。
私は紅茶に砂糖を入れようと、シュガーポットに手を伸ばす。
「西明」
「何?」
「クリスマス、予定、無いんですか?」
「悪いか?」
「いえ、そうではなくて」
男は言い淀む。
もてる男は私のような奴を同情するのだろうか。
紅茶を飲んで、クッキーを食べたらさっさと此処を出よう。
「西明」
「今度は何だ」
「クリスマス、一緒に出かけませんか?」
「……は?お前、申し込んで来た人達はどうした」
「全員、断りましたよ」
「はあ!?」
「好きでもないのに、期待させるのは、申し訳、ないでしょう?」
それは、そうだけれども。
いや、てっきり、この男は好きな女性と過ごすのかとばかり、思っていた。
だから、クリスマス前にプレゼントを渡しに来たのに。
「一緒に過ごす者が居ない同士、一緒に居ましょうよ」
「それだと」
「それだと?」
「……プレゼントを今渡したのが、馬鹿みたいだ」
男は目をパチリと見開く。
「もっと早く、申し込めば、良かったですね」
「誰かと過ごすと思ってた」
「俺は、西明こそ、そうなのだと、思っていました。クリスマスの話をする度に、俺に申し込んできた女子の話をするから、誘わないでくれと、言ってるように思えて」
だから、西明は誰かと過ごす予定なのかと、思っていました。
そう言われて、口を突いて出そうになる本音。
お前が誰と過ごすのか気になっていた、なんて言えるはずも無くて。
何で気になったのかを問われたら、分からないとしか答えられないから。
訳の分からない感情は、何故か知るのが怖くて気付かないふりをしてしまう。
「私は気心知れた人としか、時間を共有しない。くだらない事を考えるな」
「気心知れた人が、居ないんで?」
「親友は一人でいい」
男は驚いた顔をした。
〜クリスマス当日〜
「メリークリスマス」
「メリークリスマス……マフラーは?」
ひと足早くあげたプレゼント。
クリスマスイブに初めて着けると言っていたのに。
「持ってきました」
「……本当に着けるのが嫌いなんだな」
「違いますよ」
鞄から、マフラーが入っていた箱を取り出す薬売り。
何で箱を持ってきているんだ、こいつは。
「はい」
箱が差し出される。
「返却は受け付けないぞ」
「違いますよ」
二度目の違います発言。
何なんだと思いながら箱を受け取れば、巻いてください、と言われる。
「……は?」
「クリスマスイブに、プレゼントだと思って」
クリスマス前にプレゼントを渡してしまったから、今受け取る調子でやって欲しいという事だろうか。
最初は手渡しで終わったから、今回はマフラーを装着させて欲しいと。
「テイク2って事か?」
「そうとも、受け取れますね」
仕方ない。
勝手に、クリスマスに予定があると思い込んでいた私が悪いのだ。
箱からマフラーを出す。
男の細くて白い首にマフラーを巻く。
自分で選んだ物だが、男に似合っていて。
嗚呼、選んで良かった、と思った。
〜戯言〜
2009 X'mas
淡い青春が書きたくて書いたら青臭すぎて恥ずかしくなりました。
薬売りの母親を出してしまって済みません。
薬売りに「母さん」と言わせる事が出来て大満足です。
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