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act.12
馬鹿だよ……
離別
「みんな、ゴメンね」
私は五人に背を向け彼に近づく。
後ろからは4人の引き止める声。
振り返った視界の中でフッチは私に小さく手を振っていた。小さな炎の英雄、ヒューゴは怒鳴るような声で私を責める。
前を向いた私を黙って彼は見ている。
「……久しぶりに素顔見ました」
「それが挨拶?相変わらずだね。僕がこちらに来るなと言ったら、どうするつもりなの?」
「勝手に私が彼らと戦うことになりますね。あなたに駄目だと言われても、私は私の好き勝手にしますから」
「君らしいよ……言っとくけど、あいつ等に手加減はしないから」
「分かってますよ。私はルックについていきます。例え行く先が地獄であろうともね」
彼が手を差し出してくるので、私は迷わずその手を掴んだ。
彼を横にして棍を構えるなんて、初の試みだ。
私は味方だった人たちと戦うのだが、そこで手加減をしてはいけない。
仲間だったからこそ彼らの強さを知っている。
ルックの足手まといにならないように、頑張らなくては。
フッチと刃を交じわすのは、昔ビクトールとやっていた稽古と似ていて懐かしく思える。
互いに本物の武器を持っているのに、怖いとは思わなかった。
「ミョウジさんはこれで良いんだよね?」
彼の最後の問いかけ。
私は実力派の人をみんな相手にしていて、さすがに限界が近づいてきていた。
彼を守るため、前線を切った。それに後悔はない。
「私は私の好きなように生きてますよ。昔も、今も」
笑って言う。
私たちの敗北だった。
最初から負け戦なのは重々承知だ。
でも後悔はない。
私の足は重くてもう、立っているのも不思議だった。
ルックは、もう立つこともままならない様子。
突然大地が揺れた。
あれだけ魔力のぶつかり合いがあったのだから当たり前だろう。
ここが崩れる時間が来たのだ。
「もうここは崩れるから、逃げてください」
私はルックの前に立って、炎の英雄と対峙する。
「ミョウジさんも逃げましょうよ!どうして!どうしてそんな奴を庇うんだっ!!」
彼は私の目を見て言う。
フッチが止めに入るが、彼はフッチを振り払ってなおも私のことを気遣ってくれる。
「ヒューゴ君、裏切り者を許してはいけないよ。さよならだ」
私は五人に今まで使わずに温存していた魔力をすべて使い、安全な地へテレポートをさせた。
気力で立っていた私の膝は折れる。
振り向くと、座り込んだルック。
揺れた大地に、また一人こちらに向かってくる人が見えた。
セラだ。
「セラちゃん、こっちに来てはいけないよ、早く逃げた方が良い。まだセラちゃんは魔力が残っているはずだから」
セラは首を横に振った。そして私たちの近くに来る。
私は残念な気持ちになった。
「ルック、終わったね」
「そうだね……終わったよ」
「満足?」
「……っ」
ルックが倒れそうになるので私は抱え込むが、私もよほど疲れているのか、彼を受け止めきれずに後ろに手をつく。
「膝を貸して」
「良いよ」
彼は私の膝を枕にして仰向けに寝転がる。地響きと共に神殿が崩れだした。
恐怖はない。
私が死んで悲しむ人も居ないし、ルックと共に逝けるのが私の選んだ道。
それが叶って本望だ。
彼の手が私の頬に触れる。
「ミョウジ……」
「初めて名前を呼んでくれたね」
「ようやく呼べた。ようやく気持ちを伝えられた。ミョウジ……目、閉じて」
「……?うん」
目を閉じると、頬に触れた手に導かれて上体を前に倒した。
暖かい物に触れる。
幸せだった。
十五年目で初恋が実るなんて誰が知ってるだろうか。
別に誰も知らなくて良い。
私とルックとセラ。三人で幸せになろう?
現実で認められない私たちはあの世というところで幸せになろうね。
ルックは体を無理に起こして、私を腕の中におさめた。
腕の温もりに酔いそうだ。
「セラ」
「……はい」
セラは安定した足取りでこちらに来る。
ルックがセラの手を掴み、私から体を離して見つめあった。
私の手を掴んだルックと、また唇が触れた。
屋根が崩れる。
スローモーションで降ってくるようだ。
離れたルックの唇が動いて言葉を紡ぐ。
「サヨナラ」
「え?」
手に掴んでいた暖かさが突然消え、私は神殿を外から見ることの出来る場所の芝生に座っていた。
風が吹く。
「え?」
何?これ。
「嫌っ!!」
なんで?何でっ?
何で一緒に逝かせてくれないの?
「ルック!」
まだ生きてるかもしれない。
今私が行けば一緒に死ねる。
せめて同じ処で死にたい!
「セラちゃん離してっ!離してよ!!」
ルックの処に、行かせてよ。
「離しません!ルック様に、何があっても貴女をお守りするように言われているのです!」
そんなの聞いてない。
知らない。
「何で……嫌だよっあんまりだ」
ルック、君はなんてワガママなんだ。
私の意志なんて無視かい?本当に君は、馬鹿だよ。
その場に座り込む。
セラは私の背中にしがみついたまましゃくりをあげて泣いていた。
優しい、優しい風が吹いた。
私の頭はなにも考えられなかった。
なにもかも、真っ白だ。
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