デスノ 君と私は足してゼロ | ナノ
釜底抽薪
ビヨンド相手です。
節電だかなんだか知らんが周囲温度37度って自分の体温より高いのにそんな所で仕事なんて出来るか馬鹿野郎と叫びたい。
いきなり俺の拠点を訪問してきた元アルファベットCで、今はシャリと名乗る女は挨拶も無しにそう言った。
勝手に室内に入ってきて(鍵の締め忘れは認めよう)俺がいつも寝るのに使用しているそこそこお気に入りのソファに深々と座り、剰え飲み物欲しいの一言。
「お前殺されにきたの?」
君
と
私
は足して
ゼロ
釜底抽薪
「んな訳無い。B、飲み物欲しい」
「冷蔵庫はあそこだ。取りに行かないならそこでミイラにでもなれ」
「気の利かない男だ」
「いきなり人の家に上がり込んでくる女に言われたくないな」
シャリは立ち上がって冷蔵庫に向かう。中身を見て、ゲ、という耳に心地よくない声。
「これは無いわー」
「お前は水道水でも飲んでろ」
俺の冷蔵庫にはイチゴジャムとイチゴミルク(1Lパック)しかない。
嫌なら飲むな。そう言えば、シャリはパックの口に自分の口をつけてそのまま飲み始めた。
「躾がなってないな」
「なにせ孤児なもので」
うぇ、甘い。そう言いながら飲む姿に胃の中が不快感を覚えた。
その感情に任せてシャリの背中を軽く蹴れば、イチゴミルクを零す始末。
「げほっ!」
「床拭けよ」
「それ以前に私を拭かなきゃならんでしょ」
「まず床だ」
タオル、と手を出してくるからほらよ、と投げ渡す。
床を拭けと言ったのにシャリは自分を拭いた。
昔からこいつはどうにも俺の意見を聴かない。
他の奴らは馬鹿みたいに従順だったのに。
「お前何なの?」
「社会の駒?平社員?」
的外れな回答。
まぁシャリらしいと言えばらしい。
シャリはCの頃から、俺が望む回答を出すのだ。
「それより聴いてよ」
「その前に床を拭け」
「どうせすぐに出てくんだから床が腐ろうが構わないでしょ」
「自分で壊すのは良いが、人に壊されるのはたまらなく嫌だ」
「はいはい」
もう使わないタオルだと無意識のうちに理解していたのか、シャリはタオルを床に落とすと踏んで、そして床を拭いた。
ああ、こいつらしい。
足を外せば靴底の形に跡がついていて、どこを歩いて汚してきたのかと回答等無い疑問を持った。
「節電だって」
「最初に聞いた」
「汗をかく」
「体温調節の為にな」
「汗で服がまとわりつく不快感がたまらなく嫌だ」
「俺もそれは嫌いだ」
だから買い物は夕暮れだし、散歩は夜中だ。
俺は日中にクーラーの効いた部屋から出ない。
それは俺が自営業だから為せる業であって、会社の駒であるこいつには絶対に出来ない術だ。
「加えて」
付け足される言葉。女は苦々しく言った。
「男が気持ち悪い」
「お前の前にいる俺も男だが」
「Bは男臭くないし、私をそんな目で見ないから良いんだよ」
そんな目、という言葉に嗚呼と納得する。
話の筋道からするに、汗で下着が透けてからかわれたのだろう。
こいつは他人のセクシャリティなら笑って話を聞くが、自分が関与すると嫌悪感しか持たない。
「何て言われた?」
「インナー着てたけど透けるって言われたから厚手のインナーにしたら『見れなくて残念だよいつも楽しみにしていたのに、言わなければ良かった』だって」
吐きはしないがおえ、と吐く真似をしてみせるこいつはとことん女として生きるのが駄目らしい。
そういえばシャリのスカート姿は、ワイミーが着せた時以外見たことが無い。
どれだけ全力なんだ。
そう思うと、笑えた。
「ひゃはっ!」
「何笑ってんの」
「お前が自意識過剰なんだよ。そいつがお前に言ったのは、お前の中にあるだろうと勘違いをした乙女心に対するフォローであって本心じゃない」
相手は俺の話を黙って聞く。
そうそう、お前はそれで良いんだよ。
お前が欲しい言葉を俺が紡いでやる。だから黙って聞いておけ。
「誰もお前に女を見ちゃいない」
「それはそれで気に入らないな」
「牛乳パックをそのまま飲む奴に女らしさなんて無いんだよ」
口では気に入らないだのと反論するくせに表情は明らかに安堵を滲ませている。
(とは云え、こいつはあまり表情が変わらないから、僅かに下がった口元から推測するに、だ。こいつとの付き合いは長いから、表情の僅かな変化で考えが知れる)
シャリ、お前はやっぱり馬鹿だ。
そんな簡単に望む言葉を紡ぐ野郎を信用するなんて、俺からすれば到底考えられない。
俺なら、こちらの心理を読んで望む事を言い懐柔させようとしていると考えるだろう。
「お前、他人の言葉簡単に真に受けるなよ」
「いや今回はセクハラ混じりだったからうげってなったんだよ」
「バーカ」
多分その男が言ったのは本心。
俺が言ったのが嘘。
見抜けないお前はやっぱり馬鹿だ。
「ところでどうやって俺の拠点を見つけた?」
「言わないよ。次の手が無くなる」
「言え」
「いてててでっ!頭蓋骨割れる!私の頭はバスケのボールじゃないっつーの!」
「言え」
「美味しいジャム屋に人相書きを渡したんだよ」
「……」
手に力を加えると、悲鳴が上がった。
釜底抽薪(ふていちゅうしん)
物事を解決するには根本的な対策が必要であるということ。
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