その他夢小説 | ナノ
act.11
心遣い
新しく戦場の地となった場所に来たのはルックと別れて間も無くのこと。
宿星でもない私が城の中にある一室を無料で借りることが出来たのはフッチやビッキーのような顔見知りの人が口添えしてくれたおかげだろう。
有り難いものだ。
私は今主力として扱われているため様々なものと戦っているのだが、どれもこれも私には易い敵だった。
「ミョウジさん、更に強くなったよね」
昼食時、遠征している私たちは近場の店で食べている。
私の前に座ったフッチは笑って言った。
「まだまだですよ」
「え?だって15年前から強かったじゃないか」
「15年前は主力でもなんでもなかったですよ」
「それが不思議だったんだ。あの時なんかリーダーに嫌われるような事したの?」
嫌われることはしていないが、泣き顔を見たし縋られたことはありますよ。
勿論、言わないでおく。
男が泣き顔を見られるのは女の私が泣き顔を見られることよりも恥ずかしいことだろうから、気まずくてあれからずっと私は避けられていた。
今では懐かしい思い出だ。
「15年かぁ……でも、ミョウジさんはあまり変わってないね」
「そんな簡単に人は変わりませんよ。フッチさんだってあまり変わって無いじゃないですか」
「僕はけっこう変わったと思うけど。まぁ、ミョウジさんは相変わらずで安心した」
「進歩のない私に安心するんですか」
私が笑う。
おかしな事を言う人だ。
彼は少し肩を落とす。
「別に今はまだ良いけどね」
彼が小さく呟いたので、私は一瞬箸が止まった。
彼らに度々会うことがあった。
セラが辛そうな顔をするのを見るのは辛かった。
仮面に隠れた彼がどんな表情をしているか知れないが、優しい彼が人を傷つける行為をしているのだからきっと辛そうにしてる。
私は常に表情を変えることはない。
だって私が変えたら私の知り合い、顔見知りだと気付かれてしまう。だから心を押し殺す。
けれども、それも次第に限界になる。
今まで押し殺してきた気持ちが私の中で暴れ狂う。
私は一人、ベットに俯せになって気持ちを落ち着かせる。
分かってる。
彼らを前にして表情を変えないのは出来る。ただ、ササライという、あの人を前にすると、私は発狂しそうになる。
何で彼と同じ生まれの人が、何にも苦しまずにのうのうと生活してるんだ。
悔しくて、悔しくて。
無知の彼が悪いんじゃないのは分かってるのに、憎くて仕方ない。
そんな自分がよけいに嫌だ。
すべてを消したくなる。
誰か私を消してくれ。
もうすぐ最終戦。
ようやく私の願いが叶うのだから、まだ生きなくてはなのに、どうしようもなく消えたくなる。
沈んだ思考回路が現実に戻ったのは、ノック音でだった。
ドアノブを回し開いた先にはフッチが立っていた。
「夜中にどうなさったんですか?夜這いですか?」
「そんなことしにきたんじゃないよ……昔約束したじゃないか、竜に乗せるって」
懐かしいな。
昔の別れの時の最後の会話だ。私は忘れていたのではないが、彼にブライトに乗せてくれと言うのも図々しいので言わなかった。
それを相手も覚えていて、しかも誘ってくれるのは嬉しい。
「良いんですか?」
「もちろん。行こう」
手を捕まれる。
城から出て、大きくなったブライトに頬を嘗められた。私が頭を撫でれば相変わらずすり寄ってくる。
「相変わらず好かれてるね」
「嬉しい限りです」
ブライトの背に乗る。私の後ろにフッチが座り、手綱を持つ。
ブライトが飛ぶと、空気圧により私は彼にもたれ掛かった。
とても気持ちよかった。
心の中まで風が入ってきてすべてが洗い流される感覚。
私は心から子供になったようにはしゃいだ。
「凄いよフッチさん!気持ち良い〜」
月が近づいて、地上が遠のく。
「下を見てごらん」
私は言われたとおり何も怖がらず下を見た。
「……凄い」
「地上の星だよ」
空よりも綺麗だと思った。
点々と灯る民家の明かり。人があそこで生活していて、笑っている。
星なんかよりもずっと暖かく、綺麗だ。
「僕たちはこれを守るために戦っているんだ」
私の身体は一変して固くなる。
「ねぇ、僕の気持ちに気付いてるかな」
「……はい」
15年前から私に好意を持ってくれているフッチ。でも私はその気持ちには答えられない。
私の心はある人にしか向いていないから。
「……済みません。私は」
「ルック君、でしょ?」
「……よく知ってますね」
「そりゃあ好きな子だよ?誰を好きかなんて表情や視線の先を見てれば分かるよ」
「……」
「ねぇ、次の戦いは彼につく?」
私は口ごもった。
「今頷いたら、ここから落とします?」
「心外だなぁ。殺したりしないよ。ミョウジさんは自分の好きなように生きるんだろ?」
「はい」
「じゃあ僕らにそれを怒る権利も、止める権利もないよ。それにそのほうがミョウジさんらしい」
「……大人ですね」
「大人だよ」
「もうすぐ三十路ですもんね」
「言わないでよそれ」
互いに笑った。
「じゃあ地上の星よりも彼を選ぶんだね」
「……はい。でももう少しだけ見させてもらえませんか?」
「もちろんだよ」
瞬きを忘れて見入っていた私の頬を、水が伝う。
「みんな、私を怒りますかね」
「君の選んだ道を怒ったりしないよ。みんな君が好きだから」
私もみんな好きです。
それだけ言うと地上の星も、空の星も、なにもかも滲んでしまった。
「有り難うございました」
「どういたしまして」
地に足を着いたら、急な重力感によろけてしまう。
それを見て私を支えたフッチは笑っていた。
私は恥ずかしくてすぐに立ち、礼を言って逃げるようにその場を去ろうとした。
後ろにかかる声。
「もし彼に嫌気が指したら僕の処に来なよ」
私は笑った。
「有り難う。気が向いたらそうしますよ」
明日には敵になる私に気を使う彼に、素敵な女性が現れることを願った。
- 11 -
[
*前
] | [
次#
]
←
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -