鬼灯の冷徹 | ナノ
視てはいけない
江戸時代と言うのは、戦が無いため物が壊れる事は少なく、また人々は物を大事に扱っていたので付喪神が多くいた時期でもある。
そんな時代、ほんの少し栄えた宿場街の片隅に、骨董品を取り扱った店があった。そこの店主には妖怪悪鬼の類が見えるという噂があり、またその店で勧められた物を買えばその者には大なり小なり幸運が寄ってくる、という話もある。
そんな人の領域から外れた人間がいるという話が耳に入った地獄の閻魔大王第一補佐官である鬼灯は、その噂が真かどうかを確認するため、ツノと耳を隠してくれる薬を服用して現世へと足を向けた。
視てはいけない
今日も天晴れな天気だ。あと一刻もすれば真上から陽が降り注ぐと言う時分、店の前に「骨休め」と立てかけて、店の棚に並んだ品物達が構え構えと騒ぐ中、庭の野菜に水を撒いてきますと伝える。すると埃が積もり始めたとか何だかんだと理由をつけてここに足止めしようとしてくる。
「一昨日あなた達を磨いたでしょう。埃はそう簡単に積もりはしませんよ。私は野菜周りの雑草を抜き、水やりをします。また昼過ぎには戻りますので、あなた方もどうぞ昼寝なりなさってください」
するとまた骨董品達は騒ぐ。最近カヱが書物を朗読してくれないとか、カヱが触れてくれないとか。異国からやって来たペンと言うモノは「使ってもらえない」と嘆く始末。使ってもらえなければただのゴミだとまで言うが、どうして磨き上げた売り物を自分で使い汚せるだろう。
それに、構え構えと言うが私は生身の人間なので、食うし寝る。骨董屋などなかなか物が売れないのだから、物に溢れていても貧乏暇無しだ。食うためには家庭菜園で育てている野菜を成長させなくてはならない。
それなのに、家庭菜園に割く時間を我々に寄越せと嘆かれているのだ。そりゃあ視えないモノが視えて、聞こえない音が聞こえて対話が出来る私は希少な存在だろう。彼等が生きてきた中で初めて遭遇した人間かもしれない。それだから、これだけ執着されるのだ。彼らは人の寿命が短いことを知っているからこそ、自分達に費やす時間を増やして欲しいと言うのだ。
しかしそれでは私の寿命が縮まるばかり。仕方ないが、このモノ達には嘆かせておいて、庭に行くとしよう。
「戻って来たら書物を読みますから。では行ってきます」
罵りの言葉を背中に聴きながら店を出て、庭に向かう。雑草を抜いて、甕に溜まった雨水を撒く。桶に汲んでおいた井戸の水で手を洗っていると、どうにも家の中が騒がしい。骨休めの板を置いていたのだが、客人が来たのかもしれない。
店先への道を短縮しようと縁側で草履を脱ぎ、屋内に入る。
『お帰りになって下さい!貴方様がくるような場所ではありません』
騒々しい中で凛と通る声を発しているのは五弦琵琶だ。琵琶の知り合いなのだろうか?
そもそも琵琶が話しかけるような口調なのは、私と同じように彼等人ならざるモノの声が聞こえているということ。来訪者は生きている人ではないのかもしれない。人に対して慇懃無礼な五弦琵琶が対象を「貴方様」と表現しているのも気になる。
「そう仰らずに。それより、お店の主人は居ないんですか?」
声の主は琵琶の声に返すような口調。間違いない、客は私と同じ目と耳を持つ人間か、人ではないかのどちらかだ。息を殺して、足音を忍ばせて店先へと近づく。
『主人は庭へ行っていますよ。どうぞお引き取り下さい。お迎えに来てくださったのかもしれませんが、我々はまだ壊れていないので、そちら側に行くのはまだ先です』
「庭ですか。では……ごめんください!主人はいらっしゃいますか!」
大きな声で私を呼ぶという事は、客なのか?聞こえなかったふりをするのもおかしいと思い、わざと足音を立てて店先へ向かえば、黒い着物を身にまとった、随分と大柄な男が薄暗い店内に立っていた。戸から入る光を逆行に浴びているために顔は伺えない。
「ようこそいらっしゃいました。お待たせして申し訳御座いません」
いつものように、代わりなく。この男は喋る琵琶より私を探していたのだから、私に何か用があるのは確かだ。昨今は私が付喪神と話が出来るとか、ご利益のある品を売ってくれるとか、そういった噂が流れていると聞く。その類の話を聞いて、自分と似たような人間がいると思って来訪したのかもしれない。それならば筋が通る。
「田中カヱさんですか?」
「はい。何をお探しでしょうか?」
自分と同じ体質なのかを確認したいと考えているのかもしれないけれど、私はその体質を公にするつもりはない。知らぬ存ぜぬを通させてもらおう。
私が付喪神と話が出来るという噂も、分別のつかない幼少の頃に店のモノ達と話していたのがきっかけだ。分別がつくようになってからは人前でそんな事はしていない。それなのに今になってまた話が蒸し返されているのは、店の品々が売られた先でご利益を与えているからなのだろう。
おかげさまで店の商売は緩やかであれ右肩上がりだけれども、何故そうなのかという理由を考えた人たちが過去の私の失態を思い出してしまったのだ。骨董品に向かって話をする変わった子だったと話して、それがここまで拡張されてしまったのだろう。
厄介な事この上ない。とはいえ、それで食いっぱぐれないで済んでいるのも事実なのだけれども。
『カヱ、このお方には何も話してはいけないよ』
周りのモノ達が口々に目の前にいる男に気をつけろ、と言う。男も聞こえているようで、喋っている骨董品の方を見ている。こんな状態では、骨董品達の声に反応するわけにもいかない。
「その品が気に入りましたか?」
普通の人に見えるようにと、男が目を向ける品にこちらも目を向けると、いえ、と返される。欲しいわけではないが、見ていた。やはり付喪神の声が聞こえるのだ。しかも、どこから声がしているか、誰が話しているかも判定できる程の霊感と言うのか、とにかくそういうものを持っている。
営業用の笑みを崩さないようにしつつ、確実に視えている人がこの世に私以外にも存在して、そして今目の前にいるのだと思うと感慨深かった。
仲良くしたいところだが、何故か骨董品達は私に話すなと言い、招かねざる客という態度を崩さない。ただの体躯の良い男にしか見えないのだけれども、何が問題なのだろう。骨董品達からは高貴な扱いをされていたから、もしかして幕府の重鎮なのかもしれない。……いやいや、彼等が何故重鎮と顔見知りなのかという問題もある。では、狐狸の類いだろうか?もしくは、人に化けてきた神仏かもしれない。
私に話しかけていた骨董品に手を伸ばして指先でコツンと突く男性の背中には、不思議な絵が描かれていた。何だろうか?緑の紐が紅く描かれた桃のようなものを包んでいる。
それにしてもこの男性、不思議な服装だ。和服ではない。漢の服だろうか?体躯の良さと背の高さ、異国の地の人にも見えなくはないが、それにしては流暢な口ぶりだった。単純に服の好みに煩い人なのだろう。
「お茶を淹れてきますので、どうぞ、品物を見ていて下さい」
付喪神達が警戒するほど悪い人には見えない。きっと何かの勘違いだろう。
席を外したところで品物達が騒げば声は台所まで届く。何か問題があれば即座に店先へ戻ることができるとたかを括って、私は台所へと向かった。
湯を沸かしている間にも、店先にいる付喪神達が何事か話している。私がいる間には出来ない対話なのだろう。内容が気になるが、耳をそばだてていても言葉を拾えない。
茶と菓子を添えて盆を運んでいると、耳をつんざく悲鳴が響き渡った。
すぐに店先に戻れば、客人と、悲鳴を上げた水煙草。
「そんなに急いでどうかしましたか?」
「いえ、何も」
してやられた。水煙草は生娘のような子だから、吸い口に触られるだけで悲鳴をあげるのだ。そしてその悲鳴を聞いた私は危機だと誤認して走ってしまった。
「何もないことはないでしょう」
お盆を置いたところで、相手が私を見下げてくる。大きな男が背をかがめて、まるで嘘を見逃すまいと、目を覗き込んでくる。
覆いかぶさる姿勢に圧を感じて、息が詰まる。
「まるで悲鳴でも聞いたかのような表情でしたよ」
「この家のどこに、悲鳴をあげる人がいるでしょう」
「では聞いていないと。それが真実だと誓って、口にしますか?」
「え?」
切れ長の瞳が私の中まで覗き込もうとしているようで、目を逸らしたくなる。けれどここで目を逸らしてしまっては、後ろめたさがあると表現しているようなものだ。
『カヱ、その人の前で嘘はいけないよ。舌を抜かれてしまうからね。真実を語るんだ』
この家で一番の古参である白磁の陶器がポツリと零した言葉に、目線が勝手にそちらを見てしまった。それで相手も合点がいったのだろう、やはりそうですか、と呟かれる。
「カヱさん、あなた、妖が見えるんですね?」
「その質問にお答えするより前に、貴方は何者ですか?私個人の事だけを教えるのは公平ではありません」
「私ですか?それについては後でお答えしましょう。まずは確認です。あなたは妖の声が聞こえ、姿が見えますか?」
ぐっと喉に詰まるような感覚。肯定はしたくない。しかし否定は嘘となる。嘘をついてはならないと言う骨董品達に何故だと問いたいが、今の私に答えていいのは是が非かである。
分別がつくようになってから、一度たりとも他人を前に認めなかった事なのに。
「……見え、聞こえます」
肯定する他ない。この男から感じる圧は、ただの人ではないと告げている。周りの骨董品が真実を語れと言う得体の知れない男相手に、どうして嘘がつけるだろう。
相手はしっかりと頷いて、その後私の頭に手を置くと「素直でよろしい」と褒めるように呟いた。誰にも受け入れられずにいた真実を、男はすんなりと受け入れた。それだけ、この男も特殊なのだろう。
「強い霊力を持っているんですね。先天性か、後天性かは判断つけかねますが、随分と慣れていますね」
「物心つく頃には良き話し相手、遊び相手でしたね」
「なるほど、物怖じしないわけです。大変優秀な人材だ。今すぐにでもコチラに来て欲しいほどに」
『御冗談を。カヱはまだ生身の人間で御座います。戯れに手を出すのは』
男が骨董品に視線を向けると、骨董品はヒッと怯えた声を出した。彼らの言葉から察するに、この男は生身の人間ではないようだ。しかし、彼らは神であるのだから、この男の何がそんなに恐ろしいのだろう。見た限り人間だ。人間が神に勝るはずはないだろうに。
「ところで、私の質問に答えてもらっていません。貴方は何者ですか?」
男の切れ長の瞳が私を捕える。目を背けることが叶わない目線に、背筋に悪寒を感じた。見た目に騙されているだけで、付喪神より余程上位の存在なのかもしれない。
「私はここでは加々知と名乗っています」
「かがち…?」
名乗っている、という表現を使うということは、本名は別なのだろう。それにしても、カガチ、とはまた変わった名前だ。倉の肥やしになっている書籍で昔読んだものにその名前があったなと思いだす。
しかし、何を指すものだったか。
「本名は教えていただけないのですか?」
「それはカヱさんが私たちの世界に来た時に教えましょう」
「それは、死後の世界ということですか?」
相手は察しがよろしいようで、と仏頂面のままに言う。表情から考えていることを察せられないのは厄介だ。
加々知と名乗った男はやっと身体を離し、私の横に座る。置いたお盆から湯呑みを取って、いただきますと一言。
「ところで、聞いた話なのですが、カヱさんは医学系の知識もお持ちだそうですね」
「売り物の書物から読んで身につけた程度ですよ。医者が一番近くて隣街なので、軽症であれば薬を煎じてはいますね」
後半は言い訳がましくなったかもしれないが、医師でもないのに他人を診ていると知られるのは良い事ではない。御上に知られたら何かしらの罰則は免れないだろう。
先ほどの会話から、この男が現世の人間ではないというのは分かったけれど、それでも現世の誰某と繋がっていて、私が罰せられる可能性は否定できない。
「その書物を拝見したいのですが、ありますか?」
隣り合って座りながら、店の入り口を眺めてする対話に、この男は目線が恐ろしいのであって目が合わなければさほど緊張せずに済むようだと気付く。とは言え、背丈が高いのと体格が良いので、居るだけで圧迫感を感じるのだけれども。
「蔵にあるので、取ってこなくてはなりません。お時間をいただきますが、よろしいですか?」
「ええ、構いませんよ。時間は腐るほどにあるので」
「左様ですか」
では行ってきます。と言うと、ついてくると言われる。倉庫の中に見られて困る物も少しあるので渋ったが、男は梃子でも動かず、むしろ何か困ることが?と分かっているだろうくせに聞いてくるのだからタチが悪い。
「勝手に触らないでくださるならば」
「では行きましょう」
スッと立ち上がった男はやはり大きい。並んで立つと更に大きく感じて、威圧感すらある。
骨休めの看板をそのままに、庭を通って蔵へ向かう。まだお互いに影は真下にある時間、突き刺さるような陽射しを頭に受けながら途中にある家庭菜園を前に植物の育て方について色々と聞かれたが、聞かれた事だけ答えて先を促せば嫌な顔1つせずについてきた。
蔵の鍵を開けて中に入ると、高い位置にある窓から入る陽射しを受けて、薄暗い空間に埃が舞って見えた。たまに虫干しして、換気する程度だから空気もこもっていて独特の匂いがする。
書物を置いている奥へと足を進めると、後ろからついてくる気配。加々知と言う偽名の男が付いてきているのだと分かっていても、蔵に他者を入れたことがないから違和感を感じてしまう。
「この棚が医学関係の書物です。右から東洋、南蛮、蘭学です。虫干しはしていますが、傷んでいるものもあるので取り扱いに気をつけてください」
「南蛮と蘭学も揃っているんですね。興味深い」
男は踏み台を使わずに棚から書物を取る。そして薄暗がりの中、適当に選んではパラパラと頁をめくっていった。
明かりが欲しいだろうと考えて、一度蔵を出て行灯を持って行く。踏み台に腰掛けて、書物を見ている姿は絵になるなと思った。
「おや、ありがとうございます」
「目を悪くされませんよう。縁側に運んで読んでいただいても構いませんよ」
「暗がりには慣れているので、問題ありません」
行灯をそばに置いて、蔵に男を1人に出来るほど信頼もしていないからこの場を離れることもできず、仕方ないと私も一冊手に取って読む。
しかし一度は読んだ書物だ、そんなに真面目に読めるはずもない。ちらりと盗み見た相手の横顔は行灯の光に照らされて陰影がハッキリとしていて、造形が分かる。
随分と睫毛の長い人だ。
「何か?」
余程凝視してしまっていたのか、相手の目だけがこちらを見る。咄嗟に目をそらしそうになったけれども、今更そらしたところで意味はない。
「何処かでお会いした事がある人かどうかを考えていました」
口から出たでまかせに、男は首をこてん、と横に倒す。見た目青年なのだが、幼い所作だ。切れ長の目をパチリと瞬かせて、瀕死になった事がおありですか?と物騒な事を聞いてくる。
「無いと思います」
「では、初めてでしょう」
「そうですよね」
それにしては他人の家で我が物顔だし、また目線は書物に戻っているし……。いつまでここに居座るつもりだろうか。
「書物、部屋に運びましょうか?蔵の中は読むには向いておりませんよ」
周りの骨董品も男の存在に慄いているのか、一言も話さず固唾を呑むような雰囲気だ。これでは骨董品たちも可哀想だと外へ出る提案をすると、視線を周りに配って、そうですね、と男は言った。私も手伝って、書物を縁側に運ぶ。外の空気は涼しくて、止まっていた空気とは違う心地よいものだった。
何かあれば部屋に有る骨董品が教えてくれると考えて、私は店先に戻ります。と伝える。いつまでいるか分からない男を相手にするほど暇では無い。遅くなったが昼飯の支度もしなければならないのだ。
本の虫になっているあの男は、きっと飯のことなど考えてもいないだろう。近くに宿を取っているかも不明だ。
宿場町だから、暗くなる前ならば宿も取れるだろう。しかしあの男は私以外に見えているのかも分からない。影はあったから実態ではあるのだろうけれど、他の人間にはどんな姿で見えているのだろう。
米をいつもより多く炊いて、干し魚も2尾焼く。
得体の知れない男であるが、人型を取って書物を嗜むならば、食事は人と同じだろうと高を括る。もし違ったら、もしくは店を訪ねる前に食べてきていたら、その時は私の夕餉になるだけだ。
『カヱ、あの方の食事も作っているのかい?』
「あなた方が何も情報をくださらないので、あの男を無碍に扱っていいのかも判断つきません故」
昔からある土瓶の問いに責めるような口調になってしまったのは仕方ないだろう。最初は何も話すなと言われ、次に嘘を吐くなと言われ、付喪神達の対応を見れば相手の身分はかなり上であると知れて……それなのに誰もあの男の正体を明かさない。信用していたモノ達が自分に憐れみの目を向け、口ごもる姿に苛立ちを感じずにいられる人間など、いないだろう。
その癖して、此方が邪推して動けばその行動に口を挟む。一体何なのだ。
「あの男が何者なのか、教えてはもらえないのですか?」
御釜に乗せた木の蓋が小さく揺れ、隙間から少し汁が溢れて始めたので火を弱める。土瓶は何も言わない。きっと、触れてはならぬ存在なのだろう。神と称される彼等が畏怖の念を抱く相手とは、何なのだろうか。
結局誰もが口を閉じ、台所は煮焼きする音だけになる。
膳の準備をして男がいる縁側が見える部屋に向かえば、まだ男は熱心に書物を読んでいるようで此方に背を向けている。購入してもらえれば私の懐が温かくなるのだが、この男は読み漁るだけ読み漁って買わないつもりだろうか。
「遅い昼食ですが、食べられますか?」
此方に身をよじった男の膝には猫が乗っていた。猫と戯れていたのか、この人は。笑いそうになりながら相手の顔を見て、身体が硬直する。
ツノが、生えている。
「どうかなさいましたか?……ああ、擬態薬の効果が切れたんですね」
「鬼だったのですね」
「おや、あまり驚かれていないようですね。その度胸好きですよ」
「いえ、驚いていますよ。ただ私が見てきた鬼は小鬼と言いますか、言語の通じない、よく絵巻に描かれているような餓鬼でしたので、ツノくらいしか見た目変わらない鬼は初めてでして、新境地が開拓されたと言いますか……」
「鬼自体を見るのは初めてではないんですね」
「見えないものを見てしまう目なので」
「ちなみに私はツノだけでなく、耳と歯も変わってますよ」
いー、と口をする男に、どれと覗き込むと口の形が変わって「本当に物怖じしませんね」と言われる。
「済みません、興味の方が勝りました」
「結構です。カヱさん、なかなか気に入りました。いつでもこちらに来てください。大歓迎です」
「そちらに行くのは天寿を全うしてからですね」
「私からすればあっという間です」
「そうですか」
覗く牙に、本当に鬼なのだなぁと傍観者目線で思う。目の前に居るのに、最初会った頃に感じていた不安や恐怖はなりを沈め、ただ他人を相手している気分だ。
意思疎通が出来るからなのかもしれない。これが言葉も通じずに鬼の力で襲いくる輩なら、とても恐ろしかっただろう。
「ところで先ほど昼飯がどうとか言ってましたが」
「ああ、そうです。昼餉を用意したのですが、食べますか?焼いた干物なので、鬼の加々知さんの口に合うか分かりませんが」
「頂きます」
「分かりました、持ってきます」
膳を取りに行っている最中に、骨董品達が騒めいているのに気付く。
「どうしたのですか」
『鬼神と普通にしているカヱに驚いているのだよ』
「鬼神?」
あの鬼は神の域にいるのか?随分と人間臭い部分があったけれども。いや、神も人も総じて知恵のある生き物だ。皆あんなものなのだろう。
骨董品達には面白い方だと伝えて、膳を運ぶ。途中粗相のないように、と骨董品に言われたが、客を上座に、私は下座にくらいしか知識はない。遠方の地域のように女は土間で食べろというわけでもないだろうと考えて、同じ部屋で食べる事にした。
結局食事をしながら世間話をして、書物を数冊購入して鬼は帰っていった。
最後にまた来ます、と言われたのが気がかりであったが、あの鬼ならきても構わないと思えるほどに人となりが分かった気になっているので、お待ちしております、と返した。
鬼が変わった笠を被り、擬態もせずにやってきたのはまた別の話。
〜戯言〜
夢主はモノノ怪「飽和する世界」より出張です。
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