デスノ 君と私は足してゼロ | ナノ
過去話 責任転嫁
水をぶちまけた私を呼び出して、五人の教師が私の処罰について話し合いを始めた。
話し合った結果だけを伝えれば良いのに、わざわざご丁寧に途中経過を聞かせるのは、およそ教師にのみ発言権と決定権があるのだと識らしめるためだろう。
実にくだらない。
最終的に花壇の水やりが私への罰則になった。
最初は手が付けられないから他の施設へ移そうという話題が出たけれど、私がワイミーズハウスの奇異な部分を口外でもしたら困るという事になって、この話題は消えた。
それくらい考えれば分かるだろうのに。
話題に出した教師の程度が知れる。
じょうろを持って、花壇へ行く。
此処の生徒の心の荒れ具合を表現するように、花壇は踏み荒らされてぐちゃぐちゃだった。
私に与えられた罰則は水をやる事であって、花壇を直すというのは仕事じゃない。
私はそのまま、ぐちゃぐちゃの花壇に水を撒いた。
じょうろに水を入れては花壇へ行って、水を撒く。
退屈な作業だ。
「何してんだ、お前」
後ろからかかった声に、じょうろと一緒に振り返る。
水を掛けるつもりで振り返ったのに、相手は後ろに逃げてシャワーをかわした。
「見て分からない?」
「慈善活動?」
ヘラヘラ笑う相手は、思ってもいない発言をする。
罰則としてやっていると分かりながら言うとは、本当に性格が悪いったらないね。
「そうだよ。私は“良い人”なんでね」
鼻で笑ってからそう言ってやれば、Bは笑った。
キャハハ、というB特有の甲高い笑い声は、Bの機嫌が良いか悪いかを教えてくれる判断基準になる。
今は、機嫌が良い。
「Cが慈善活動?有り得ないな」
「事実、してるんだけどね」
「踏み潰された花に?」
「水さえあれば、どうにか生きられるんじゃない?」
「花はCみたいに強くないんだぜ?」
「強くなくちゃ生きられないでしょ。此処で生きるか死ぬかが人生の別れ目だよ」
君
と
私
は足して
ゼロ
責任転嫁
罰として与えられた慈善活動を終えて、じょうろを片付ける。
Bは何を考えているのか、私の後を着いてきた。
「何?」
「Cが撒いた水、俺も浴びたんだぜ」
「運が無かったね。で?それの仕返しでもするつもり?」
Bはキャハハ、と笑った。
口を開けて、甲高い笑い声。
Bの機嫌が最上級に良いのだと、分かる。
「お前に水ぶっかけた奴、誰だ?」
何で水をかけられたと分かったのだろうか。
けれど問うという行為は此処では愚か者がする行為として定着している。
それすら分からないのか、と馬鹿にされるのだ。
問う前に自分で考えるトレーニングだと言っているが、問う人間は思考能力が乏しい人間とされるのが今のワイミーズ。
「お前が水撒いた時、びしょ濡れだったから分かったんだよ。謎は解けたか?C」
私が何を思っていたのか理解したのだろうBは、勝手に答えを提示する。
それはBが、相手を完全に自分より劣った生き物だと認識している合図だ。
下に見られるのは釈然としないけれど、Bと張り合うつもりは毛頭無いから、良いとしよう。
もう名前も忘れたけど、Bと競い合ってた馬鹿は目を抉られて、このアルファベットのクラスから脱落したしね。
それに、変態と競い合うのは変態の仕事だ。
私は変態じゃないから、その立場には立たない。
「聞いてどうするの?」
「気になったから訊いた。それに問題があるか?水の掛け具合からすると、真ん中に集まってたんじゃないか?」
こいつ賢いなぁ、と心の中で思う。
それと同時に、やはり賢い奴って変態が多いんだな、と思った。
人の行動一つ一つから、ここまで結果を紡ぎだせるのか。
次のLはBかな。そんな事を思った。
「そこまで分かってるなら『自分で考えなさい、愚か者』」
私は此処で、問題を問うと言われる名ゼリフを口にした。
Bは、キャハハ、とこれまた笑う。
けれど今度は俯き加減で、口の端が釣り上がっていて、不気味な笑い方。
機嫌を悪くしたのだと分かる。
「C、俺は答えのカードを持ちながら訊ねてるんだ。手札を持たずに問う『愚か者』と一緒にすんな。絞め殺すぞ」
「絞め殺されるのはごめんだね。それに賢くて先生から期待されているBでも、殺人までやったら追放されるんじゃない?」
「その心配は、無い。此処はどこまでも保守的だ。殺人だって隠蔽する」
Bはケタケタ笑う。
馬鹿にされるのが嫌いなB。
相手にするのも厄介だ。
「J、V、Z」
私は三つのアルファベットを口にする。
それはただの文字ではなく、人を示す名。
Bはキャハ、と愉快そうに笑って、私の頭を掴むとグシャグシャに撫で回した。
「お前の脳を見てみたい」
「骨に守られてるよ」
「守る?こんなの、金槌で叩けばあっさり中身を出すぜ」
「じゃあ私はヘルメットを常備装備にしないと」
Bは愉快そうに甲高く笑う。
「お前は長生きだ。俺はどれだけ望んでもお前の脳は見られない」
「それはありがたいね」
「知ってるか?無駄に長生きするのは、凡人の証なんだぜ。英雄は活躍する時間だけしか生きないんだ」
「何でそう言い切れるわけ?」
「凡人は病床に伏せてからも生きようとする。けどな、英雄は役割を終えたって言って生きようとしないんだ」
「……ん?じゃあ私は病床に伏せてから長いって事?」
「さあな、俺は未来の出来事までは知らない」
Bの手が私の頭から漸く離れる。
ああ、痛かった。
「またな、C」
Bは私の相手をするのに飽きたのだろう、さっさと姿を消した。
私はBと一緒にいると、大概悪い事に巻き込まれると経験上分かっているので、暫らく裏庭で時間を潰してから、院に戻った。
その日の夜、VとZが普通に話も出来なくなる程に潰された。
歯を折られて、目を潰されて、精神も崩壊しているのだとか。
「で、C。お前、何をしたんだ」
私は現在職員室。
先生に呼び出されて、詰問中。
「だから、私は何もしてません」
「嘘を吐くな!昨日水をかけられた仕返しに、VとZを襲ったんだろう!」
「じゃあ先生、私がやったという証拠は?」
言えば、先生は悔しげに唇を噛んだ。
結局、私の部屋からは凶器は見つからなかったし、凶器自体が発見される事も無くて、私は夕方に証拠が無いからと解放された。
部屋へと向かう。
犯人は、Bだ。
Bと競うには頭の出来が悪いVとZは、居る価値が無いという事で消したのだ。
Bにとって愚か者は生きる価値が無いという事。
ワイミーズは競争の世界。
脱落者はいらないと、そう暗示しているのだろう。
Jが消されなかったのは、VとZの腰巾着だった事と、頭の出来がBと競うには十分だったから。
それと、Jが水を掛けた仕返しだと、生き証人として発言させるため。
Bにまんまとはめられた。
Bは私に罪を擦り付けて、綺麗に邪魔者を消したのだ。
「C」
肩を叩かれる。
見れば、B。
上機嫌なBが笑顔で私の隣に並ぶ。
Bが人の肩を叩いて鼻歌混じりに人の隣を歩くなんて珍しい。
邪魔な奴を消してすっきりした、という状態だからだろう。
「何?」
「どっかの誰かが、悪を成敗してくれたぜ」
キャハハ、と笑った。
お前が正義か。
まぁ、確かに私としては、邪魔がいなくなってスッキリしたけど。
それに此処は善も悪も無い、花を踏み潰して遊ぶような奴が居る空間だから、気にするまでもないか。
「これでお前を苛める奴は消えたぜ。良かったな」
Bが笑顔で言う。
VとZは病棟へ連れていかれた。
そして、二度と出てこないだろう。
Bは自分が犯人だと言われないように、しっかりと二人の心を恐怖で蝕んだのだから。
「そうだね、良かったよ」
私はBの言葉に、そう返す。
大人は私を疑っている。
けれど、私は無罪なのだから何も証拠は挙がらない。
Bも上手く逃れて捕まらない。
また日常が、始まる。
責任転嫁(せきにんてんか)
責任、罪などをほかのもののせいにしたり、なすりつけたりすること。
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