デスノ 跡継ぎ 番外 | ナノ
6周年記念:ピクニック(前編)
朝は3人で情報番組を見るのが日課になっている。
手を替え品を替え、毎日何かしら楽しい事を配信しては朝から笑顔を絶やさない出演者達。
Lが此処に来るまではこんなバラエティ番組は横目に見る程度だったが、毎日硬いニュースばかりでは若いLの社会一般の動きに対するアンテナが鈍感になってしまうだろう。
大人になれば嫌でもこの子は社会から隔離された世界で生きなければならないのだ。そうなる前に少しでも、一般人の生活を体感して欲しい。
触れ合わずに大人になるのと、触れて体感して大人になるのとは、経験値が大幅に異なるのだから。
テレビでは天気の良い今週末はピクニック日和だと言って、レジャーシートや水筒、ランチボックスの宣伝をしている。
売り場に来ていた親子が嬉しそうに取材を受けていて、きっとこれを見た家族は私達もと思って買い集め、今週末はピクニックに行くのだろう。
愛情に恵まれた家族図が容易に想像出来て、この映像は恵まれた環境で育たなかったLにとって辛いシーンかもしれない。
斜め前にある一人掛けのソファに座っているLを盗み見ると、真っ直ぐにテレビを見ていた。
その表情には悲しみや苦しみは一切見受けられない。それどころか、プレゼントを前にした子供のように目を輝かせている。
成る程。
これを見た家族は今週末に出掛けるだろうと予測したが、それは大当たりのようだ。
現に我が家のお子様は、ピクニックに出かけることを夢見て目を輝かせているのだから。
窓の外は晴天。
今週末も良い天気だが、今日の天気も良好だ。
この番組を見て混み合う週末にピクニックをするのは避けたい。
それに私達は誰一人として週休二日の勤務体制ではないのだから、いつでも出かけられるのだ。
ワタリを見ると、目が合った。
それで同じことを考えていたのだと察する。
それでも、Lに聞こえるように少し大きめな声で意見を口にしよう。
「ワタリ、夏に使ったレジャーシートは残っているかな?」
驚いてこちらを向くLの動作が視界の端に入って、思った以上の反応を貰えたことに笑いたくなるのを堪える。
ワタリも笑いを堪えているのだろう、口元が緩んでいる。
「勿論ですよ。捨てたりしません」
「では、天気が良くて、平日で人も少ない今日、私達はピクニックに出かけよう」
まさに三文芝居だ。
こんなわざとらしい説明口調はおかしいと分かっているけれど、普段からあまり抑揚のない話し方なために、Lは芝居がかっていると思わなかったのだろう、良いんですか?と目を輝かせて問うてくる。
こんなささやかなイベントに喜んでくれる大切な相手の、その期待を打ち砕ける人間が何人いるだろう?
「良いも何も、私がLとワタリと一緒にピクニックに行きたいんだよ。Lは嫌かな?」
答えなんて知っているのに、それでも問うてしまうのはこの子に自分の意思を口にして欲しいから。
こうした方がいい、ああした方がいい、と感情よりも理論を優先するのは大切だが、今の状況でまで、周りの状況を見て言葉を紡がないで欲しい。
「行きたいです。私も……ケイとワタリと一緒に行きたいです」
本当に、この子は強い。
嫌か、嫌ではないかを問うたのに、自分の気持ちで返してくれる。
尊い存在だ。
「じゃあ、決まりだな」
「では、ランチはサンドウィッチにしましょう。私が具材を用意しますので、お二人は好きに挟んで下さい」
ワタリにしては珍しい提案だ。
彼は《L》という存在を特別視しているから、私たちがやると言って退かない限りは家事を手伝わせたことがない。
それなのにサンドウィッチを共に作ろうと言い出すとは、余程Lにとって、そして私にとってもピクニックを特別なイベントにしたいようだ。
その気持ちも分からなくもない。
分からなくもないが、照れ臭い。
「それ以外も手伝うよ。何か出来ることはあるかな?」
「私も、挟む以外にも、何かしたいです」
Lが率先して意見を口にするから驚いた。
この特別な雰囲気に酔わされたのか?ともすれば、嬉しい誤算だ。
「手伝いを申し出るとは偉いな」
手を伸ばして、頭を撫でる。
Lは最初の頃のように、伸ばした手に怯えることはない。
わざとゆっくり動いて頭を撫でると意思表示しているのもあるだろうが、過去に感じていた恐怖を克服出来ていなければきっと身構えていたはずだ。
日々変化し続けるLは、やはり強い。
「では、ケイはパンを薄く切ってください。Lは、それにバターを塗って下さい」
「分かった」
「はい」
先ほどまで朝食を食べていたテーブルにパンとパン用のまな板とナイフ、そしてバターとバターナイフが置かれた。
ナイフを持つ手に力を込めるとパンが潰れてしまうとワタリからの助言を受けて、刃を動かして切り進める。よく切れるナイフに、ワタリが手入れを怠らずにいるのだと知る。ワタリは本当に万能だ。
発明と料理は似ているかもしれないが、更にはナイフの手入れまでしている発明家はいないだろう。
それに比べて己の偏りと言ったら、考えるだけで苦笑ものだ。
こんな大人が子を育てようとするのだから、危険極まりない。反面教師にしかならないだろう。
私がいなくなった後はワタリに全てを任せる予定だから、あまり慌ててはいないのが事実ではあるけれど。
パンを薄くスライスして、Lに渡す。
Lは丁寧にパンの表面にバターを広げてゆく。
たかがサンドウィッチを作るだけだと思っていたが、こういうところで性格が出るから侮れないものだ。
テーブルには次々と具材がやってくる。
ワタリはサラダの水気も取ってください、と私達にキッチンペーパーを渡すとまた台所に戻って行った。
サラダの水気も取って具材が一通り揃ったテーブルに、サンドウィッチに合わない材料が少しだけあって、Lの目が釘付けになる。
その状態がおかしくて、危うく笑いそうになった。
「フルーツサンド用ですよ」
クリームの量からして、きっとLだけの為に用意したのだろう。
それにしてはフルーツの量が多い。
ワタリがまさか誤算するとは思えない。
私が考えていることに気付いたのだろう、ワタリは微笑んで言葉を付け足した。
「全てサンドウィッチに出来る量ではありませんから、つまみ食いは今回に限っては大歓迎です」
普段は駄目だけれど、今回だけ特別だと言外に含まれている。
それはピクニックの日は特別に溢れているのだと言っているようで、Lは驚きと嬉しさに表情をコロコロ変える。
ワタリの気配りが、Lにとっての今日という日をより色鮮やかにしてくれたのだ。
ただ、Lも私もつまみ食いはしたことがない。
Lに至っては、育った環境からつまみ食いに対して恐怖を持っている可能性が十分にある。
凝視するだけで動かないから、試食してごらんと言ってLにフルーツを渡した。
食べていいのかと目で問うてくるので、私も一つ自分用を取って、口に含む。
苺の甘酸っぱさが口に広がって、晴れやかな気持ちになった。
それを見たLは安心したのだろう、苺を嬉しそうに口にする。
果物を数粒食べて、サンドウィッチ作成を開始する。
最初にカスタードと生クリームに手を伸ばしたLに、作ったワタリは満足そうだった。
Lもそれに気付いたのだろう、楽しそうにフルーツサンドを作り始める。
たっぷりのクリームに鮮やかな果物が散りばめられる。切る時のことを予測しているのだろう、無造作なようでいてバランスを考えて果物が置かれていた。
「美味しそうだな」
素直に感想を述べれば、Lはパチリと大きな目を瞬かせた。
いや、別にそれを寄越せという意味で言ったのではないのだが…勘違いをさせただろうか?
フルーツサンドをもう一つ作るL。
先程の私の失言から、義務的に数量を多く作らせてしまったならば申し訳ない。
Lがフルーツサンドを作るうちに、私はLの分のサンドウィッチを作る。
少しして、目線を感じてLを見れば4つのフルーツサンドが出来上がっていた。
あまりにもじっと見てくるものだから、4つのフルーツサンドとその目線を加味して考えて、理解する。
Lは、私とワタリの分のフルーツサンドを作ってくれたのだ。
「美味しそうなのが出来上がったね。ピクニックに出掛けたら、少し食べさせて欲しいくらいだ」
「っ!はいっ」
いい返事の後は恥ずかしそうに食べて下さい。と声をすぼめて言う。
「私も食べたいですね」
ワタリも察知したのだろう、会話に加わってくる。
Lは照れを隠すように、余った果物をつまみ食いした。
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