デスノ 跡継ぎ 番外 | ナノ
拍手ログ5
カーテンの向こうがパッと輝いた。
続いてゴロゴロと稲妻が空を駆ける音。
あぁ、嫌だ。
何でケイが居ない今日に限って。
毛布を頭までかぶる。
たちまち肺がお湯の湯気を吸い込んだような、息苦しさ。
毛布の中には私の体温で温くなった空気が滞在していて、すぐに顔が火照る。
それでも顔が出せなかった。
稲妻の轟く音が鳴り止まない。
大きな音がするたびに身体が震える。
誰か。
私は目を閉じて、いつもの笑顔を浮かべたケイを脳裏に映した。
誰かが私の頭を撫でる。
慣れた手の動き。
細い指も、頭に触れる力加減も、私が良く知っているもの。
そのまま眠りたい。
けれど、お帰りなさい、を言いたい。
散りばめられてしまった意識をどうにか掻き集めて重たい瞼を上げると、大人の影。
「起こしてしまったね。ゆっくり眠りなさい」
羽毛のような声で私に囁く。
指が髪を梳いてくれる。
暖かい。
柔らかい。
ふわふわする浮遊感。
頭に触れる心地良い手。
「お帰り…なさい……」
言えた充足感と共に、私の意識はとろけてしまった。
目を開ける。
やわらかい日差しが差し込んでいて、白いカーテンがふわりふわりと風に揺れていた。
その手前には、ゆらゆら揺れるゆり籠のような木製の椅子――残念ながら私はまだそれを示す名称を知らない――に体を預けた人。
窓の外を見ているみたいで、こちらから伺えるのはやわらかな曲線を描いた頬のライン。
視覚を満たす世界は私の聴覚も満たした。
ケイが小さな音色で歌を歌っていたのだ。
それはいつだったか、夕焼けに照らされた散歩道を歩いている時に教会から聞こえた賛美歌とよく似ていて。
口の動きにあわせて小さな顎が動く。
私はその動きを黙って見ていた。
歌い終わったケイは、クスクスと笑った。
「私の歌声、どうだった」
気付かれていたのだと示すケイの台詞。
私は今目を閉じれば間に合うだろうかと馬鹿げた思いから、否、条件反射とも言えるだろう動きで目を閉じた。
狸寝入りを決めた私。
返事がないことに気分を害する出もなく、ケイはクスクスと笑う。
うっすらと目を開ける。
彼女はこちらを見ていなかった。
それなのに私が狸寝入りをしたと理解したのは、私が返事をしなかったから。
ケイが立ち上がると、重心が変わった椅子はゆらやらと揺れた。
こちらに近づいてくる。
私は目を閉じた。
ベッドが軋んで、ケイが端に腰掛けたのがわかる。
髪を梳かれた。
「眠り給え」
柔らかな声音。
寝たふりをそのままに歌ってくれるケイ。
気付いても怒らないのは、甘やかしだ。
その優しさが私に甘い甘い蜜を与える。
今起きたふりをして、ケイと言葉を交わしたい。
私は目を開けようとした。
そこは闇色の世界だった。
どういう事だろうか。
起き上がろうとして、私を抱く腕に気付く。
頭だけ振り返ると、そこにはケイの寝顔。
驚いた。
いつも私が起きた時にはケイも起きているから、寝顔を見るのは初めてだったから。
寝返りを打っても起きないだろうか?
私を抱く腕の中でもぞもぞ動くが、ケイは起きない。
よほど仕事で疲れていたのだろう。
向き合って、ケイの寝顔を見る。
穏やかな寝顔だ。
胸に額を寄せる。
とくりとくりと、命の音が心地よい。
そういえば、雷はもう去ったのか、音がしない。
私の耳を満たすのは彼女が作り出す音だけ。
私はまた、夢の淵に足を踏み入れた。
†夢の中でさえ貴方は†
私に変らぬ愛をくれる
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