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全てを捨てるというわけにはいかないんだ
全てを捨てるというわけにはいかないんだ
例えば、例えばですよ松寿丸様。
私がもしも他国へ嫁ぐとなったら、如何なさいますか?
え?引き留める?あぁ、理由を問うのですね。
でもそれはなりませんわ、松寿丸様。
確かに昔から今まで貴方様の傍に居られたのはこのナマエしかおりません。
別れが淋しいのも理解出来ます。ですが、もうじき貴方は元服なされる身、御国の事を第一に考えなくてはなりません。
今回の一例はまさにそれで御座います。
松寿丸様の側に居続けた私が他国へ嫁げば、それは同盟中の人質と何ら代わりはありません。
つまり私が嫁に出向く国と、緩くこそありますが絆が生まれます。
もし松寿丸様が窮地に追いやられでもすれば私が戦力をお送りできるでしょう。
かといって、私の嫁ぎ先が窮地に追いやられましても、貴方様にとって私は部下なのですから兵力を削る行為をしなくてもよろしいのです。
それは松寿丸様にとって利益。
なのに理由が気に入らなければ引き留めようなどと、してはなりません。
もしそんなに理由が気になるならば、聞くだけ聞いて何も言わずに袖を振ってお送り下さいまし。
酷い夢見だった。
ナマエが出てくるなんて、計算していない。
焼ける胸に息を大きく吸い込む。
朝焼けが白んでいる。本日も晴天だ。
散歩をしよう、そうすれば少しは気も晴れるだろう。
陽の光の下を歩いていれば、身体の中の汚物が浄化されているような気持ちになる。
このまま忘れるだろうと思っていたのに、ふいに頭の中をよぎる夢。
あれは過去にあった出来事の再現映像。
本当はあの時には縁談が決まっていたくせに、よくもまぁ例えだと言ってぬけぬけと語ったものだ。
先に釘を刺しておいてから本題に入るあの癖は今でも健全なのだろうか。
一度盛大な溜め息を吐いてから部屋へ戻る。
「毛利様大変です!」
部下が一人、血相を変えてこちらに走ってくる。
どうしたのだと視線を向ければ、息を切らしながら言葉を紡ぐ。
「ミョウジ様の城が織田軍に攻められています」
「ミョウジ……」
その名はナマエが嫁いだ先のもの。
同盟でこそないが、関係は良好な者が住む城。
「如何なさいましょうか」
織田軍の兵力は、戯れに軍を進めたのではないと物語っている。
助けに行けばこちらもただでは済まないだろう。
兵力だって削られる。
助けを求められたわけでもない。
同盟を結んでいるわけでもない。
助けに行く道理はない。
毛利家を危険にさらす必要もない。
だが、行くしかない。
我はこれ以上、大切な者を失うわけにはいかないのだ。
かと云って、毛利家を危機に向かわすつもりもない。
危機を脱するために知がある。全力で我の知を奮おう。
助けに行けば間違いなくナマエは嫌な顔をするだろうが、そんなことは知ったことではない。
我は我が儘なのだ。
全てを目の届く範囲に置かなくては気が済まないのだからな。
07/05/11
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