デスノ 跡継ぎ 番外 | ナノ
拍手ログ3
「L」
細い背中に声をかければ、Lはこちらを振り返って、どうした、と言葉少なく言った。
その瞳の下には隈が濃く色付いていて、また何日も寝ていないのだと知る。
Lは気になる事があれば寝る間も惜しんで、納得するまで考え通すのだ。
「新しい情報です」
資料を差し出せば受け取って、濃い隈がある目を細めて文字を追い始めた。
きっと今現在、Lの頭の中では今まで得た莫大な情報量の一つ一つと照合し、私が知るよしの無い物へと変貌しているのだろう。
Lは顎に手をやって、少し唸った。
なかなかに難しい内容なのだろう。
しかし情報が書かれた紙を見据える瞳は、疲れた色を微塵も浮かべていない。
瞳は紙を透かして、事件の未来を見ているようだ。
「ワタリ、セントラルシティでカーニバルが行われるのは来月の一日だったな」
「はい」
Lは頭の中でカレンダーに予測される出来事を書いているらしく、成る程、と言った。
Lの中で、何かが収束したのだろう。
お気に入りのソファから立ち上がると、数冊あるファイルの中から一冊を開いた。
ページを数回捲ると、顎に手をやりながら瞳は文字を追う。
そして、何の表情もないその顔の一部、口の端が僅かに上がった。
落ち着いた歩調で通信機が置かれたテーブルに近づく。
それは、警察に連絡するときのみに使用する通信機である。
そこで悟る。
この事件は、もう終焉を迎えるのだと。
そしてその終焉は、来月の一日のカーニバル付近で起きるのだと。
私はLの部屋から出た。
警察への連絡を終えれば、Lも部屋から出てくるだろう。
そしてリビングで、これまたお気に入りのソファに腰掛けるのだ。
それは事件を一つ終わらせる度に得られる、Lのささやかな休憩時間。
さあ、お茶の準備をしよう。
Lが部屋から出てきた時に、待たせる事無くスコーンと紅茶を出そう。
Lは寝不足だ。
そして、一般人の認識からして、疲れているだろう。
今日はハーブティーを淹れるとしよう。
どのハーブにしようか。
Lは今、とても疲れている。
けれどこの休憩時間を終えれば、すぐに次の事件を追うのだろう。
ならば、ペパーミントが良い。
神経の働きを良くするし、疲労で弱っているだろう全身の代謝を活性化させ、消化器の機能の促進をしてくれる。
さらに精神的な疲労を和らげてくれるのだから、これほど良い物は無い。
お茶を淹れる準備をしていると、Lが部屋から出てきた。
早くに通話が終わったのに、少しばかり驚く。
Lは何も言わずにソファに腰を下ろし、これから陽射しが強くなる窓の外を眺めているらしく、テレビをつけさえしない。
スコーンの横には甘みの抑えたホイップクリームと、ブルーベリーのジャムを添える。
ティーポットの中で茶葉を蒸して、砂時計をその隣に置く。
それら一式を載せたトレーをLの前、ガラス製のローテーブルの上に置くと窓の外を眺めていたLがこちらを向いた。
そして瞳を細めて、事件の時とは異なり柔らかい笑みを浮かべた。
「メントールの香りがする」
「今日はペパーミントですよ」
「それは良い。脳天から爪先まで一掃されるようだ」
砂時計がすべて滑り落ちるまで、Lは穏やかに待った。
ハーブティーを淹れて、一口飲む。
すると、彼女は微笑んで美味しい、と言った。
それから数年。
ホテルを転々としていたLは、昔から代々Lの隠れ蓑として使われていた住居へと訪れた。
そこに一カ月以上いる予定は無かったのだが、どこでどう転ぶのが分からないのが人生と云うもので、もう半年も此処に居る。
Lとしては決してそのような危険に身を置く事は考えられないのだが、もう彼女は『L』では無く『ケイ・クウォーク』という人物になったのだから、そんな事はどうでもいいのだ。
小さな少年、今は『ビショップ』と名乗る子供と共にリビングへやってきたケイは、おはよう、と極普通の、しかしLであったならば決してワタリである私には言う事が無いだろう単語を吐いた。
「おはよう御座います」
ビショップも初めて会った時とはまるで変わって、普通に挨拶を言えるようになった。
二人とも、目の下の隈は薄い。
「おはよう御座います。紅茶を淹れますね」
「ありがとう」
「ありがとう御座います」
茶葉が並ぶ棚を見る。
もう、朝からハーブティーに頼る必要はない。
最近は偶の夜に、おやすみなさいと言う代わりに出すくらいだ。
今朝はアッサムに少しバニラを入れよう。
朝からたっぷりのミルクと砂糖を加えれば、きっと窓の向こうに広がる晴天の世界のように、元気な一日となるだろう。
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