デスノ 君と私は足してゼロ | ナノ
年末年始
年末年始の休暇は実家に帰るってルールは、どこの誰が決めたんだろう。
例年通り、私の通帳にお金が振込まれていた。
それはワイミーズハウスまで帰省するに足りる金額。
その額は私の月給の半分以上で、それを簡単に支給出来てしまうワタリさんはやっぱり一般とは異なるなぁと感心する訳で。
荷造りといっても殆ど物が無い私は、必要最低限の荷物をキャリーバッグに詰める。
中身が殆ど空洞のキャリーバッグを片手に家を出た。
君
と
私
は足して
ゼロ
番外 年末年始
重たいキャリーバッグを引っ張りながら、着いた先はワイミーズハウス。
子供達は私の学生時代のポジションを知っているらしく、チラリと私を見て、目を逸らした。
馬鹿は相手にしないという世界観は、相変わらずのようで。
用意されているだろう部屋に向かっていると、腰に何かが衝突する。
「いって!」
「C、お帰り!」
ボーイソプラノの声。
腰にしがみついた奴を見れば、金色のサラサラヘアが見えた。
頭にポン、と手を置けば、メロは私を見てにこりと笑顔。
「ただいま」
「お帰り!」
「いい子にしてた?」
「勿論」
ニヤリと、ワルガキな笑み。
私が言う『いい子』は、自分の気持ちのままに行動した子を指す。
私にとってワイミーズハウスは、擦り込み教育の場だ。
そんな教育糞くらえ。な私にとって、メロみたいな子供は実に可愛く映る。
「あ、そうだ、C」
「どうした?」
「Bがもう来てるよ」
ゲ、と言う私と対照的に、メロは嬉しそうだ。
メロは何があったのかしらないが、あのBと仲良しだ。
あの変態のどこを見てそう思うのか、以前メロはBをいい人だと言って私の繊細な心を卒倒させた。
いや、私の心の繊細さは良いとして。
メロはBの過去を知らない。
だから親しくしているのだろうか。
いや、あいつの態度を見ていれば変態だと分かって普通は寄り付かない筈だ。
メロの友達なのかパシリなのかいまいちポジションが分からないマットなんて、去年はBを見かけたら走って逃げていた。
きっと今年もその光景は変わらないだろう。
とにかく、メロはBが好きだ。
「なぁC、また話し聞かせてよ」
「はいはい、その前にこの重たい荷物部屋に置いてくるから、温かい部屋で待ってな」
「うん。分かった。待ってるからね!必ず来てね!」
「はいはい」
腰にしがみついていたメロが離れる。
やっぱり子供は体温が高い。
おかげでメロが離れた場所が寒くて仕方ないよ。
例年通り、割り当てられている部屋へと向かっていると、ある一室から人が出てきた。
げんなりする。
Bだ。
「久しぶりだな、C」
「久しぶり、B」
何でワタリさんはこいつにも帰省するようにと連絡を入れるのだろう。
子供たちにとって百害有って一利無しだ。
私にとっても、そうなんだけどね。
「嫌そうな顔するなよ」
「腐りきった縁の相手に会ったらこんな顔するんだよ」
Bはキャハハ、と笑う。
腐れ縁なんて良いものじゃない。
腐りきってヘドロ化している縁の相手に会うのは、全然嬉しくないのだから、嫌な顔一つもする。
「今年はギリギリに来たな」
「Bとは違って会社に雇われてるんでね、自由が利かないんだよ」
「起業すれば良い」
「そんな金は無い」
「俺は無一文から始めたぜ?」
「それはBにお似合いの仕事だから成功して経営できてるんでしょ」
「Cもやれば良いだろ?」
「良いの、私は会社の歯車の一つで。飼われている方が気楽なんだよ」
「ま、Cが起業しても、その頭じゃすぐ倒産だろうしな。うん、やらなくて正解」
正解、と言って私の頭をグシャグシャと撫で回してくる。
お前は何様だ。
悪どい笑みを浮かべながら人の頭を撫でるな。
「そんなCにプレゼントやるよ」
「血生臭いのはごめんだよ」
「今回は血生臭くない」
「不快になるのもごめんだね」
「それは無い。幸せになれる」
「それはBの尺度で?」
「いいや、全国の女性にとってだ」
何だそれは。
Bはキャハッと嬉しそうに笑う。
ついでに、早く部屋に入れと言ってきた。
部屋?
私が年末年始を過ごす部屋に、何をした。
場合によっては部屋を変えていただく事になりかねない。
全国の女性が喜ぶ物。
万人受けする物と考えて良いのだろうか。
それとも、女性に限る、という意味で捉えれば良いのだろうか。
一般女性が欲しい物と考えたら、アクセサリー、金、彼氏、既婚者ならそれにプラス子供だ。
私が受け取って困るのは、彼氏と子供だな。
Bの性格を考えると私を困らせる物を渡してきそうだ。
子供だったら、このままワイミーズの子供にしよう。
「早く入れよ」
「分かってるよ」
えぇい!どうにでもなれ!
勢い良く扉を開ければ、そこには得に変わった様子もなくて、ポカンとする。
「何がプレゼント?」
「お前の眼は節穴か?ああそうか、ろくに機能していないのか、良く分かった。そんな眼は要らないな抉ろう」
「今から探すから、キャリーバッグ室内に入れといて」
「探すような物じゃない。って、これ、重っ」
Bは私のキャリーバッグの重さに驚いたようだった。
中身が女らしく、服ばかりだとでも思っていたのだろう。
残念ながら、そんな軽い物がつまっているわけではない。
「で、プレゼントは見つけたか?」
「んー、ちょっと待って」
「待たない。後10秒で見つけろ。じゃないとこれでお前の頭を潰す」
「人の荷物凶器にしないでよ。んあ?何これ」
本棚に詰まった本。
本と言って思い浮かぶハードブックや文庫ではなく、漫画の単行本がずらりと並んでいる。
1〜13までずらりとある。
背表紙からも分かる、明らかに中古の漫画。
「赤ずきんチャチャ?」
「Cにやるよ」
「これBが好きな漫画じゃん。私要らないし」
「仕事で日本に行ったら、綺麗なのが売ってて大人買いした。だからそれは要らない。26冊持ってるんじゃ、国を渡り歩いてる俺には荷物になるし」
「仕事で移動するのに持ち歩くなよ」
「パンツを持ち歩くのと同じ心理だ」
「それはない。えぇと、つまり、要らないから貰えって事?」
「そうだな」
「要らない」
「バッグの中身を捨てて持って帰れ。中身何が入ってるんだよ」
「ガキンチョ三人へのプレゼント」
Bはキョトンとして、それから爆笑した。
「アハハハハ!Cがガキにプレゼント!?こればかりは予想外だ!アハハハハ!」
それはそうだろう。私だって予想外だ。
今回は気紛れでプレゼントを買った。
たまたま靴屋の前を歩いた時に子供サイズのシューズがあって、それがサッカーシューズだったからワタリさんに連絡を入れてメロの足のサイズを教えてもらった。
それから、メロだけにプレゼントはマットの不憫さが際立つと思って、ゲームを買った。
そこに積み木と電車の模型(路線を走るやつ)が売っていたから、ついでだし、と買った。
おかげでキャリーバッグの中身はギュウギュウ。
空っぽだった頃が懐かしいと思うくらい、重たくなった。
「暗証番号は?」
人のバッグを開ける気満々かよ。
まぁ見られて困る物も無いし、良いか。
暗証番号を伝える。
Bは宝箱を開ける調子でバッグを開けた。
何がそんなに楽しいのか、分からない。いや、分からなくて良い。
バッグを開けたBは、プレゼントが四つあるのに首を傾げた。
「ニアに積み木と模型あげるんだよ」
「不平等だろ」
「あー……」
「俺が模型は貰う」
「はあ!?Bが電車走らせて遊んでるの想像つかないんだけど」
「良いだろ?チャチャあげたんだからよ」
「これ目茶苦茶中古じゃん」
「俺からのプレゼントを悪く言うなよ」
いや、お前も無茶苦茶言うなよ。
「だいたい、私はチャチャを読まない」
「学校にあっても読まなかったもんな」
「一巻は読んだ。セラヴィーが好きだった」
「Cって物腰柔らかな男に弱いよな」
「ワタリさんの事?」
「よく分かってる。セラヴィー好きなら読める。読め」
「はいはい、分かったよ」
「それから、持って帰れよ。捨てるのも許さない」
「何で」
「俺の形見だからだ」
「……は?」
形見?
誰の?
Bの?
「何?体に悪いところあるの?」
「違う」
「イチゴジャムの食べ過ぎで頭おかしくなった?」
「イチゴジャムを馬鹿にするな。お前をイチゴジャム塗れにするぞ」
「ベタベタは嫌だね」
「馬鹿、比喩だ。お前をぐちゃぐちゃにして血塗れにするって事だ」
「分かってるよ」
「分かっているならボケるな」
頭をガシッと捕まれる。
「いででででっ!」
力を入れてくるから、頭蓋骨が悲鳴を上げる。
こいつ、どれだけ握力があるんだ!
痛いんだよ!
「お前は、長生きだな」
そう言って、Bは手を離す。
ああ、痛かった。
髪はぐしゃぐしゃに撫で回されるし、頭は握り潰されそうになるし。
「今寿命が縮んだよ」
「いや、お前の寿命は縮まない」
「何で言い切れんの」
「さあ?何でだろうな?」
Bはキャハッと笑って、私が買ったプレゼントを持って部屋から出ようとした。
「ちょっと、それはニアの」
「良いだろ?」
「いや、良くないし」
「良いんだよ。あぁそうだ」
Bは部屋の扉を開けて出ようとしていた身体を半回転させて、扉を閉めて私と向き合った。
相変わらず、脇にはプレゼントを抱えている。
「俺はもう帰るから」
「え?年末年始居ないの?」
「俺はお前と違って忙しいから」
キャハハッと笑った。
「それと、来年からは来ない」
「毎年来てたくせに?」
「OB・OG部屋に来るのは、来年からはお前一人だな」
「そうなるね」
「じゃあな、シャリ」
「……へ?」
何で私の名前知ってんの?
ポカンとした私の表情を見たBは笑った。
とても楽しそうに笑った。
「何で知って……」
「『自分で考えなさい、愚か者』」
キャハハッと笑うB。
実に嬉しそうで、こちらとしては苦虫を噛み潰した気分だ。
どうせ私の仕事先を突き止めて、名前を調べたのだろう。
探偵業に人権ってのは無いのかね。
「私の名前知ってるなら、Bの名前も教えてよ。片方だけが知っているのはフェアじゃない」
「いつか必ず知る事になるさ」
「は?」
「俺の名前」
Bは笑いながら、部屋を出ていった。
Bの名前を知る事になる?
嘘吐くなよ。
第一、どうやって知るんだ。
人伝に聞くって事?
いや、私とBの間でメッセンジャーやってくれるなんて居ないし。
全然自慢じゃないけど、私は会社にしか話す人はいない。
まぁ、どうせBが適当に誤魔化しただけなんだろうし。
考えるだけ無駄だ。
私はプレゼントを持った。
子供たちにプレゼントをあげなくちゃ。
少し遅れたクリスマスプレゼント。
喜ぶだろうか。
そんな事を思いながら過ごす、2001年の末。
2002年夏、ロサンゼルスBB連続殺人事件が終幕した。
新聞に載ったBeyond=Birthdayの文字。
焼身自殺を図った犯人の顔写真は無い。
私は新聞を閉じて、家を出た。
今頃Bは探偵業に精を出しているか、ソファにゴロゴロして赤ずきんチャチャでも読んでイチゴジャムを食べているんだろうな。
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