その他夢小説 | ナノ
寂しがりやの隣
行く宛てもなく彷徨って、疲れて蹲っていたところに少年は現れた。
動けなくて視線だけを向けた私の前にしゃがんで、まるで独り言のように独りか?と問うてくる。
返事もせずに黙って見ていると、その人は口の端をいびつに上げた。
「奇遇だな、我も独りだ」
無表情の中で歪む口。
綺麗な体なのに、私には切り傷だらけに見えてしまう。
何て痛々しい。
幻覚が見えるなんて、とうとうあの世への渡し船に足をかけたのかしら。そんなことを考えた。
「寂しいか?」
寂しくなどありませんよ。
だって私は元々独りなのですから。
知ってます?
独りの痛みは慣れてしまえば、麻酔を摂取した時のように感覚を麻痺させて寂しいとは何なのかが分からなくなるんですよ。
その状態が長く続けば寂しいとか寂しくないとか、そんなことは考えなくなります。
だから私は寂しいって云うのがどんなものか、今ではさっぱり理解できません。
その人は私の頭に手を置いて、軽く撫でるように叩いた。
「また来る」
あまりにも寂しそうに喉を震わせて言葉を紡ぐから、私はついついつられて立ち上がってしまった。
「ついて来るか?」
振り返って少し目尻を和らげて言われるものだから、後に引けなくなってしまう。
そうですね、行く宛てもありませんし、貴方が寂しいなら傍に居ましょうか。
寂しがり屋の隣
少年は高貴な身分らしく、私を連れて帰ったところ世話役だろう男が凄く嫌そうな顔をした。
仕方ないだろう。
身元も分からない浮浪な身だし、なにより汚い。
それでも彼――元就と云うらしい人は私を手放さなかった。
主に逆らえないのだろう世話役は深い溜め息をついて、現状の打開策としてまず私の身を綺麗にした。
ごしごしと洗われた後、元就が私を見て笑う。
「磨けば綺麗になる」
まだ毛先から雫が垂れる頭を撫でられて、つい目を閉じてしまう。
濡れた毛が体温を奪うから、体温の高い子供の手の温もりは心地良いのだ。
触れる温もりが消えたので瞼を開けると、日光は眼球に焼けるような刺激を与えてくる。
どうしてこうも暗闇から光の場へ出ると眼球が痛みを発するのだろう。
「我の部屋へ案内しよう」
この広さでは貴方の部屋を見つけるのも一苦労、だからその申し出は嬉しいです。
前を歩く元就について建物内を歩き回る。
こうも広いと生活面で苦労することもあるに違いない。
ここに来て数日、私は未だに屋敷内を熟知していないので稀に迷う。
但し元就の部屋にだけは真っ直ぐに行けるのだ。今現在出来る唯一の自慢である。
元就は私が傍に存在しないのがそんなに悲しいのか、私の首に首飾りつけた。
それには鈴がついていて、私が動く度に高く澄んだ音が鳴って、とても耳障りだ。
寝る時だけは元就が外してくれるから眠れるが、一人で陽当たりの良い処でうたた寝をしようものなら動く度に澄んだ音で起こされるからたまったものではない。
外せと抗議をしたかったが、元就が鈴の音に聴き入っているので言葉を飲み込んだ。
「これで、多少遠くに居ても存在を感じられる」
部屋には私と元就だけで、うわ言のように呟かれた台詞に腹に貯めていた言葉は完全に消失してしまった。
その代わり、自責の念がにょきにょきと現れる。
いつも好き勝手動き回っていたから、寂しい思いをさせてしまったのですね。
これからはもう少し元就のことを考えて行動します。
「ナマエ」
名前を呼ばれる。
ナマエはここに来てからの私の名前。
元就が、何も持たない私に与えてくれた最初の贈り物。
近づいて座ると、元就は頭を撫でてきた。
そんなに私の頭の形が好きなのだろうか、元就は暇さえあれば頭を撫でてくる。
耳をつまんで引っ張られた。
それが好きではないからいつも顔を左右に振ってやり過ごしていたけれど、今回ばかりは黙って耳を引っ張られておく。
それもやはり、悲しませたと云う罪悪感と後ろめたさが原因だろう。
「ナマエ、そろそろ腹が減っただろう」
肯定の意味を込めて返事をした。
「ニャー」
07/05/18
- 16 -
[
*前
] | [
次#
]
←
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -