デスノ 君と私は足してゼロ | ナノ
四月馬鹿
仕事の合間にある昼休みは実に貴重な時間だ。
仕事から一時解放されるし、お腹は満たされるし。
そんな解放感と満腹感に支配されている時に携帯電話が鳴るというのは、いただけない。
しかも着信。
メールなら無視できるのに、着信だ。
急ぎの用だとよく分かる。
着信先は国際電話の番号。
国番号はイギリスだ。
仕方ないか、と通話ボタンを押す。
「Hello」
「C、お久しぶりです。ロジャーです」
「ロジャーさん。どうしました?」
ロジャーからの電話は珍しい。
何の用だろう?
「実は、ワイミーが怪我を崩しまして……」
「ええっ!?」
ワタリさんが?
「大丈夫なんですか!?」
「私の口からは、何とも」
いきなり過ぎて頭がパニックになる。
ワタリさんが怪我?
あのロジャーが電話を寄越してくるのだから、大怪我なのだろう。
今帰らないと、死に目に会えないのかもしれない。
それはマズイ。
育ての親であり私にとっては恩師であるワタリさんの死に目に立ち合えないのは、人生で最大の問題だ。
通話を切って、上司に休暇を申し出る。
育ての親が危険な状態だと伝えれば、休暇が取れるのは大変ありがたい。
君
と
私
は足して
ゼロ
四月馬鹿
飛行機のチケットを買って飛び乗って数時間、エアポートから電車に乗って数時間、着いた先にはワイミーズハウス。
此処に着くまでの間、嫌な考えばかりが浮かんで、頭が痛くなる。
ワタリさんはLと外界を繋ぐ唯一の人だ。
それはつまり、Lの側近とも考えられる。
Lを邪魔だと思う人からすれば目の敵にもなるわけで、そんな人に狙撃されたのかもしれない。
昔、南イタリアのマフィア撲滅を謳った人が飛行機で南イタリアに行った時、飛行機を降りた瞬間狙撃されて殺されたのだ。
ワタリさんもそれをされる可能性は有った訳で。
だから嫌だったんだ。
ワタリさんがLの変わりに世界に姿を現すなんて。
ワタリさんはLの側近として身の回りの事をしたり発明をして、姿を現すのはロジャーがすれば良いのにとずっと思っていた。
それなのに……ああもう、ワタリさんは意識があるのだろうか。
どうか、無事でいて欲しい。
またあの微笑みを向けて欲しい。
チャイムを連打して、通話可能になったら名乗る。
すると開く門。
懐かしいとか、そんな哀愁は一切無い校舎に突進して、向かう先は院長室。
そこにロジャーが居るから、ロジャーを捕まえてワタリさんの所に案内させないと。
「ロジャー!」
勢い良く開けた扉。
そこには、豪華な椅子に座っている情けない表情のロジャー。
そんなロジャーの後ろには、そこに存在しても全然嬉しくない見慣れた姿。
「B」
「よ、馬鹿。久しぶり」
その一言で、もしや、と思う。
今日は4/1。
世に言うエイプリルフール。
で、そんな日に馬鹿って言われるという事は。
「B!ロジャー使って私を騙したの!?」
「ロジャーは嘘を吐いてないぜ。なぁ、ロジャー」
そう言ってBは手に持っていた黒い拳銃をロジャーのこめかみに突き付ける。
ロジャーはますます情けない顔になって、Bに同意する言葉を発した。
見た目も情けないが、中身も情けない。
こんなに度胸が無いロジャーでは、ワタリさんの代わりに世界に姿を見せるなんて事は出来ないね。
「ワタリさんが怪我したって事?どれくらいの怪我?」
この状態から、ワタリさんの怪我は大した事が無いと知れる。
それでも確認してしまうのは親心ならず子供心と云うものだろうか。
「紙で指を切っちまったらしいぜ」
「Bには訊いてないんだけど」
「俺が答えたって同じだろ」
「同じじゃねぇよ。Bは嘘吐き、ロジャーは融通が利かないしユーモアセンスもない人間だから嘘も吐かない」
「だってよ、ロジャー」
Bは笑う。
ロジャーは銃を突き付けられているから笑わない。
何だこの空間は。
シュールな深夜番組みたいだよ。
「銃下ろしてあげなよ。ロジャーの心臓がもたないよ」
「アハハッ!Cがロジャーの心配かよ!」
「私は常識人だから」
「Cが?」
嘘ばかり、と上機嫌の笑いを見せるB。
機嫌の良い笑い方を見せたBは、ロジャーのこめかみから銃を外した。
ロジャーの強ばった表情が緩和したのが目で見ていて分かるから、淋しいものだと思う。
否、私も淋しいものだけどね。
ロジャーはこんなくだらない事を私にはしないと思っていたから、まんまと四月馬鹿になってノコノコ此処までやって来てしまった。
Bの悪ふざけに乗った自分が憎たらしいったらないよ。
Bは何がしたかったのやら。
どうせ暇潰しなんだろうけど。
「ガキ共、入ってきて良いぞ」
「は?」
「やったー!C久しぶり!」
「C!エープリルフール!」
「こんばんは、四月馬鹿のC」
三人三用の挨拶をして現れたのはやんちゃ三人組。
メロは腰に飛び付いてきて、マットは腕に抱きつく。
ニアは手を握ってきて、本当に三人は個性があるなぁと思わずにいられない。
「久しぶり。元気にしてた?」
「してたよ!」
「メロはいつも煩いです」
「ニアはいつも小言をイテデデデ!」
ニアに髪を引っ張られてマットが悲鳴をあげる。
「ニア、マットが禿げるよ」
「禿げて良いと思います」
「否、駄目だから」
しぶしぶとマットの髪を放して、ニアは私の左腕に抱きついた。
マットはベソをかきながら右腕に抱きつく。
腰に抱きついたメロ。
この状態では動けやしない。
「じゃあなC」
「あ、ちょっと、B」
Bはそんな私達を見て、銃を持った手を振りながら退室してしまった。
何なんだ、あいつ。
「なぁC、遊ぼうよ!」
腰にしがみついたメロが抱きつく力を強くして、遊べ遊べとせがんでくる。
「えー、着いたばかりで疲れているんだけど」
「そんな婆臭い事言うなよー」
「マットアウト」
「えー!?」
婆臭いだって?
年が離れたガキンチョに言われると婆扱いされているみたいで心が抉れるったらないね。
「こらこら、あまり子供を苛めてはいけませんよ、C」
ゆったりとした、耳に心地いい声が後ろから聞こえた。
後ろには先程Bが出ていった扉がある。
驚きと期待を一緒くたにして振り返ろうとして、子供三人に身体の自由が奪われているのだと気付く。
全身で振り返りたい気持ちをぐっと抑えて、首だけで振り返る。
そこには年に一回姿が見られたら私が幸せになれるその人が居た。
「ワ……」
「メロ、マット、ニア。少し席を外してもらえるかな?」
「えー……」
にこやかに告げられる言葉に、子供三人は目配せをした。
そして渋々と私から離れて部屋を出ていく。
ああ、やっと身体が自由だ。
「お久しぶりです、ワタリさん」
「お久しぶりですシャリさん。此処ではワイミーですよ」
「あ、ごめんなさい。ワイミーさん。あ、私もCですよ」
「おや、間違えてしまいましたね」
柔らかい笑みを添えて言われる言葉。
ワタリさんは今、わざと間違えてくれたのだろう。
忠告だけでは刺があるから、刺を抜くためにわざと自分も間違えてみせる。
なんて素敵な気配りなのか。
「お身体の具合は如何ですか?怪我は」
「いたって健康ですよ。怪我は、紙で指を切ったくらいです」
「そうですか、良かった」
Lと一緒に居るから、ハードな仕事をしているんじゃないかと考えてしまうのは情けない。
相手を信用していれば、杞憂などしないはずなのに。
否、ワタリさんは年齢的な意味でそろそろハードな仕事はロジャーに任せるなりして、発明に専念すれば良いのだ。
……ロジャーもワタリさんと年が近いからハードな仕事は向かないかもだけど。
「エイプリルフールさん」
淡泊な声で神経逆撫でするような呼び名をされるから、瞑想から現実に戻る。
ワタリさんの後ろにある扉から入ってきたのはBによく似た姿の、けれど狂った感じはない人。
Lだ。
性格が悪いのは変わらずか。
Bは変態。
Lは性格悪い。
この見た目の人に良い奴はいないって事か。
「おや、目の前に珍しい人が居る」
「何ですかその言い方は感情がこもってません。それから人を珍獣みたいに言わないで下さい」
「世界一珍獣でしょ。姿が隠しているんだし」
Lは世界の探偵や悪党が血眼で探しても見つからないのだから、世界一の珍獣で良いと思う。
本当にLという人物が居るのかを疑っている人もいるし、もしかしたらコンピューターや多人数の組織をLと言うのではないかと考えている人もいる。
「Bの嘘に騙されてノコノコ来た哀れなCにこれあげます」
「ぅおっ!投げて寄越すなよ!」
隠し持っていた物をいきなり投げて寄越すL。
見事私の胸元に飛び込んできたそれを受け取る。
見れば、包装紙に包まれた箱。
「何これ」
「土産です」
「有り難く受け取るよ」
どれ、何が入っているのやら。
……待てよ。
今日はエイプリルフールだ。
Lの性格の悪さからして、この中身は土産なんかじゃない。
「返す」
受け取った物をまた投げて返す。
するとLは自分の頭上を越えようとした物を腕を伸ばして受け取った。
「いらないんですか?」
「エイプリルフールには引っ掛からないよ」
「そんなくだらない事、私はしませんよ」
「どうだか。BとL似てるし」
「似てません。あっちが似ようしているだけです」
「そういう所も似てるから」
「人の違いを理解できない程Cはオツムが弱いんですね」
「本当、いちいち癪に触る言い方するね。Bとの違いが欲しいなら見た目変えなよ」
「あっちが真似っこなんですから、私が変える必要ありません」
「じゃあ違いが無いね」
「C、L。顔を会わせて早々喧嘩する程仲が良いのは分かりましたが、そろそろ夕食の時間ですよ」
「「食べます」」
ワタリさんの発言に対する返事がLと重なる。
ワタリさんは穏やかに笑って(この笑顔が見たかったんだ)こちらですよ、と私もLも知り尽くしている院内を案内してくれる。
こういう、たまにとぼけた部分も素敵だ。
Lも流石に食事の場を知ってますよ、という空気を読まない発言はせずにワタリさんに着いてくる。
勿論、私も何も言わずに着いていく。
そういえば、もうすぐ日付が変わる。
日付が変わってから、土産を寄越せとLに言ってみよう。
そうすれば、本当のお土産なら渡してくるし、エイプリルフール用の何かならネタばらしをして土産なんて無いと言うだろう。
四月馬鹿(しがつばか)
エイプリルフール
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