デスノ 君と私は足してゼロ | ナノ
30万企画:涸轍鮒魚
気随気儘の続編。
限りなく下品です。
釜底抽薪を読んでからの方が話は読みやすいかと思います。
私が浴室にいないのにシャワーの音が響く浴室。どうしてこうなった感が抜けないが、もうここまできたら腹を括るしかないだろう。私はクローゼットから室内着ようにと買っておいたダボダボのロングティーシャツと、ゆったりとしたジャージのズボンを引っ張り出した。
私はBの服が綺麗だとは思っていない。あいつは野良猫よろしくどこでも這い蹲るわ寝転がるわ血を浴びるわするので、基本的に汚いという印象だ。
だから部屋に入って早々にベッドへ寝転がられたのは大変不本意であるしヤベェ汚ねぇ、と思った訳だけれど、まぁシーツを洗えば良いか、となった訳である。
なので、だ。風呂上がりに好き勝手動き回るだろうと予測されるBには来た時の服装のまま家を徘徊されるなんてたまったものではないのだ。つまり服を着替えさせなければいけない。あいつ体が薄っぺらいし私よりも尻の肉もない。足だって多分枯れ木のようなものだ。丈は足りないだろうけれど、そんなのは構わない。
君
と
私
は足して
ゼロ
涸轍鮒魚
「B、入るよ」
シャワーの音とびしゃびしゃと水が跳ねる音がしている浴室へと続く脱衣所の扉を開ければ、案の定Bは浴室にいるので脱衣所にはBが脱ぎ捨てた萌え袖の上着とジーンズ、それからパンツと体を拭くために持っていったタオルがあった。
「なに?」
「うおっ、出てくんなよ!」
シャワーは出したままにすりガラスの扉がガチャリと開く。流石に全裸フルオープンで出てくるのではなく、ひょこりと顔を出したBの髪はいつものようにボサボサで跳ねまくっているのではなく、濡れて重力に沿ってべったりと頭蓋骨に張り付いていた。
肌が青白いことも相まって、こうやって見るとこいつ本当にガリガリだな。頭蓋骨に眼球がはまっているように見えるよ。
「服置いておくから、こっちに着替えろって言いたかっただけだよ」
「何で」
「Bが汚いからだよ」
「今風呂入ってるんですけどぉ?」
「本体が綺麗になっても身に付ける物が汚いって言ってんだよ。どこで何してるか分かんないし」
脱ぎ捨てられたトランクスを見て、女物の下着なら貸せるよ、と言うとお前変態だなぁとしみじみと言われる。そこは冗談で返せよ。
服を置いてさっさと脱衣所を出る。おおよそBは私が銃を奪いに脱衣所に入ったと思って顔を覗かせたのだろう。銃を盗んだところであいつの異常に高い身体能力を知っているから、どうせ発砲するつもりがない私は勝てっこないのだ。
だから最初から銃は盗まない。盗んだ結果痛い目見ると分かっているのに、わざわざ痛い目を見るために盗む馬鹿は世の中にいない……マゾならありえるだろうけれどね。私はマゾじゃないし。
私もさっさとルームウェアに着替えて、テレビのチャンネルを変えてぼんやりと過ごす。嗚呼私が欲しかったのはこの時間だよ!!シャワー音さえなければ、この家の中に私一人であれば本当に至福の時間だったのに!
んーっと伸びをして、ベッドに横になる。Bが何を思ってこの家に居座ろうとしているのかは分からないけれど、否、おおよそ嫌がらせだろう。帰れ帰れと言われたから癪に障って帰るのをやめた、とかに違いない。あいつの変なところで発動する天邪鬼な部分はどうにかして欲しいよ、本当に。
シャワー音が止んで、脱衣所が少し騒がしくなる。
「おいこれシャリのか?」
扉一枚隔てた先で問われる言葉。何を当たり前のことを言っているのか。私の部屋に服を置いて行く程親しい人間はいない。と言うより他人を家まで招き入れるなんて事をした覚えはない。どうして自分の貴重品全てが揃っている家に、他人を招き入れられるのか。私にはさっぱり分からないよ。
「私以外の服が私の家にあったら、それはそれで怖いね」
決まりきったことを聞くな、と言う切り返しではなく、小馬鹿にした口調で言ってやればじゃあお前のか。ウエストガバガバだぞ。と言われてイラっときたのは仕方ない。多分誰だってイラっとくるはずだ。
「Bがガリヒョロなだけだよ」
「認めろよ、太ったんだろ」
ガチャリと扉が開いて、ズボンのポケットに銃を入れた状態でBは出てくる。携帯電話みたいな扱いを受けている銃は何なのか、安全ロックはちゃんとしているのか問いたくなるね。
ズボンのウエストを絞らずに履いているからパンツまで一緒に下がっているのだろう、臀部の骨の出っ張りが分かるくらいまでずり下がっている。腰まわりはそのままにBは髪をガシガシと乱雑に拭いていた。化粧が落ちた顔はそれでも隈があって、どことなくLと似ている。言ったら面倒なことになるだろうから言わないけど。
「太ってないよ。そのズボンは中に紐が入ってるから、それで調節するんだよ」
「トイレ行くたびにずり下げねぇと行けないズボンで、腰紐結ぶって最悪の構造だな」
男の服の股間周りがどんなのかなんて考えたことはなかったけれど、確かに言われてみたら女のルームウェアはトイレに行った時にスポンと脱げる状態のウエストゴム、もしくはウエストに紐の作りが多い。
対する男はどうなのだろう。やはりチャックが必須項目なのだろうか。全くどうでもいい事を考えながら、導き出した答えは、
「それウエストのゴムがもう死んでるからだよ」
ゴムを交換するのが面倒だったから放置して、けれどまた着るだろうとタンスの肥やしにしていたズボンなのだ。
Bは捨てるやつを着せるなよ、と至極真っ当な意見を口にしたけれど、そんなことは知らない。嫌なら自宅に帰りなよ。
「じゃあ私風呂入ってくるわ。適当に飲み物飲んでいいから」
じゃあね、と下着とタオルを持って脱衣所に向かう。
あいつが私相手に家を漁るとは思わないけれどーーこれは信頼関係ではなく、漁るのならば煩い私が居る時ではなく、外出中に勝手に忍び込んで漁ると思っているからであるーー相手は何を隠そう変態のBなので、早く出るに限る。
手早く化粧を落として、シャンプー、コンディショナー、ボディーソープと体の定められた部分に塗っては流していく。いつもならばシャワーも熱めで芯まで温めるのだけれど、今日は手早く済ませたいからとぬるめで一気に流してすぐに脱衣所に出る。
リビングがやたら静かなのが気になるけれど、そればBが暴れていないと言う証拠だと良い意味に捉えておこう。これでここから出たら家探しされた痕跡だけ残っていました。となったら笑えないけどね。
髪の脱水もタオルでそこそこに済ませて、肩にタオルをかけたままに脱衣所を出る。
ひょろ長い存在が見当たらなくて部屋を見回すと、人様のベッドに沈んで一体化している姿がまた見えた。
「そこは私の寝る場所だってば」
「お客様に床で寝ろっていうのか?」
銃持っていた男がよく言うよ。こんなか弱い乙女に銃を突きつけて家に入ってきたのは何処のどいつだ。
冷蔵庫を開けて飲み物を取る。あんなぬるま湯で、しかも短時間だったから喉は渇いていないけれど、風呂上がりは何か飲むのが習慣化しているからいつも通り、水分を口に含む。
冷たい飲み物が食道を通って胃に流れ落ちる様を感じて一息。はぁ、スッキリした。
「Bは客じゃないでしょ。押し入りだよ」
それだけ告げて、台所エリアから抜けて部屋に入る。Bはうっすら開けていた瞳をカッと見開いて、ギョロリと私を見てきた。相変わらずとても大きな瞳ですねぇ。零れ落ちそうで気持ち悪いよ。
「押し入りがベッドで横になるかよ」
「今なってるね」
Bがガバリと起き上がって、椅子に腰掛けてパソコンをやろうとしている私に近づいて来る。
何?私がパソコンやってるからって自分もパソコンしたくなったの?人が持っている物を奪いたくなるって、どんなジャイアニズムだよ。
「押し入りっていうのは」
椅子の背もたれを掴まれておおっと声が出る。キャスター付きの椅子なので、Bが引っ張れば私を乗せた椅子も勝手に下がってマウスから手が離れた。何がしたいのさ。
「危ないって」
「バァーカ。押し入られてたらもっと危ねぇよ」
椅子の向きを変えられて、押される。うわっという声を出した後、ベッドの淵にぶつかった椅子は物理法則から力の向きが逆向きになって、またバックする。が、私の身体はベッドに衝突しておらず、そのままの力の向きなので思い切りベッドに放り出される形になって、ダイブした。
「ぐっ、いってぇ〜」
顎から落ちたせいで脳にも振動が来たのか視界がグラグラする。それでも頭は考えることをやめなくて、これ舌を出してたら噛み千切っていたなぁと他人事のように考えた。
危なすぎるだろ、B。
「ちょっとB。私が舌を噛んでたらどうするつもりなのさ」
「ハウスでワーストだった賢い賢いシャリちゃんなら、受身が取れねぇほどノロマではないだろ?」
ヒャヒャ、と笑う愉快そうな声。こいつ、人を馬鹿にして楽しんでいるな。変態に馬鹿にされるのはとても不愉快だ。でもベッドにダイブ出来たのは良いかもしれない。このままここから動かなければ、ベッドは私の物になるのだ。
生憎客用の寝具など取り揃えているはずもない我が家だ。Bは床で寝ていれば良い。
「やっぱお前馬鹿だ」
Bはベッドに埋もれている私に対して馬鹿呼ばわり。お前は私を馬鹿にし過ぎだ。
確かにBは突出して殺人や犯罪に関しては特に才能を発揮するけれど、日常を生きるにおいてその能力は不要で、私が持つ能力というか才能こそが重要なのだ。私は一般社会において使える資格を多く保有しているから、アメリカではリクルートに困る事もない。ワイミーズの中では愚か者扱いされた私が一番普通に、他のアルファベットのように死ぬ事もなく生きている。
そんな私が馬鹿なはずないだろう。
仰向けになってBを見ると、愉快と言うかのような左右非対称の笑み。この笑みを浮かべている時はロクなことがない。
そう分かっている分、私の顔は思い切り嫌な顔をしたことだろう。対称的にBは更に口角を上げて、笑みを深く刻んだ。
「何?」
「自分で考えろよ」
上体を起こしてベッドに座る格好になれば、Bは私の頭を掴んでくる。目元から頭頂部まで、まるでゴーグル付きのヘルメットのような覆い方だ。
「ちょっ!B!」
「無用心だな」
ぐっと力を入れられて、ベッドに頭を叩きつけられる。
スプリングに毛布、掛け布団とあったからそこまで衝撃はなくボフン、と沈んだ感じではあるけれど、それでも上から押し付けてくる手がギチギチと頭蓋骨を圧迫してくるから痛いったらない。
「いい加減にっ」
頭を押さえてくる腕を掴んで、爪を立てる。爪はいつも切っているから長くないしそんなに相手の皮膚を抉ることは出来ないけれど、それでも少しは効果があるのかいてぇ、という小さな声。こっちのほうが余程痛いよ!さっさと離せ馬鹿野郎!
「もっと抵抗して良いぜ」
グッと私の股間に押し付けられる何か。硬いし、時間が経つとじんわり冷たさが伝わってくる。何だ?と首を傾げるより早くそれが何か分かる。
銃だ。
「下から撃ったら、頭まで球は届くのかな?」
「知らねぇよ!」
本当に、止めろ。ここで人生終了、しかも股間から頭に向けて球を撃たれるってどういう死因だよ。痴情の縺れを連想されそうで絶対に嫌だ。死んで解剖されるとき、全裸にされるのはまぁ良い、ただ股間から解剖されて球が見つかるまで上に上にとメスが私を切り刻むなんて勘弁願いたいね。
それは私ではなくただの死体だからどうでも良いとも思うけれど、やっぱり嫌なものは嫌なのだ。
「キャハッハハハハハッ!お前の中、ぐっちゃぐちゃにした方が楽しいよなぁ!散弾銃の方が良いなぁ。そう思わない?なぁシャリ」
「ふざけろ、B。テメェそんな事してみろ。絶対に殺してやるからな」
「何だ?死なないつもり?やっぱり死なないって自信あるのか?」
やっぱりって何だよ。知らねぇよ。ただ下から撃てば多分膀胱や子宮、腸は傷が付いてロクに機能しなくなるかもしれないけれど、心臓までは届かないと思う。撃たれる部分によってはストーマを使う事になるかもしれないけれど、それでも私は生き延びるだろう。
「ま、良いか」
何が良いんだよ!全然良くないよ!馬鹿じゃねぇの?と口汚く罵れば、相手はあーはいはい、と言ってまた私の頭を掴む手に力を込める。
「ぐっ、」
額を上に引くBの手に沿って、首が仰け反る。
何がしたいんだよ!と言おうとしたところで、首にぬるりとした感覚。
「……は?」
「もうちょっと色っぽい声を出せねーの?」
「いや、何してんのB」
「首舐めてみた」
「いやいやいやいやいや、おかしいでしょ。何でそんな所おい止めろ気持ち悪い!」
また舐められて、ゾッとする。きっとナメクジが肌を伝うのはこういう感覚なのだろう。韓国ではナメクジを顔に這わせて美容ですと宣っていたけれど、こんなのが顔を伝うとか正気ではない。
「ベッドにうつ伏せで尻をこっち向けてたから、誘ってんのかと思ったけど?」
「ただ寝てただけだろ!」
ふざけんな。こんな奴相手に私の貞操の危機が来るなんて思いもしなかった。
「女に免疫がないからって尻向けられただけで盛るな童貞」
「男誘うメス猫みたいなポーズとっておきながら何もされないとかどんだけ知識乏しいんだよ処女」
「あ、童貞を否定しないんいただだだっ!」
やめろマジで頭蓋骨が粉砕する!細い腕のくせに何でこんなに握力があるんだよ!おかしいだろ!
「照れるなよ童貞」
「少しは落ち着けよ処女」
「黙ってBに捧げる純潔はないよ!」
「じゃあ騒いでろ。そのほうが俺もヤりがいがある」
こいつ真性の変態だ。絶対に殺す寸前で勃起してる。そして女を犯してる。そうに違いない。
若しくは屍姦しているかもしれない。洒落にならない。本当に、洒落にならない。
「本当にやめろ」
「やめろって言われて辞める人間いねぇだろ」
「というかBにとって私ってそんなに魅力的ってこと?盛りたくなる程良い女だってこと?」
今までBは私を女として見ていたと思えるようなシーンは何一つなかったはずだけど?そんな気持ち悪い目を向けられていたらすぐに気付くはずだ。性の対象にされていたなんて吐き気しかないよ。
「はあ?何言ってんですかぁ〜?突っ込める穴がありゃ何だって良いんだよ、男は」
「あ、そうなんだ。じゃあ車の排気管に突っ込めば?」
「そういう趣向の奴も世の中いるんだぜ。別の意味でのカーセックスだな」
「クズ過ぎる」
「褒め言葉だ」
ヒャヒャッと笑うBに、どうやったらこいつを殺せるかなと考える頭は非常に冷静だ。緊急時ほど落ち着けるのは、ワイミーズの育て方の賜物かもしれない。
ふぅ、吐息を吐いて体の力を抜く。股間にまだ銃は突き付けられている。こいつにヤられるくらいなら、鉛玉を食らって手術の方が良いかもしれない。
将来的には色々不便だろうが、こいつにヤられました、という心的外傷を受けるのだけは避けたい。何があっても。
爪を立てていた手を放して、自分の股に手を伸ばす。
するとBはすぐさま銃を退かした。
「何をするつもりだ?」
酷く真面目な声。こいつ、本当にどっちが本性なんだよ。
「Bに突っ込まれるくらいなら鉛玉突っ込まれようかなぁと」
「はぁ〜?信じらんねぇ」
脱力した声の後、安っぽいベッドがギジリと鳴って頭の痛みもなくなる。
ようやく見えるようになった視界。天井にある蛍光灯の明かりがそこそこ目に沁みた。
「シャリ相手だとどう頑張っても勃たねぇな」
「へぇ、そもそも出来ないって?不能は大変だねぇ」
「シャリ相手に勃たねぇだけで健康だ」
「穴なら何でも良いと言ってた口がそれ言うんですかぁ〜?」
「それは一般的な男性の意見であって俺ではない。俺にだって選ぶ権利はあるんだぜ?シャリの穴はキツイだけで気持ち良さそうに思えないからな」
それはそれで最高に失礼であるけれど、救われたなら万々歳だ。腑に落ちないし、レディに対して大変失礼な物言いであるけれど。
ふふん、と笑ってやると、相手はつまらなそうに口を尖らせて、私にのしかかってきた。ぐえっというひしゃげた声を出すと、Bはひひひっと笑う。
Bは薄っぺらいけれど、それでも重量ではあるのだ、重いに決まっている。
「おいシャリ、早く鉄のパンツ脱げよ」
「脱いでも良いなと思う相手がいないからね」
「新品は好きだが、面倒な物より慣れて気持ち良い方が俺は良い」
「何でBのために私が誰かとセックスして男を悦ばせる技を身につけないといけないんだよ。そんなに気持ちよくなりたいならそういうお姉さんの巣窟に行ってきたら?はい行ってらっしゃい」
とにかく退け、という意味を含めて相手の肩を押すと、逆に力を入れてのしかかられる。ふざけてるの?
「まー、いっかー」
何かに勝手に納得したらしいBはモゾリと動いた。何だと思って動く頭を見ていると、首にまたねっとりとした物がくっつく。
お前!私相手に勃たないって言ってたのに何してくれてるんだよ!
「良い加減にしろ童貞!」
「キヒヒ、シャリ、処女の癖にキスマーク付けてやがる」
「はあ!?Bが付けたんだろうが!」
多分吸われたのだろう所を触るけれど痛みとかはないし痒みもない。ただ、B曰く鬱血痕はあるのだろう。
しかもさっきの場所は首のやや高い位置、髪で隠しようもない喉側だ。
最悪だ。鬱血痕ってどれくらいで消えるんだろう。コンシーラーとかで隠れるのかな?憂鬱で仕方がないよ。
「ほら、寝るぞ」
「床で寝ろよ」
「はあ?お客様に床で寝ろって言うんですかぁ〜?」
「わざとらしい敬語はやめたら?気持ち悪い」
「じゃあこのベッドで二人で仲良く寝ましょうって言いたいのか?」
「んな訳あるかよ!」
「生理現象で朝勃ちがあるって知ってるか?それともシャリはそれが見たいとか?」
「もうその服あげるから帰ってくんない?」
どうせ捨てるかどうか迷っていた服だし、あげるから帰ってくれ。
Bは起き上がって、帰るのかと目を輝かせたところでパソコンを勝手に立ち上げてネットを始める。
こんな低スペックのパソコン使わずにさっさと帰って自慢の高スペックパソコンを使えば良いのに。
「あのさぁ、帰れよ」
「一泊させるつもりで服貸したんだろ?諦めろよ」
「貞操の危機があると分かったから嫌なんだよ」
「だぁかぁらぁ、シャリでは勃たないって」
「うっかり勃ったからヤりますってなられても嫌なんだよ」
「じゃあ俺が約束してやるよ。BはCには手を出さない。これで良いか?」
「Bの言葉を信じられるほど私は頭のネジがゆるい人間ではないからね」
股もまったく緩くないしな、という言葉を受けて心底こいつ最低だな、と思う。Bほど最低な奴はそういないだろう。
「ほら、かーえーれー!かーえーれー!」
「煩い赤ずきんチャチャのアニメ見るんだから黙ってろ」
「は?アニメ見んの?私寝るんだけど」
「勝手に寝てろよ。ハイオヤスミー」
「イヤホン鞄の中にあるからそれ使ってね」
「音があったら寝れないって言うのか?シャリはそんなに繊細だったかなぁ」
「処女ですから繊細なんですぅ」
そこの鞄、と指差したところからイヤホンは取られることなく、音量はそこそこ大きめで放映される赤ずきんチャチャ。ネットに流出したアニメを見るのは犯罪だぞと言いたくなったけれど、そんな小さな犯罪なんて鼻で笑って吹き飛ばすような相手だ。犯罪のレベルが違いすぎる。言うのはやめよう。
壁側に体を向けて、腕で自分の頭を挟むようにして耳を閉じる。
私は疲れているのだ。すぐに眠れる。
翌朝、私の大事なビーフシチューをまたもや食べて、ついでに苺ジャムをたっぷり塗ったバケットを食べて、それでもBはすぐには帰らずに夜の帳が下りるまで我が家に居座った。何をするでもないくせに、だ。
ちなみにBがお遊び感覚で発砲したせいで、数日以内に家を追い出されたのもここに付け加えておこう。
涸轍鮒魚(こてつのふぎょ)
危機や困難が目の前に差し迫っていること。
神村様
書いてて楽しかった!!もう早く仲良く過ごせよってなってくるくらい距離近いのに恋人にならない謎の二人ですね!
この距離感が、結構好きです。
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