モノノ怪 飽和する世界 番外 | ナノ
かまって
小説にもできないコネタ。
その日、とある骨董屋の店主は筆を走らせていた。
商いをしている以上、土地を納める人に納入しなければならないのだ。
墨を含ませた筆は和紙の上で器用に動いて文字を生む。
文字は言葉の羅列となり、意味を生む。
その様子を、現在居候の身である薬売りは眺めていた。
「忙しそう、ですね」
「忙しいさ」
「これからずっと、忙しいんで?」
その言葉に、店主は喉の奥でクッと小さく笑った。
口元には、軽く笑みが浮かんでいる。
しかし手は相変わらず筆を動かして文字を描く。
「一生忙しいのは御免だな」
「では、暇もあると」
「これからも今までと変わりのない生活だ」
「暇が、多いと」
「言ってくれるな薬売り」
「事実、でしょう」
店主は反論はしないさ。と返し、墨に筆先を浸した。
どうやら、まだ書き物の仕事は終わらないらしい。
筆先が浮いた時に一瞬口元を緩ませた薬売りはひどくつまらなそうに、床に置いた、既に読み終わった本の頁をパラパラと意味も無く捲る。
「それが、終わったら」
閉じた本をまたパラパラと捲りながら薬売りは言った。
「俺に、付き合って、下さいね?」
その言葉に店主は筆先から視線を外し、薬売りを見る。
薬売りは本に視線を向けて、けして目を合わせようとしない。
「寂しがり屋か」
「兎、ですから」
店主は口を開きかけて、言葉を飲み込む。
その代わりに口の端を上げて意地悪く笑うと、先程言おうとした言葉と別の言葉を吐く。
「暇ならな」
「では、時間は沢山、ですね。西明は、暇人ですから」
「どうだろうな。忙しくなるやもしれんぞ」
「暇が多いのが、この骨董屋の、特徴、ですよ」
「違いない」
西明は笑い、そして紙を見て声をあげた。
薬売りがどうしたのかと問えば、西明は溜め息を吐いて書いていた紙を見せる。
その紙は、筆が止まっていたところが見事に墨が染み込んで滲んでいた。
西明は髪を掻き上げ、また溜め息を吐く。
「書き直し、ですか?」
「書き直しだ」
「……」
「待てをくらった犬みたいだ」
「まさに、その気分、です」
〜終〜
構ってほしいのに、相手は忙しい。
08/01/27
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