モノノ怪 飽和する世界 番外 | ナノ
悲しみの中
両親が交通事故で死んだ。
トラックが信号無視をして、右折していた両親を乗っていた車ごと潰したのだという。
霊安室前で知らない人に即死だったと言われて、せめて痛みを感じる間もなく死ねたのならば良かったと、なにも良くない状況で思った。
いきなり両親が亡くなって、残された高校生の私に親戚は困惑を見せた。
一緒の車に乗っていれば良かったのにと話しているのが聞こえたおかげで、葬式の最中に泣くことも出来ない。
ああ、友達の参列を断って良かった。
きっとあの子達が此処に居たら、嫌な思いをさせていた。
「うちには年頃の男の子がいるから嫌ですよ」
「私の方は二人も大学に行かせてるんだ、もう一人養う余裕はないね」
聞こえる大人達の声。
私だって、あんた達の所なんて願い下げた。
私には、両親が守っていたこの店がある。
この店を私が離れるなんて、あり得ない。
「じゃあ私があの子を引き取るわ。この店は…そうねぇ、あの子は私の家に来るのだし、不要でしょう。全部売れば良いわ。店の品の価値なんて分からないけど、アンティーク系は高く売れるんじゃないかしら。そのお金があればまぁ、高校くらいは出せるわね」
ふざけるな。お父さんが集めた骨董品を売るだなんて、何を考えているんだ。
物の価値の分からない奴らが、適当に売りさばいて良い物ではない。
お父さんは言っていた、物にも心はあるんだって。だから、物を無下に扱うのは駄目なのだと。
それに、私は両親が守ったこの店を大人になったら継いで、私が経営していくと決めていたんだ。
「まだ高校生だ、遺産とかも子供の手に余るだろう、俺達が管理してやらなきゃな」
嘘だ。
私が受け取る両親の保険金や遺産を管理するのではなくて、自分の懐に収めたいだけだろう?
それでお父さんとお母さんが堅実に積み立てていた金を奪うつもりなのだ。イヤラシイ。
「ちょっと、あの男が引き取ったら、危ないわよあの子」
「あいつ、酔った時に若い子を買ったとか自慢してたじゃないか」
「でもまぁ、あの子高校生だし、親が死んだんだから仕方ないんじゃなぁい?どうせ行きつく先はそういう世界でしょう」
大人は、穢い。
私をそんな目で見るな。
スカートの丈を伸ばそうとするけれど、今まで気にせず出していた足は短い丈に隠れてくれない。
気持ち悪い。
きもちわるい
キモチ ワルイ
両親の遺骨を抱えて畳の目をじっと見ていると、チリン、と涼しい音色がした。
淀んで動きをなくした空気に振動を生むその音。
風鈴なんてないのに、葬式の場に不釣り合いなのに、私はその音色が心地良いと思った。
「久倉西明さん」
フルネームを呼ばれる。
振り返るとそこには私よりも年上だけれども二十代半ば頃の若い、それなのに髪がすべて老人のように白い男。
生まれつきのアルビノかと思わせる肌と髪の白さ。
私は、この人を知らない。
知らない男は私の前に正座して、深く頭を下げた。
「この度はご愁傷様です」
「ありがとう……ございます」
「俺は、あなたの父親に生前よくしていただいた者です」
「そう、ですか」
「はい」
「……」
「……」
去らない男に、なんだと目を向ける。
同情か、哀れみか。
そんな目をしていたら部外者のくせにと心で罵ってやるつもりだったのに、その男はまっすぐに私を見ていた。
その綺麗な瞳に心にかかっていた靄がパッと弾けたように消える。
まるで雲の無い空の下、一陣の秋風が吹き抜けていくような、そんな気持ちがした。
「西明さん」
「はい」
「俺と共に、暮らしませんか」
男はポツリと言葉を紡ぐ。
全く知らない男の発言。
私は相手のことは何も知らないし、私は何も持たない女子高生。
普通なら、身の危険だって感じるし、裏があると考えたっておかしくない。
それなのに、私は危機管理能力は強いほうだというのに、この人なら大丈夫だと心の何処かが言っていて。
周りの親戚が騒ぐ中、私は頭を縦に振った。
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