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団子と饅頭
団子と饅頭
「元就様、おはよう御座います」
自室の窓から昇陽を拝んでいると下の方から声がして、顔を出して見下げるとそこにナマエが居た。
ナマエは庭の掃き掃除をしているのだろう、箒を手に持ってこちらを見上げている。
「本日も晴天ですね」
「うむ」
侍女としてやって来たナマエは周りの者と違い、用が無いにも関わらず我に声をかけてくる。
良い天気だとか、どこの店の饅頭が美味いだとか、毎日毎日厭きもせずに話しかけてくるのだ。
周りの侍女がナマエに対し、我に話しかけるなと注意をしているのを耳にしたことがある。
それでも彼女は今も変わらずに話しかけてくる。
「お昼過ぎに元就様のお部屋に伺ってもよろしいですか?」
「何用だ」
「それはお楽しみとして取っておいて下さい」
満面の笑みでそう言ってのけると、ナマエは箒を動かし始めた。
我も部屋に身体を引っ込め、あいつのことだからまた饅頭など甘い物を持ってやってくるに違いないと読んだ。
案の定、昼過ぎに饅頭と湯飲みを乗せたお盆を持ってナマエは現れた。
「ここのお饅頭も美味しいんですよ」
仕事をサボっているのではなかろうなと問いたくなるぐらい、ナマエは甘味処を開拓していっている。
尤も彼女はやる事はしっかりやっているので、暇を見つけては町に行っているだけなのだろうが。
現に今も
「では、私は失礼します」
そう言ってさっさと持ち場に戻ってしまうのだ。
いつもの事ながら、届けるだけ届けて去るとは慌しい奴だ。
少しぬるめに淹れられた茶を啜り、饅頭を食べる。
似た味覚なのかは知らないが、ナマエが選ぶ菓子はどれも我の口に合う。
茶を飲みながら、いつもあいつは茶菓子を我に届けてくるが金はどうしているのだろうかと思った。
貢がれているようで少し嫌になる。
貰ってばかりなのも癪に障るので、服装を変えて城下町に向かった。
ナマエが言っていた店の一つを思い出し、近くに居た民に尋ねて店を探す。
見つけた店屋には人が群がっていた。
寄る気が失せるその光景。
しかし目的を果たさなければ何の為にここまで来たのか分からない。
仕方ない、と嫌がる自分を抑え込み、並んで団子を買う。
あいつは毎回こんな店に寄ってまで団子や饅頭を買っているのだろうか。
そこまでして食べたいだろうか。
我からすれば、あるから食べるのであって、こんな目にあってまで食べたいとはとても思えない。
並ぶだけで疲れた。
とにかく帰ろう。
団子の入った包みを持って城に帰り、侍女に茶を二つ持ってくる事と、ナマエを呼んでくるように伝える。
侍女は視線を床に向けながら、はいとだけ返事をして早足に去っていった。
自室で待っていると、どたどたと足音が聞えてくる。
音は近くに来ると急に静かに歩き出した。
紛れもない、ナマエだ。
「元就様、お茶をお持ちしました」
走ってきたことを悟られないようにだろう、息切れ一つせず襖を開けて部屋に入ってくるが、跳ねている前髪がそれを裏切っている。
「そこに座れ」
「はい」
お茶を置いてから慌てて示したところに正座して、伺うように我を見ながら口を開いた。
「あの、何の御用でしょうか?」
何もした覚えが無い者が急に呼び出された時に使うには最もな台詞。
今頃心の中では何かやっただろうかと慌てているに違いない。
「いつも貰ってばかりなのは嫌なのでな」
先ほど買ってきた包みを渡せば、驚いた顔をされた。
「え、あの、元就様」
「どうした、せっかく買ってきたのだ。食べろ」
動揺して包みと我を何度も交互に見ている姿に、流石に憐れみを覚えた。
相手の手の中にある包みを勝手に開けて、串団子を一つ持つ。
「食え」
視線は団子に注がれているが、顎を引き、口を一文字に閉めている。
一度目を閉じたナマエは頂きますと言い、串団子を受け取ると口に団子を招き入れた。
その顔はとても美味しい物を食べる顔、ではなく、喉がくだすのを拒む不味い物を食べているような顔だ。
「……」
柄にも無いことをしたからナマエは緊張して味も理解出来ていないのだろうか。
それにしても、本当に頑張って食べている。
見ているこっちが気の毒になるようなその食べっぷりに、もう良いと告げた。
「そんなに食べたくないなら食べるな」
「す、済みません」
重い空気が周りを包めば、お互い動けなくなる。
そうなる前にナマエを部屋から追い出そうと思った矢先、土下座をされた。
「済みませんでした!今お腹の調子が悪くって味覚もおかしいんです!」
「それはおかしいだろう、何で腹痛から味覚までやられておるのだ」
「分かりません!お腹痛いんで失礼します!」
立ち上がって部屋から脱兎の如く逃げ出すナマエに、ただ訳が分からないという気持ちしか湧かなかった。
〜戯言〜
元就=甘党
ナマエさん=not甘党
好きな人が甘党だから、自分は食べられなくても買いに行くナマエさんのお話。
07/05/12
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